先ずは褌じゃな! (買い出しに行こう!)
……
「これは一体、何事かね?」
ぼさぼさ頭のアールカエフ。目をこすりながらの登場。
「すげぇぞぉ! アール母ちゃん!」
ガハルトやカンイチの組手の様子を見て興奮したのか、走り回っていたリンドウ。報告に来た彼をぱっと抱きしめ捕縛する。
改めて鍛錬場を見渡せば、多くの兵が倒れ、その中央で肩を組み語らうアカジンとガハルト。
こちらでは、投げ技の指導をしているカンイチ。その周りにも兵が転がっている。その中にイザーク君も……
「あらぁ、あのお方がアールカエフ様ねぇ!」
「うん? 君は?」
じたばた暴れるリンドウを抱きかかえたまま、アカマチに向き合うアールカエフ。華奢に見えて意外に力持ちで頑丈だ。完全にリンドウの動きを封殺している。抱き枕状態だ
「私はアカマチ。よろしくお願いしますわぁ。カンイチちゃんみたいな格好いい旦那さん射止めるなんて! 素敵ですわぁ!」
「だろう! わかってるねぇ! アカマチ君! だが! カンイチはやらんがな!」
「判っていますわぁ。そんな無粋な事はしません。所詮、実らぬ恋……。それに、アールカエフ様の愛を邪魔する不届き者、万死に値しますわ!」
「うむ! いいね! いいね! アカマチ君! そう! 僕たちの愛を邪魔する輩は粉微塵になって死ぬのさ!」
と、未だに逃げようとジタバタ暴れるリンドウを抱えたまま胸を張るアールカエフ。
「さすが、アールカエフ様ですわ!」
何故か意気投合したアカマチとアールカエフ
「どうなっちまうんだ? この始末は?」
改めて周りを見渡すカンイチ……
「どうした? カンイチ? 飯だぞ……。! なんだ! なんだ! この有様は!」
いつまで経っても食事に来ないカンイチ達を呼びに来たディアンも唖然。鍛錬場は死屍累々
「ようわからんわ……そうじゃな。飯にせようか。うん? イザーク君はどこやった?」
が、久々にアカマチ相手に存分に組手が出来て満足なカンイチ、その足も軽い。
「ふぅぅ! 久々に気の入った鍛錬が出来たわ! はっはっはっはっは!」
と大層ご機嫌なガハルト。
分厚いレンガのようなベーコン塊に食らいつく
半面、手足の関節をほぐしながら、朝食を摂るイザーク
「いてて……。アカマチさん、メチャ強いですねぇ。手首とられただけであそこまで動きが封じられるなんて思っても見ませんでしたよ……ごろごろ、あっちこっちに転がされて……」
「おう! アカマチ殿は中々の使い手じゃな! わしも久々に満足いく組手ができたで」
こちらもご機嫌のカンイチ。肉多めだが、今日の朝食は美味い!
「……カンイチさんも十分に化物ですもんね。途中から記憶がないわ……俺」
「ふふふ。まだまだ鍛練がいるのぉ。イザーク君。それにしても強い、強いのぉ。ここんちの軍は」
「ああ。サヴァなんか赤子以下だな。さすがは帝国軍。この練度が高い軍なら国境突破なぞ難しかっただろうな」
と、アカジン軍の強さを絶賛する二人。
「そう? どのみち、魔法でポン! だけど? 何人いようと?」
と、こちらも分厚いベーコンを頬張るアールカエフ。
「……アールはの」
「……アール様はそうでしょう」
「かっけぇ! 俺も強くなりたい!」
ベーコンにフォークを突き刺しながらリンドウ。
「うん? リンドウも脳筋になりたいのかい?」
「なんだ? のうきんって? アール母ちゃん?」
「そうねぇ……。ガハルト君みたいな? 脳みそ筋肉ダルマ? 戦いの事しか考えられなくなっちゃう変な人?」
こてんと首をかしげるリンドウ。その頭を優しく撫でて言い聞かせるアールカエフ。
「……おい。アールよ」
「……アール様……」
齧り途中のベーコンをフォークに刺したまま固まるガハルト。イザーク君は大きく頷いている。もちろん、ガハルトの視界に入らないように。
「う~ん。カンイチ兄のほうがいいな! アカマチのおっちゃんみたいなのも!」
「よかったねぇ~。カンイチ」
「……う~ん。彼の御仁と同じにみられるのはのぉ。少々納得いかんがの」
「いいじゃん。アカマチ君は良い人物だよ? ぷくす」
「……そうじゃがの」
……
「お出かけするぞ~! リンドウ? お~い! リンドウゥ! あのヤンチャ坊主、どこいった? キキョウ、お出かけしようね!」
「うん! アールお母ちゃん!」
「リンドウなら外にいるじゃろ? フジも行くかの?」
『ふむ。行くとしようか。折角の新しい町だ』
外に出ると、アカジンの隊の連中に混ざってナイフを振るリンドウ。アカマチが指導してくれているようだ。
「あらぁ、カンイチちゃん! お出かけ?」
「うむ。リンドウが世話かけてるようで」
「いえいえ。構わないわよぉ! 中々筋が良いわねぇ。リンドウちゃん! 狼人のセンス? スタミナもあるわ。で、この、カンイチちゃんの”じって”? 面白い武具ねぇ。ウチの隊の備品にしたいわねぇ」
「うん? するとええじゃろ? 別に?」
「もぅ! カンイチちゃんは。特許とかあるでしょうに?」
「そうかのぉ……。褌と一緒かの?」
「ええ!? フンドシぃ? フンドシもカンイチちゃん?」
「ん! 褌を知っておるのか! アカマチ殿!」
「え、ええ、帝国で噂になってるわ! この国でも大きな町で売ってるわよ! ぅうん? ひょっとしなくてもカンイチちゃんて大金持ち?」
「さて、どうかのぉ? が、作ってる所があれば有難い! 買いに行こう! 店教えてくれるかの?」
「ええ、お安い御用よぉ! 私も愛用してるの! ピンクの白抜き水玉の!」
「そ、そうかの……」
他人の褌の柄など別に知りたくなかったが。しかもガハルトと一緒かと。
十手の件はダイインドゥと相談してもらい、話しが付けば鍛冶師ギルドの方に発注してもらうようにと。
今日はリンドウの服やら褌も買うので鍛錬中だが連れ屯所を出る。
……
「よぉし! 先ずは褌じゃな!」
「ええぇ? そう? 普通、串焼きだろう? ねぇ、フジ殿?」
『うむ! だろう? お爺?』
「だろう! カンイチ兄!」
と、フジの口調を真似るリンドウ
「だろう! だろう!」
それを嬉しそうに真似るキキョウ
「そうかよ……」
と言いながらも思わずにやけてしまうカンイチ。可愛い子達だと。
「デレデレだな。カンイチは。まぁ仕方なしか! んじゃ、先にフンドシ屋に行こう!」
「「おう!」」
「うむ。後でイザーク君とガハルトにも教えてやらんとな」




