「「ほぅ!」」 (演習場にて)
……
「この宿舎をお使いください」
駐屯軍屯所に到着。ずらりと並ぶ兵舎の一つがあてがわれた。士官用の建物か造りもゆったりとしてるし、小さな厨房そして、大きな暖炉、広い居間。おまけに湯船のある浴室もある。
「世話をおかけする」
「いえ、ではごゆっくり。夕食は此方で用意させております」
「それは……」
「今日だけですよ。カンイチ様」
今まで行動を共にしてカンイチの人となりを大分掴んだようだ。あしらいも上手い。
「うむ。世話になります」
ティーターとダリオンが出ていく。
「世話になれば良いじゃん? 別に? 用意してくれてるのだし?」
カンイチが頭を下げるのを見て、アールカエフ。
「いや、のぉ。あまり借りを作るのものぉ」
「そんなことより、いよいよダンジョンだな! カンイチ! くぅううーー!」
あまりの嬉しさに悶絶するガハルト。それを不憫そうに見つめるカンイチ……
「まぁ、そうじゃな。ワシらも出るが情報収集頼むぞ? ガハルト。ちゃんとの!」
「おう! 申請はエルフ殿の方でやってくれるというしな。今思えば、フェンリルなんて書けねぇわ」
「でも、何で書くんじゃ?」
「そりゃぁ、ダンジョンから”溢れた”魔獣やらと区別する為だろう?」
「ふ~ん。良く解らんが……」
「まぁ、いいさ。申請は任せられた。俺らは潜るのみ!」
「そうじゃがのぉ」
落ち着きなくスクワットをしだすガハルトを不憫そうにみながら。
「なぁなぁ、カンイチ兄ちゃん。俺たちは?」
「うん? リンドウは悪いが留守番じゃな。ティーターさんが勉強見てくれるそうじゃ」
「……勉強? つまんない……」
「計算できないと、買い物もできんぞ。後はわしらが無事に帰ってくるように祈っててくれ」
「うんむ! リンドウ! 沢山お宝貰って来るから楽しみに待ってるんだよ?」
「おぅ……」
何時ものヤンチャぶりからは想像できないくらい心配している表情が見て取れる。
「大丈夫! 大丈夫! 僕は死なないさ! イザーク君はどうか知らないけどぉ?」
「はい? またですか? アール様! その死亡確定やめてください! 縁起でもない!」
「し、心配なんかしてねぇし!」
「うんうん。いい子、いい子」
「撫でるな!」
……
早朝、毎朝の褌洗いからの武術鍛錬。
当然だがぞろぞろと兵が出て来た。彼らの朝の鍛錬が始まるのだろう。その中から5人の男がカンイチ達の方に。
一人は隊長格だろうか。他のものよりも上等な革鎧を纏う。腹の辺りは金属だ。
ここは軍隊。皆引き締まった体をしており、だらしない腹のものはいない。練度も高そうだ
「貴殿らが、例のお”客人”様ぁ?」
「うむ。世話になっている」
訝しげに思いながらも応えるカンイチ。
「あらぁ、なかなかにいい男ねぇ。私はアカマチって言うのぉ、ここでは分隊長を務めているわ。よろしくね」
そんな中、あまりにも特徴的な分隊長。年は20代前半、身長は180cmに届くかどうか、細身で金髪の綺麗に揃えられた顎髭が特徴的な男? だ。握手を求めて手を差し出してきた
「ワシ……私はカンイチという」
挨拶しながらその差し出された手を握る。
「む?」
「ぅほぅ? やるわねぇ! カンイチちゃぁーーん! 強いって聞いてたけどぉ! 本当ね!」
「ふむ、おもしろいのぉ。手取り術か。この世界にもあるのじゃな」
握手と見せかけ、不意を突き、カンイチの手首の関節をキメに来たアカマチ。
決まる前に手首をかえし、躱し、力を逃し、逆にアカマチの手首をキメに行ったカンイチ。一瞬の攻防。対処できねば膝をつかされ、無様に地面をゴロンゴロと転がされていただろう。
「うぅん? 世界ぃ? まぁ、世界は広いわねぇ。よくも初見で対処できたわぁ! ねぇ! ウチの隊に入らない? 可愛がってあ・げ・る♡」
「い、いや、遠慮しておこう。ワシは農家じゃで。それに妻帯者じゃし? 後、ダンジョンに潜るでの」
「はぃ? 農民がそんなに強い訳ないでしょうよ! ……ふぅむ。猪相手に取っ組み合いしてると強くなれるのかしら?」
アゴに人差し指をあて、考え込むアカマチ。
「まじですか? 分隊長?」
「姐御の関節とりをかわした? すげぇ」
「ええ! すごいわよぉ! このカンイチちゃんは! って、奥さんいるのぉ! その年で! はぁ、残念……」
「またもや撃沈したぞ……」
「おいたわしや……」
「ええぃ! うるさいわよぉ! アンタ達ぃ!」
盛り上がる警備軍の面々
「何を騒いでいる! アカマチ!」
「げ、ゴリラ……」
「姐御ぉ」
「うん? この方たちが?」
大声轟音!
