問題、大ありじゃぁ! (対、トゥロー)
……
フジの超感覚、索敵範囲内に襲われいる集団を確認。その相手はコボルトの群れを壊滅させた魔物と思われる。その数二体。
やり過ごすこともできるのだが、救援に向かうことに。
フジ達、ダイインドゥ夫妻、イザーク、ティーターは子供たちと馬車の護りに。
カンイチ、アールカエフ、ガハルト、ミスリールが先行。ダリオンも続く。
段々と人の声、大きな打撃音などが聞こえてくる! そして絶叫!
街道にくすんだ青い色をした小山が二つ。手も足も生えている。
極端に短い足。突き出た腹と尻。異様に長い手を持ち、くすんだ青い体毛に覆われた二足歩行の魔物。
その右腕には枝葉のついたままの木が抱えられている。それをブンブンと馬車に向かって振り回す
近づくとその顔の様子もはっきりと認識できてくる。頭の上半分は絞ったように小さく知能の低さを表している。小さな目。大きく瘤のような鼻。髭でおおわれた大きな口。その口は最低な歯並びのガタガタな黄色い歯が覗く。
二体いるうちの一体、後方で一休みでもしていただろう個体がこちらに気づき、どすどすと地面を揺らしながら真直ぐ駆けてくる。
どうやら食事中だったようだ。口から飛び出しているのは人の腕。丸太の代わりに握られてるのは人の胴体。
「ひ、ひぃ! ランド・トゥロー? で、でも、青い?」
ダリオンの表情が引き攣る
「ん? 前に聞いたのぉ」
「あれか? 確かに手が長くて人喰いだな!」
”かちり!”
「準備完了!」
「おう! 引き付けてな! 固そうじゃ!」
ミスリールが自慢のアーバレストを肩にあて構える。
「……。今じゃ!」
”どひゅん!”
強弓から放たれた矢が駆けて来たトゥローAの肩口に当たり、その反動で上体がブレる。凄い威力だ
「ごぉぉおおばぁああ!」
腹に響く咆哮! 馬車を襲っていたトゥローBもその咆哮を聞き、顔を上げる。その視線の先にはカンイチ達。新たな餌か? それとも強敵と思ったか、こちらに駆けてくる。
「うるさ!」
”ぎぃい””どしゅ!” ”ぎち””どしゅ!” ”ぎちぃ””どしゅ!”
速射で放たれる鉄矢がトゥローAの大口に吸い込まれる。一本、二本と。三本目は左目の下を抉る!
「ぼぶぼぐぼぐ! ぼぼぼぉおおおぁああ!」
頬から矢の先をだし、青い血を吐きながら吠える、先発のトゥローA。握っていた死体を放り、口に指を入れ、矢を抜こうとするも、そこまで器用ではないらしい。その場で地団駄をふむ。
「うおごぉおおぅ」
後から来た、トゥローBが持っていた丸太をこちらにぶん投げる。丸太は見当違いの方に飛んで行った。
「ふん、武器を捨てるとは! 奴は俺が当たる!」
ガハルトの得物は絶対の信頼を置いている金属性のトンファー。それを両の手に構え、トゥローBに向かって走り出す!
「お、おい! ガハルト! ま、待て!」
「問題あるまい! そいつは任せたぞ! カンイチ! ふん!」
トゥローAの横を駆け抜け、トゥローBに突っ込むガハルト。
「くっ!」
カンイチもまたトゥローAへと向かい駆けだす。カンイチが引き付けないとトゥローAもまたガハルトの方に向かってしまう。流石のガハルトも巨漢のトゥロー二体じゃキツイだろう。か? あるいは本気、バスターソードで対峙すれば?
「問題、大ありじゃぁ! まったく!」
”ずどぉーーん!”
散弾銃の引金を絞りトゥローAの右脛に散弾をぶっ放す
「ぶおごぶ!」
小さい穴がいくつか開いたが大したダメージではないのだろう。
構わず繰り出される長い手から掴みかかり。その手のひらにも
”ずどぉぉん!”
散弾を見舞う。青い血は舞うものの指は健在だ。吹き飛ばすには威力が足りないようだ。
「固いの。いや、その弛んだ皮膚か? 指も飛ばせんか?! くっ!」
その伸ばされた腕をかいくぐり、今度は左脛に
”ずどぉん!”
