行ったか…… (新たな気配)
……
「行ったか……」
恵んだ”霊薬”で動けるまでに回復したコボルト。
礼を言うと山へと帰って行った。
「しかし驚きましたね……本当に同じ言葉をしゃべるだなんて……。しかも、”恩”って言っていましたよ」
「うむ」
「う~~ん。しかし、カンイチよ。これからも回復薬かけてまわるのかよ?」
「さて……な。が、わしらの住んでる町やら、移動中に襲われれば撃退もする。じゃが、散歩ついでの【駆除】というのは、なしじゃな。人じゃ。あれは。甘い……かの? ガハルトよ?」
「どうだかな……。ま、今までもこのパーティの方針みたいなものだったしな。良いんじゃないか。これからも」
「それにしてもコボルトがしゃべるなんて……。実際、その声を耳にしても信じられないわ。見た目は同じでも種族的に違うのかしら……」
「うん? ダリオン殿?」
「い、いえ。確かにそういった研究はされていましたが……労働力にと。ですが、その狂暴性故……」
「ふぅん。なら、ウチの村民に誘えばよかったかの?」
「くくく。では先に村を造らんとな。さすがに連れては歩けんぞ。カンイチよ」
『ま、お互い生きておればまた会う機会もあろう? では戻るとしようか』
「そうじゃな。フジ」
「他の……遺体はどうします?」
「剥ぎ取れそうなものはあるまい? それに……先ほどから沼に妙な気配もある。血の匂いで来たか。離れた方が良いだろう」
「うむ……息を殺してこちらを窺っておるの。フジの存在に躊躇しておるのじゃろう。ここは急ぎ離れよう」
「了解。例の魚人でしょうか?」
「さてな。こっちの……コボルトとやったデカい足跡は森に向かってるようじゃな。ひとまず安心といったところか……。行くぞ!」
用心しながら来た道を引き返す。ある程度離れると後方から”ばしゃり!” ”ざばり!”と水音が。
ガハルト、カンイチの言うように何者かが潜んでいたようだ。足を止め、後方に目をやるもその姿は確認できなかった。
「どうだった? カンイチ?」
「話は後じゃ。アールよ。場所変えるで。親方ぁ! 出立の準備を!」
「おうさ!」
広げていた敷物、簡易テーブルやら茶器を”収納”や、バッグに仕舞い、点呼。すぐさま出立する。
未開の地、魔物蠢く湿地に血臭……何が起こるかわからない。コボルトを駆逐した大型の人型魔物が戻ってくる可能性だってある。
……
”がらがらがらがらがら……”
「で、一体、何があったんだい? カンイチ?」
「コボルトじゃったか? そいつと何か大きな魔物との争いの後じゃな」
「へぇ」
「でな、そのコボルト。わしらと同じように喋りおる。人の言葉をな」
「へぇ! 本当かい?! イザーク君?」
「ほぅ? コボルトがのぉ」
「そりゃぁ、本当かい? イザーク?」
と、御者台で手綱を操るダイインドゥ。荷台のディアン、ミスリールが幌布を除け、顔を出す。
「ええ、アールカエフ様。傷薬一本あげて、傷を治してあげたら、”恩”は忘れない……って」
「へぇえ! ”恩”? ”恩”だってぇ? そりゃぁすごいな! カンイチ!」
「ほ、本当です? ダリオン?」
「……ええ。ティーター。私もこの耳で確かに聞いたわ。念話の類でもなく、しっかりした声だった。実験では手を飛ばされたって獣のように吠えるのみと伝わってるけど……。種類や、種族が違うのかしら……。驚いたわ」
「その前にコボルトに高価な回復薬を恵む方も驚きだけどな」
と、ディアン。
「いえ、ディアンさん。『助けて』っていわれて……。さすがに。びっくりしたけど」
と、イザークが説明。
「母ちゃん……それ言っちゃ。でも、師匠の言う通りだね。……”人”だわ」
「ま、人だろうが魔物だろうが、襲って来れば盗賊同様殲滅だがな。今まで通り距離を置くって事で良かろうよ? なぁ、カンイチ」
「そうじゃな。それでええと思う。わしもギルド脱退したし、『駆除』やらの指名もこないで問題なかろう……うん? ガハルト……か?」
「ま、その時は断わりゃいいだろ? ……指導種みたいな強敵がいれば別だが?」
「……ガハルトらしいのぉ」
その時
『お爺! 敵だ!』
ここにフジは居ない。幌馬車の屋根、幌の上にいる。が、念話で一斉に通達される。
ダイインドゥも慌てて手綱を引く。
”ぶるるるるるぅ……”
馬達もピタリと歩を止める。
カンイチも目を凝らし気配を探る……が、音、匂い共に感じない。フジを見上げる。
『もう少し先だ。おそらくはコボルト共をやった奴だろうな。今、別のが襲われてるな』
「チッ――! 先回りしていやがったか? たしかに、音がするな。さすがフジ様」
聞き耳を立てるガハルト。その人族以上の耳で何を聞いたか……
「襲われとるのか? 警戒しながら行く……か?」
と、ガハルト、ダイインドゥ達の顔を見まわす。即、頷くガハルト。その目は強者を求めてか、すでにギラついている。
『早めに警告してやったのだ。相手は耳が良い。あまり近づくと戦闘は避けられなくなるぞ。不意打ちを回避できたのだし、逃げるのもアリだ。相手はお爺が謂うところの”人型”だ。まぁ、我が仕留めてやってもいいがな。で、どうする?』
「数は?」
『感じからいって二体というところか』
「先ほどの足跡からいって、大きさは3mくらいの大きさじゃろう……の」
「トゥローかそれに近しい相手……か。くくく……」
「ガハルト君……らしいっちゃ、らしいけどぉ。死んじゃうゾ?」
「見捨てる訳にも行くまい。いいか? アール?」
「うん? 僕には異存は無いよ。思うようにやったら? 一緒に行って魔法で応援するよ?」
コクリと頷くカンイチ。
「くっくっく。俺には言葉は無いのか? カンイチ?」
「お主は最初から行く気だろうに。そういう訳じゃ。手ぇ貸してくれ。皆の衆!」
『ま、良かろう……。お爺達なら問題なかろう。が、時には退くのも群のボスとしては必要ぞ?』
「そうじゃな。フジよ」
「では、参ろうか! フジ様は馬車の守りを!」
『うむ。気を付けていくがいい』
「イザーク君、リンドウたちを頼むぞ!」
「お、おう!」
……