ティーターとダリオンと一緒に金属の胸当てと金属の籠手を身につけた筋骨隆々の大男があらわれた。
「お初にお目にかかる。ワシはマータイ帝国軍・アマナシャーゴ方面軍・ダンジョン警備軍所属、アロクゴーナ隊、隊長のアカジンと申す」
ガハルトに匹敵する鍛え抜かれた筋肉の鎧。年齢は40に届くか。人族の大男だ
「これはご丁寧に。わしはカンイチという」
「面白いのよぉ。隊長ぉ、カンイチちゃん、強いんだからぁ!」
「ほう。うん?」
「うん? どうしたカンイチ?」
宿舎からぬぅと現れたガハルト
「「ほぅ!」」
「あら」
鉢合わせるガハルトとアカジン
向き合った二人の大男。しばらく無言のまま時が過ぎる。徐々に肩の筋肉が盛り上がり、背が緊張し脈打つ。
「どれ! 手合わせを願おうか!!!」
「おう! 是非とも!!!」
駆けだすアカジンとガハルト! 鍛錬場の方へ!
筋肉の語らい? お互いが求めあったのか? 肉体言語で手合わせが決まったらしい
「……困ったもんじゃな」
「ええ。まぁ脳筋隊長の相手ができるのがいなかったから丁度いいわぁ」
「貴殿……であれば相手できよう?」
「う~~ん。なんか違うのよねぇ」
早速と、刃引きの金属の剣を打ち鳴らす音が
「お~~い。ダンジョン前に怪我すんなよ」
「ぅおおおぉおーー!」
だめだこりゃ。と諦めるカンイチ
「ねぇ、カンイチちゃん。私達もぉ♡」
「む?」
すすっと、寄って来て腕を取るアカマチ、そのまま投げを打つ! 殺気は籠っていないが、十分気の入った投げだ! 逆らわず、身を預け自ら飛ぶ。変に耐えれば腕が折れる
「あら!」
投げがすっぽ抜けたかたちだ。そのまま回転し、巻き込もうとしていたアカマチ、半回転余計に回され背から落ちる。そのままアカマチの腕に手を絡め、肘をとる。アカマチもさるもの自ら前転しそれを外す
「ほう、柔らかいのぉ」
「カンイチちゃんこそ!」
アカマチの右手首を右手で掴んだまま立ち上がる二人
今度はカンイチ、掴んでいた手を引き、しゃがみ込むように横から潜り込み、反り投げを放つ! 柔道技でいう谷落に似た技だ。
「へぇ?! げふぅ!」
十分に引き手を引いた投げ、飛んだところで簡単について行ける。そのまま背から落とす。すかさずとった腕をキメに掛かる
「た、たんまぁ! げほ。面白い投げねぇ」
パンパンと砂を叩きながら立ち上がるアカマチ
「よぉしぃ! 燃えて来たぁ! 行くわよ! カンイチちゃん!」
……




