いいなぁ。こういうの。ね! (街の中で)
……
「掘り出し物があると良いねぇ! カンイチ」
「そうさなぁ」
朝食後、街に出て来たカンイチ。リンドウ、キキョウも一緒だ。もちろんフジもいる。
この町の構造上、道幅はあまり広くはなく、人の出はそんなに多くないのだが、ひしめき合ってるようにもみえる。逸れないようにキキョウの手を握るのはアールカエフ。キキョウも嬉しそうだ。そんな中だがカンイチ一行の周りにはスペースができる。大きなハイイロオオカミの恰好をしたフジがいるからだ。本来のフェンリルの姿だったら人など逃げて誰一人いなくなるだろうが。
『掘り出し物の串焼きならあすこだ! お爺! 行くぞ!』
と、そのフジが手綱を引く。目指す先は脂煙を吐き出す屋台だ。
「フジ様! 俺も食う!」
「はい! フジ様ぁ! くしやきぃ~~」
と、続く子供達。
「おいおい。朝飯、鱈腹肉食ったばかりじゃろが。それに、フジよ串焼きの掘り出し物って何じゃ?」
『細かいことはどうでもよい。お爺! 買ってくれ!』
フジに引かれて屋台に。冒険者風の男達もいて中々の繁盛店のようだ。
「まったく……オヤジさん、その串焼きを 『我は三本だ』 「俺二本!」 「いっこ!」 「んじゃ、僕も一本ちょうだい!」 ……七本くれ」
甘辛い味付けの大振りな串焼きを小麦粉の薄焼きで巻いて食う作法のようだ。
「へぃ!」
テンポよくひっくり返される串焼き。その動きに合わせて目を輝かせる子供達と、魔獣、そして、肉食エルフ。
「……やれやれ」
近くのベンチに腰掛け、串焼きタイム。フジの分は串から外し木皿に移す。
『ふむ? これは何の肉だろうか? 随分と甘いな』
「兎に近いけどぉ……何だろ? うん? カンイチは食べないの? 一個あげようか?」
「カンイチ兄、食わないのか? 大きくなんないぞ!」
「……わしはいらん」
タダでさえ朝から、肉、肉……と辟易しているカンイチ。げっそりだ。白米と、梅干しが懐かしい。贅沢を言えばアジの干物も……
「美味しいよ! おにく!」
「うん? それはよかったね! キキョウ。串ささないように食べるんだよ? をぉ! 正面から行くとは……中々のチャレンジャーだな! キキョウは!」
「止めよ! アール! キキョウ、のどに刺さるぞ! 横から! 順番に……」
野菜の売られてる露店、茣蓙に日用品やら骨董品を並べる露店、この一角は食用の肉類か。生きたままの山羊やら小動物が売られている。
「なかなか無いなぁ。掘り出し物……」
「ふふふ。そういうものは出会い物じゃてな。あまり欲こいてると余計、見つからんぞ。アールよ」
「そうね。ふぅ、それにしても平和だねぇ。キキョウ、疲れてないかい?」
「だいじょぶ!」
「……いいなぁ。こういうの。ね! カンイチ!」
「そうじゃなぁ」
……
「おい! 見てみろよぉ!」
「はん?」
「ガキが、ガキ連れてんぞ? ままごとかぁ、おぅい!」
「ん? しかも獣人のガキじゃねぇか!」
ランチの時間。大通りに面した食堂で昼食を摂っていると、平和だねぇと言った先から、チンピラに絡まれる。
怯えるキキョウの背を優しくなでてやるカンイチ。リンドウは唸り声を上げるも……尻尾は下がっている
「余計な世話じゃ。わしらの邪魔しないでくれ」
と、チンピラに目もくれないカンイチ。
「はぁ、犬の獣人に犬まで連れて犬くせぇ……。! な、なんだこの感じ?」
「お、おい?」
『我が臭いだと……貴様らの方が数倍臭いが……』
ゆらりと立ち上がるフジ。念話は届けていないようだが、殺気は十分に届いているらしい。
辺りをきょろきょろと見まわすチンピラ共。
「おい、フジ! アール、頼む! 血を見る!」
「な、何かしたか?! が、ガキ!」
「そ、その狼? か!」
急に殺気を当てられ、まさに、狼狽える盗賊共
「は? カンイチ? 僕でも血、見ちゃうかもよ? フジ殿の言う通り。風呂くらい入りなよ? 臭いぞ? 君達? 今なら見逃してあげるから、サッサと逃げなよ?」
「な、何ぃ? このメスガキ? ……ひ?」
ぽろぽろぽろ……
アールカエフの肩を掴もうとした男の右手、親指以外の指が地に落ちる。
溜息と共に天を仰ぐカンイチ……
うんうんと、納得顔のフジ。
「ほらね! 血、でちゃった。で、その汚い手で僕に何をしようというのだい? 動くなよ? 動くと死んじゃうかも?」
「ま、魔法?」
「い、いてぇ、いてぇよぉ……」
「え、衛兵呼ぶぞ! このクソアマぁ!」
「構わないよ? 手、出したら衛兵も同じ目に合わせるだけだしぃ? 指ポロ?」
パサリとフードを除ける。さらりと零れる翡翠色の髪……
「……ハ、ハイエルフ? さ、様……」
「ひ」
多少の殺人も許される、免罪符の翡翠色の髪と尖がった耳……
そもそも、エルフにとって”殺人”は同族のエルフにのみ適用される。短命で、魔法も碌に使えない短命な人族なんかは人とさえも思っていない。極力人族との関わりも持たないようにしている。
中にはアールカエフのように人族の世界に出てくる者もいる。そういった者も引き籠ったり、村や町の外れに居を構え生活をしている。
踵を返し、逃げ出そうとするチンピラ。その背に
「逃げるな! 死ぬぞ。で、何の用だい? 僕に?」
一歩も駆けだすことも無く、諦めてアールカエフに向き直るチンピラ。がくがく震え、顔面も蒼白。死を覚悟したのだろう。魔法よりも早く逃げることは不可能。生きるためには魔法を行使される前に術者を倒すか、降伏のみ。相手は、ハイエルフともなれば
「い、いえ……」
「僕たち家族の楽しい団欒に乱入してタダで済むと? 他のお客様にもいい迷惑さ! そうだなぁ、お勘定頼むよ? ここにいる他のお客さんの分も? それで許してあげよう!」
「え……」
「ん? 安いもんだろう? その首で支払ってもらっても構わないよ? 僕は? どうする?」
「……だ、出させていただきます……」
「は、はい! エルフ様! み、皆様! お騒がせしましたぁ!」
「うんうん。その方が良いと思うよ? ね?」
「……は、はい」
「お、お騒がせしました……すいません……」
「ほら、指! 忘れものだよ! 治癒師に頼むか上霊薬かければくっ付くかもよ? 急いだ方が良いよ? 腐っちゃうぞ?」
「ひ……」
「は、はいぃ!」
金貨を数枚置き、こぼれた指を回収し逃げていくチンピラ共
……
しんと静まった食堂も徐々に日常の賑わいに戻っていく
「うん? どうしたのさ? カンイチ?」
「いや、のぉ」
「これでも手加減してるんだぞ?」
「……そうじゃな。わしらも行くか……」
騒ぎを起こした手前、少々居心地が悪いカンイチ。
「まだ食事中だぞ?」
「こ、怖ぁ! こえぇ! アールお母さん? お母さま?」
リンドウの純真な心に恐怖を植え付けたようだ……
「ふぅ、やれやれ……」




