魔法
……
畑をぶらり。クマたちを存分に走らせ、南門へと戻ってきた。
「おう! どうだった? カンイチ。害獣の様子は?」
詰所から飛び出して迎えてくれたのはハンス。
「ええ。兎、随分と巣作ってますね。穴だらけでした。結構獲れましたよ。なぁ」
”ぉふ!” ”うわふ!”
ハンターたちの首を撫でる。
「だろう? 捕まえるのも大変だし、手間賃も安いしなぁ。依頼出ても誰も受けないわ」
「なるほどの。誰も手を出さぬのなら丁度いいのぉ。クマたちの餌場にぴったりじゃ。良い散歩にもなるしの。そうそう、この辺りの猪、ちいとも逃げぬの……猪、逃げないですね」
今更ながらに言い直すカンイチ。ハンスも他の隊員の目も温い。
「普通でいいぞ、普通で。バレてるし」
「こほん。年相応の……」
「くっくっく、まぁ、好きにしろ。ああ。ここらの猪は人を舐めてるからなぁ。俺ら武装した者が出ていくと逃げるが、農民や一般人なら向かって来るほどだ」
「それも狩って良いんですか?」
「ああ。かまわん、かまわん。かえって助かるわ。肉屋でも高く買ってくれるぞ。鹿も熊もな。魔物の目撃例は今んとこねぇが、あったらそいつも頼むわ。はっはっはっはっは」
「ええ。勝てそうでしたら」
クマたちの餌の目途がついてほっと胸をなでおろす。こっちに来てから、己もだがクマたちも食う量が増えた。まとまった金が入ったとはいえ目標もある。自給でき、しかも只ならばいうことない。
折角だからと、色々と情報収集を。
兎などは耳を門、ギルドに出すと小金がもらえるとか、肉は直接肉屋に持って行った方が良いとか、皮の鞣すところを聞いたり。傷薬等ギルドで買うと高いからと”冒険者”御用達の店を聞いたり。
どの情報も此処にリスト・ギルド長が居ればきっと眉をひそめたに違いないものばかりだ。
鍛冶屋の場所も聞いた。山刀は銃剣にしては少々長い。それに切るための刃物だ。銃剣は突きに重きを置く。金のあるうちに予備も含めて購入するつもりだ。
「では、また!」
「おう!」
……
先にクマたちを裏に繋ぎ、宿舎に入る前に”収納”から兎を出し、入口に回る。お裾分けだ。
店番じゃないが、女将さんがデンと鎮座していた。
「おかえり、カンイチ。そうそう酒届いてるよ。結構飲むのねぇ」
「ただいま戻りました。嫌いじゃないですが空樽が欲しくて。何か実のなる木でも植えようと思いまして」
「あら。それなら、家だって空樽出るのにぃ。散財させちゃったわねぇ」
「ははは……どのみち飲みますから」
そういえばそうだ。先に声をかけるべきだったな。ま、酒は人生の良き友。良いだろうさ。と自分に言い聞かせる。
「そうそう、野兎10羽ですがお裾分けで。菜っ葉もいただいたので。ここって結構人います? 足りなかったかな?」
「はっはっは。気にすることないさ。ありがとさん!」
その夜は兎のローストが出た。こんがり、きつね色。オーブンでじっくりと焼かれた肉汁たっぷりの逸品だった。
部屋に戻り、早速購入した蒸留酒を頂く。
「うむう。小さい樽と思ったが……。外で見るのと部屋にあるのとではだいぶ違うのぉ。すごく邪魔じゃな。ま、仕方なかろう。蛇口みたいのがあると楽なのじゃが……」
そういいながらも、樽を軽軽と持ち上げるカンイチ。
「うむ。ここはお湯が欲しい所じゃが……。そうだ、確かこの世界には魔法があるんじゃ! 魔法じゃ!」
神様のお言葉を思い出す。
「ところで魔法って何じゃ? 孫らの、でーぶい、でーじゃと、何やら呟いて……手を翳したりしておったなぁ」
目をつむり、何やら、ごにょごにょとつぶやくカンイチ。
「……をお恵みくだされ。熱いお湯を……お湯を下され……お湯を出してくだされ……お湯よ! 出よぉ! ほれ!」
……気持ちはわからなくもない……
もちろん何も起こらない。
「ま、そんなので、湯が出る訳は無しか。素直にコンロみたいなの買う必要があるの」
諦めたようだ……
水で割ってちびりちびりと舐めるように蒸留酒を楽しむカンイチ。
「やっぱりお湯が欲しいの……。水割じゃ物足りんわい」
目を閉じ、集中。再び挑戦する様だ
「良し……水から挑戦してみるか。水素と酸素じゃったか? 爆発せんとできんかったか? はて?」
うんうん悩むカンイチ
残った蒸留酒をあおり、こそこそと床に潜り込む。
考えることをやめたようだ
「この辺りも明日、女将さんにでも聞いてみよう」
と。そのまま目を閉じる……
……
「うぅん? お湯だって? そんなの、厨房に貰いにいきな。うん? 火が落ちてたら? そりゃぁ、諦めだねぇ。はっはっは!」
カンイチの要望に笑って答える女将。身も蓋もないのだが……。食事をとっていた受付嬢達も女将の答えに少々呆れ顔だ。
「女将さん、ダメでしょうよ。それじゃぁ。カンイチ君、ポットくらいの少しの量でよかったら、”魔導コンロ”売ってるわよ。魔道具だからちょっとお高いけど」
「うんうん。自分で”魔力”込められたら大分お得よ。何せ、”魔力”はお高いからね」
「そうそう。ここ、寮だから木炭とかのコンロは禁止されてるからね」
と、受付嬢からの情報に
「”魔導コンロ”か……」
つぶやくカンイチ。
――魔力を使うようじゃな。魔力はなんぞじゃ? 燃料かのぉ? お高いようじゃ。自分でこめる? できれば只かのぉ。さて、この辺りも確認がいるのぉ。魔導? 魔法の一種かなにかかのぉ?
今日は就寝前のお楽しみ。お湯割りの為、その辺りに取り組むことを決めるカンイチ。
「そうねぇ、道具屋の『アール魔道具店』さんとこならお安いと思うわよ」
「かも。自分で作ってらっしゃるから」
「ありがとうございます。今日行ってみます」
「いいのよ~~」
「そうそう。昨日、兎ご馳走さまぁ~~」
どうやら彼女たちもご相伴にあずかれたらしい。
魔道具屋の情報やも仕入れられた。クマたちを連れて早速、町に買い物に出発だ!