直ぐに掴もうと手を伸ばしてくるトゥローA。たしかに掴まれたら一巻の終わりだ。
「どうする? 魔法使うかい? カンイチ?」
その様子を見守るアールカエフ。彼女の服の彼方此方は風でふわりふわりと。魔法を行使する準備は調っているようだ。
「いや、まだじゃ! おっと!」
今度は両手が付き出される。緩慢な動きのように見えるが案外早い。巨体故か。カンイチを捕まえて頭からバリバリと齧るつもりだろう
カンイチの顔に迫る大根のような太い指。その指先、爪の間に銃剣をねじ込む!
「! ぐぼぉ! ぐぼぅおおお!」
慌てて手を引っ込めるトゥローA
「お! そこは流石に痛いか!」
カンイチの目的はとにかく、ガハルトの方に行かないようにトゥローAの足を止める事。トゥローBが呼んでも向かわないようにしたい。そして高いところにある頭を下ろす事。踏み込もうにもあの長い手が邪魔だ。
”どごぉん!”
”ずどぉおん!”
両方の足の甲に散弾を打ち込む。
「ぼぉぼぐぼぼ!」
さらに、回り込み、アキレス腱の辺りや膝の裏に銃剣を複数回刺し込む! 切れ味のいい銃剣だが、妙に弾力のある皮膚と筋肉によって思うような傷はつけられなかった。散弾にしろ思った効果は得られていない
「むぅ、くっ!」
慌てて這うように身をかがめる。その上をものすごい勢いでトゥローAの左手が通過する
長い手を生かしたデンデン太鼓のようなブン回しの攻撃だ。右手が来る前に距離をとる
大分足を傷つけたのだが、それを意にせずカンイチの方に。何たる鈍感か。
右こぶしを振り上げる。掴むことは諦め、叩き潰すことにしたようだ。ちょこまか鬱陶しい虫のように
”ずどぉん!”
顔面目掛け散弾を撃つも、敵もさるもの、銃の仕組み、筒の向いてる方に何某かが出ることに気づいたのか、散弾銃を向けた時点で大きな手のひらをかざす。その手のひらの分厚い皮に数個小さい穴をあけるのみ。
構わず振り上げた拳を落とす。
”どずん”
辛うじて躱したカンイチ。地面にくっきりと大きな拳の跡が
「チッ――!」
散弾銃を構え、覚悟を決め、心を震わせ、前に踏み出す! と、その時、びくん! びくん! と、トゥローAの体が跳ねる
「ばあぉ! ごぼぼぉぐぐぐぅぅううぅ……」
大きく目が見開かれ、口から大量の涎が流れ出る。
カンイチなど眼中にないかのようにゆっくりと首を回し、アールカエフとミスリールの方に目を向けるトゥローA。
右手を挙げているアールカエフ。そしてミスリールは例の潟スキーに乗りこみ、マウントに乗せた巨大なアーバレストを操り新たな鉄矢を装填したところだ。
そう、トゥローAの後頭部には太い槍のような矢が二本突き立っていた。流石の怪物の分厚い頭蓋も抜けているのだろう。それでも倒れない鈍覚、いや、生命力か
「なんで鶴嘴使わないんだい? カンイチ? それって、カンイチの美学?」
アールカエフが手を下ろすと、ドサリ。だぶついた肉に覆われた首もお構いなくトゥローAの首を地に落す。風の刃だ。
盛大に吹き上がる青い血柱。
「ふぅ、すまなんだ。危ないところじゃった。美学? そんなもの無いのじゃが……鶴嘴は農具じゃろ? 戦いとは直結せんで……つい、忘れてしまう」
言われてみればと考え込むカンイチ
「ふぅん。他にも作ってもらえば? ほら、大きな牧草用のフォークとか? ああ! 大鎌だってあったじゃん? もっと楽にやっつけられたんじゃない?」
「……そ、そうかの?」
「ま、無事で何より。あまり僕を心配させてくれますな! 旦那様!」
「お、おう。で、ガハルトは?」
「あっちは……まぁ? ガハルト君だし? 剣使えばいいのに? あれこそ美学?」




