吠えていないでかかってこい! (対、トゥロー)
……
時間は少し遡る。
先に走ってきたトゥローAをカンイチに任せトンファーを構えながらトゥローBの進行方向に立ちふさがる。
”どすどすどす”と駆けて来たトゥローBも目の前の相手、ガハルトの尋常の無い気に怯み、止まる
「ぶぼごぉおぽぉおお!」
両手を地に突き盛大に吠えるトゥローB。威嚇だろう
「ふん! 吠えていないでかかってこい!」
「ぶぶぼぼぼっほ!」
両手の指を組み合わせ頭上に振りかぶり、ガハルトに向かいジャンプ! 両こぶしをガハルトに叩きつける腹積もりだ。
「そんな大技、食らうか!」
身を引き躱す。
”どずぅうん!”
下がった頭部にトンファーを打ち込もうと回り込み、間合いに踏み――込まず、すぐさまバックステップ! 踏み込んでいただろう場所に大きな左拳が通過する。トゥローBのバックブローだ
「ほう。思った以上に反応も良いな。しかも速い」
「ぶぶぶばばばっぼっぼ!」
凶悪に歪む顔、黄色く変色した乱杭歯を覗かせて
「は? 笑ってるのか? お前、随分と余裕だな。ふっ!」
神速の踏み込み、小さな目をこれでもかと見開くトゥローB
”ばきゃぁ!” ”めしやぁ!” ”ばしゃぁ!”
「ぶっぼはぁ!」
くるりと回したトンファーが空中にあったトゥローBの左拳に叩き込まれる。金属製のトンファーの三連撃! さしもの太く丈夫なトゥローの指の骨も砕け、皮膚を破り青い血と共に露出する。
「あぼぼぼぼぉほっほほぉ!」
左拳を右手で押さえ、狼狽えているのかきょろきょろと視線をあちらこちらに巡らせる。
そして一点に。そう、仲間のトゥローAに。が、そのトゥローAはカンイチと戦闘中だ。こちらの咆哮にも反応せず、カンイチを追っている。
仕方なしと、己のこぶしを砕いた憎き相手、ガハルトを睨みつける。
当のガハルトは左右のトンファーを自在に回し、トゥローBの出方を測っている
「うん? 仲間に助けを呼ばなくていいのか? もっともカンイチに足止めを食ってるようだがな」
”ひゅんひゅんひゅん”
「ぐぉぉおぼぉっは!」
振り上げた拳をガハルトに打付けるように振る。サイドに躱す。
躱したところを負傷している左拳が通過する。下がったところに右拳。避けたところに左の拳。ぶんぶんと大振りされる両腕。スピードも申し分なし。当たれば必殺! が、相手はあのガハルトだ。
「ふん。この程度か? その頭は飾りか?」
ぶぅん! と横に振られた左拳、通過するときに後を押すように左肘にトンファーを叩き込む!
”ばきゃり!”
押され、その勢いのままその場で一回転。バランスを崩し膝を突くトゥローB。
「参る!」
”ぶん!” ”ぼぼぐぅ!!!”
未だ、膝を突いたまま、下がったトゥローBの顔面に棍棒の用法でトンファーを叩きつける!
鼻が潰れ、滝のように青い血が流れ落ちる! くっきりと顔面中央にトンファーの跡を残して
ぐるりと白目を剝く。その頭部に
「どぅぉりゃぁ!」
”ぼぐ!” ”ぼご!” ”ぼっごぉ!” ”ばぎょ!”
続けざまに4連撃が叩き込まれる!
「ぶ……ぼぶぼ?! ぶぶっぼ」
その衝撃で右目は眼窩から飛び出し、ぶら下がる。顎の骨も砕けたか口が、がばりと大きく開く。
左瞼はパチパチと開閉を繰り返す。
トゥローBからしたら、こんな小さな餌に良い様にされることは今まで無かっただろう。圧倒的な力を持った魔物だ。
「ぐぉおおおおおおぉおおおおぉぉん!!!」
今度はガハルトの咆哮! バトルクライ! 気が満ち、腕が一回り太くなる! そこから繰り出されるトンファーの連撃!
”ばこぉあん!” ”ばがぁぁぁん!”
口に叩き込まれたトンファーがトゥローBの歯を辺りにまき散らす!
”びきん!” ”ばこ!”
頬にあたったトンファーが頬骨を陥没させる!
”ぶぎゃ!” ”ぶぶっしゅ!”
横に振られたトンファーが耳を潰し、内部を破壊したのか血が噴き出す!
”べきん!” ”ぐきり!”
左顎を捉えたトンファーがグキリと下あごをあり得ない角度にずらす!
”ぼごおん!”
頭頂部にたたきつけられたトンファーが頭蓋を割りへこます!
「ぼ……ぼぼぁ……」
「ふぉおおおおおおおーーーー!」
縦横無尽に振られるトンファー! そのスピード! 破壊力の全てを叩き込む!
”ばきゃ! びきん! ぶぼぉん! べごん! ぼきゃ! ぱきん! ぴきん! ……”
更なる連撃が頭部に叩き込まれ、骨の悉くを砕く!
「ぷぶぴ……ぺ……ぽひひ……」
膨れ上がり、鮮やかな青色に染まる頭だったもの
そのまま前に倒れ込み動かなくなった
……
……
「おう! ご苦労だったな! カンイチ! おかげでじっくりと対峙することができたわ!」
すでに、トゥローBを屠っていたガハルトがカンイチの労をねぎらう。
「ガハルト君だし? もう、タコ殴り。トゥローごときは敵じゃないね!」
「何をおっしゃいます! アール様の魔法も見事! あの太い首を一撃で。ミスリールの矢もな! あの分厚い頭蓋を射抜くとは!」
「はっはっは! だろう! ガハルト君! 復活してから精霊様も随分とご機嫌でね! 威力が数倍あがってるんだよ?」
(無い)胸を張るアールカエフ
「師匠と改良したお陰だよ。新しい技術も取り入れてるからね!」
ぶんぶんと自慢の大きなアーバレストを振るミスリール
「……わしは良いところ、ちぃともなかった……のぉ」
一生懸命闘ったが、逃げ回っているようにも見える。十分に役割は果たしたのだが。良いところなしのカンイチ。少々いじける。
「カンイチ、その”銃”とやらの威力、上げられんのか? もっと大きくとか?」
「おぅん? 確かに! ガハルト君のいう通り。それって、カンイチの”知識”や”常識”の範囲内の威力なんじゃない? カンイチ専用のアーティファクトなんだし? 多少、無理できるんじゃない?」
「む! そうかもわからん! イメージが大事だと言われておったわ……」
「だろう! うん? どうしたね? ダリオン君?」
「せ、専用のアーティファクト……? そんな物……」
厳密にはアーティファクトという物は神から授けられるものとされる。が、ダンジョン等の出物でアーティファクトと呼ばれる貴重なものは数点ある。
ダリオンの目の前のもの、真っ黒な筒状の武器。先ほどの戦闘で轟音と共に何かを吐き出し、トゥローを傷を負わさせた。それが専用? 何者の意思でか。
「うん? ああ、あれね。報告してもいいけどぉ。カンイチ専用だから取り上げる事も無理だぞ? たぶんカンイチと共にしか存在しない」
「は、はい……」




