”がぁぉごぉおん!” (アーティファクトとは)
……
アールカエフとダリオンがアーティファクト云々について話しているが、そんな事は他所に散弾銃を構えイメージを固めるカンイチ。
頭の中はライフル弾。しかも大きく! 大きな弾丸、それを飛ばす火薬……その火薬を納める大きな薬莢……想像が膨らみ、巨大な50口径(12.7mm)ライフル弾相当の大きさに。”かしゅん! ”装填される感覚……
銃身も変化を見せる。銃身が長く、先端には跳ね上がりを押さえるマズルブレーキも現われる。
「ぅうん? 師匠? なに? ……それ?」
カンイチが銃を構えた辺りから見ていたミスリール。銃の変化に驚き声を上げる。
構わずトゥローが放った丸太に向かって引き金を絞る。
”がぁぉごぉおーーん!”
轟音と共に想像以上の反動で後方に吹っ飛ぶカンイチ。
「はぁ!? 何やってんの! カンイチぃ!?」
「し、師匠!」
慌てて飛んでくるアールカエフとミスリール。
「おおぅ、いてて……。尻を打ったわい」
と、尻を叩きながら立ち上がるカンイチ。その右腕は肩のあたりからぷらり。
「おうん?」
「はぁ? 尻って! 肩外れてんぞ……君ぃ!」
「は? 油断したわ……」
「どれ、見せてみ?」
”くい” ”こきん!”
アールカエフ先生の見事な技により、無事に肩をハメてもらう
「ありがとうの。アールよ。いやぁ~~びっくりしたわい!」
「ビックリしたのは僕の方だよ! まったく! いきなり吹っ飛んでいくんだもの! 肩が砕けたかと思ったさ!」
ふぅ、と胸を撫でおろすアールカエフ。轟音とともに後方に吹っ飛んで行ったカンイチ。それは心配したものだ。
「す、すまんのアール。どれ、木はどうなった?」
「おう! 見に行くか!」
目を輝かせたガハルト、ミスリールに続き、カンイチもワクワクしながら丸太の下に。
カンイチの放った弾丸は丸太にはぽっかりと綺麗に小さな穴をあけていた。向こう側も見えている。
後ろに回ってみる。多少、射出孔の方が大きく、僅かながら木の破片も散っている
「うん? 小さな穴しか開いてないのか?」
小指を突っ込んでいささか期待外れのガハルト。
反対に興奮してるのはミスリール。
「違うって! ガハルトさん。あまりの威力で礫が突き抜けたんだよ! この丸太を! す、すげぇ! 人の頭ならたぶん後頭部、頭蓋骨や脳味噌もろともそっくり吹き飛んでるよ。胴体だって!」
「そ、そうなのか? 専門家のミスリールが言うんだ、そうなのだろうな……。アール様の言う通りだな! カンイチ! もっと強化もできそうだな!」
「そ、そうじゃな。が、もうちょい体ができるまで封印じゃな。一発ごとに吹っ飛んでちゃぁ勝負にならん……」
その言葉に首をかしげるのはミスリール。
「はい? 何言ってんだ? 師匠? 遠くから撃てばいいじゃない? 別に接近戦しなくとも? 銃の台だってこさえてさ」
ミスリールの言う通り。彼女にしてみれば銃剣術は近づかれたときの切り札だ。射手は遠距離から仕留めるのが仕事だ。
物資不足の中で身につけた師匠のカンイチにしたら、撃つより銃剣術! 弾が勿体ない! が、……本来ならば、ミスリールの運用が至極もっとも、その通りである。
「……うん? それもそうじゃのぉ。確かに……の。今は弾もケチらんでええしの。安全なところから仕留めりゃええの」
「カンイチもガハルト君とおんなじ、脳筋君だから。接近戦好きだからねぇ」
「なぁ!? あ、アール? そ、それは?」
ガハルトと一緒? と、狼狽えるカンイチであった
……
「ま、脳筋事情は置いておいて、どうするのこれ? このまま放置? 食えそうも無いものなぁ。はっきりいって不味そう。クマ達に食べさせるのもなんかイヤ……」
街道上に転がる青い二体のトゥローの死体。
「食うのかよ……。アールよ。わしらと一緒の二本足じゃぞ?」
それはなかろうと声を上げるカンイチ。クマらに食わすのはアールカエフと同意見。反対だ。形が人型だから。
「ま、青いし? 毒あるかも? それに、何より臭そうだしぃ?」
「おいおい……散々な言われようじゃな」
「あ、あの、スィーレン様、帝国で買い取らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「う~ん。魔石も小さそうだし……。うん! 構わないよ? 高く買ってよ? ダリオン君!」
「は、はい。ただでさえトゥローの討伐依頼は高価ですから……。しかも青い個体は見かけませんし。研究のサンプルに。たしか、【アティゴナ】に軍の研究施設があったかと」
「ま、良いでしょ。その町まで運べばいいのね! カンイチ、”収納”よろ~~!」
「お、おう? ”収納”っと。こいつの頭ぁどこやった? アールよ?」
「そこいらにあるだろう? 僕は知らないぞ?」
「おう、あったあった。で、襲われていた連中は?」
最後に落された首を”収納”に。
キョロキョロと周りを見渡すカンイチ。たしか生存者はまだいたような……。何とか間に合ったかと思ったのだが、残されているのはバラバラになった者と、妙にねじれ、潰れた者。息をしている者はいない。
「ああ、あの恩知らずな連中? とっくに逃げたよ? 死んだ仲間放って。コボルトの方が”恩”という言葉を知ってるようだし? 随分とまともじゃない?」
「……ま、相手が相手じゃからな。……仕方あるまいよ。馬車も放ったままじゃな。荷、どうすんじゃ? 貰っていってええのかの?」
「ああ、構わんだろうさ。どのみち、事後の交渉で何割かは頂くのだし。放って行ったんだ文句もあるまいよ。金目のものがあれば良いな!」
と、ガハルト。
「「そうしよう! そうしよう!」」
と、ミスリールとアールカエフが半壊した馬車と、荷車の方へと向かう。
……
荷車を検めると大量の布の生地が。巻いてるもの。折りたたんであるもの。高級な布地だろうか、金属製の箱に納められている物……
「おう! こりゃぁ、布屋さんか? ふむふむ。血が付いたのは……村で野菜と交換かな? フジ殿の洗浄ならまっさらになるかも? 良かったね! カンイチ! 褌作り放題だぞ!」
荷車の中を物色中のアールカエフ。ガハルトとミスリールは馬車を検めに行っている。
「いや、そんなには要らんがな……。それにしても結構な数の反物じゃなぁ」
「だねぇ。んじゃ、カンイチ、これ、荷車ごとしまってちょうだい。で、ガハルト君と合流して犠牲者の埋葬をしないとね……」
「……おう、そうじゃな。打ち捨てておくにはあまりにも不憫。……生きて隠れているのが居ないか調べて入れるわ」




