うん? 生きてる……のか? (コボルト)
……
シター・シャモイの国境門も問題なく通過。前もってファロフィアナが手配してくれていたようだ。
ダリオンとティーターに守られ、アマナシャーゴに。半日も進めば国境の町、交易都市【アティゴナ】へと至る。
始めて町の外に出た子供達も大興奮。イザークとクマ達が草原に入るときは一緒に駆けていく
「お~~い! イザーク君、山沿いの街道じゃで気を付けろよぉ。リンドウたちものぉ」
「了解! カンイチさん!」
「了解! カンイチ兄!」
「りょうかい!」
イザークの返事を真似てリンドウ、キキョウも続く。その様子を微笑ましく見送るカンイチ
フジものそりと後を付いていく。これで安心だろう。
「しかし、元気じゃぁのぉ。リンドウたちは。疲れ知らずじゃわ」
「獣人族だしねぇ。ま! 元気で何より! お茶の準備しようか。それにしてもカンイチが作った白菜漬け美味しいね! 茶請けに少し出してよ!」
「じゃろ? 慣れん皆には”浅漬け”の方が良かろう。わしは古い方が好きじゃがの」
「僕は酸っぱくなった方も好きだよ! ダリオン君も試してみたまえ」
……
暫くのんびりとお茶をしていると……
”ぅおふ!”
クマとシロに守られてリンドウとキキョウが戻ってきた。キキョウは怖い目にでもあったか、少々怯えている。
「うん? フジらは? ……何かあったのかの? リンドウ?」
「カンイチ兄! こぼると? 初めて見た! イザーク兄が来てって! ガハルト小父さんも!」
「……怖いよぉ」
ゆっくりとキキョウの頭を撫でてあげるカンイチ。
「うんうん、大丈夫じゃ。ここならもう安心じゃて。キキョウ。アールよ。子供らは任せるぞ!」
「僕も……。いや、ここを守ってるよ。おいで、キキョウ」
「うむ。親方達も頼むの。行こう! ガハルト!」
「おう!」
「おうさ! 気を付けていくんじゃぞ!」
……
シロの先導で走るカンイチとガハルト。金髪エルフのダリオンも監査ということで付いて来る。
「コボルトかの? 確か、この前、山の斜面で見かけたのか?」
「おう。そうだ。犬と人の中間みたいな奴だ。一応は敵性生物となっているが……さて……ん? 血の匂い……」
「急ぐぞ!」
……
沼のほとり。その数20。群一つ分だろうか。その全てが地に転がり、息絶えている。全滅だ。
ガハルトのいう人と犬の中間。人の頭が狼のような頭に。細身で全身体毛が生え、大きな尻尾も生えている。文化もあるのだろう鞣した革の服や、草の繊維を編んだ袋、そして人族から奪っただろう鉄の剣や革鎧を着る者も散見できる。
「こりゃぁ、派手にやったな……。……。が、フジやらクマたちの手じゃぁないのぉ」
「ああ。ここらのはひしゃげている。潰れてるのもいるな。大きな力が加わったのだろう。食われていない? ……ふむ。トロルか何かか? 人は食うがコボルトは食わんのか? 縄張り争いか……」
膝を突き大きな足跡を指でなぞるカンイチ。その大きさ、大人の足の3倍はあろうか。
「……こりゃ、離れた方がええの」
「まぁ、フジ様もいる。彼方も無理はしまいよ。で、イザークとフジ様は何処だ? シロ?」
”ぅをぅふ!”
ふたたび歩き出すシロ。その後ろについていく。そして大きな岩の影、そこにイザークとフジ、ハナの姿を見つける。
さらに足元に転がる一体のコボルト。
「うん? 生きてる……のか? イザーク?」
「あ、ご苦労様です。ガハルトさん、カンイチさん」
ガハルトの言う通りまだ生きているようだ。胸がせわしなく上下している。右の肩口あたりが妙にねじれている。そこを棍棒か何かで殴られでもしたのだろう
「で、どうしたんだ? イザーク。トドメ差してやればいいだろう?」
「う~~ん……。それがですねぇ……コボルト……喋るんですね……人語……。俺たちと同じ」
その瀕死のコボルトを見下ろしながらゆっくりと。
「はぁ!? マ、マジか? ……それで(とどめを刺さず呼びに来たの)か。カンイチの予想通りという訳か?」
「ほら、ウチってカンイチさんの方針で極力、ゴブリンとかと関わってこなかったでしょ。無視しようとしたら……助けてくれって。さすがに助けてって聞いちゃうとね。それで、カンイチさんとガハルトさんの意見を聞こうと思って」
「なるほどのぉ……」
「ググゥ……グ、シ、死ニタクナイ……死ニタク……」
「む……」
目を見開くのはガハルトとダリオン。喋るとは全く想像していなかった。
チラリとフジに視線を向けるのはガハルト。
『我はどうでもよい。力を貸すのも貸さぬのも。この世界……力及ばず。その場合は死あるのみ……』
「死ニタクナイ……」
「ふぅ……」
「カンイチ?」
”収納”から、傷薬の瓶を一つ出す。
「これ一本だけじゃ。力及ばなかったらその時は……」
封を切り、コボルトのひしゃげた肩口に満遍なく振りかける。
決して安くない傷薬だ。徐々に効果が表れ。みるみる傷口がふさがって行く
「うん? すごい効き目じゃな。こりゃぁアール作の……じゃないよな?」
アールカエフお手製の霊薬の類は恐ろしい効果がある。副作用や反動も。癒す効果が大きいので慌てて瓶のラベルを確認するカンイチ。が、町で普通に求めた物のようだが……
「人以上の効果だな。魔物……故か? 持っている魔力量も大きいから効果も高くなる?」
と、イザーク。
「な、なるほど。私達も人族よりクスリの効きはいい……」
と、納得するように頷くダリオン
「どういう事じゃ、イザーク君?」
「恐らくですけど、霊薬だって魔法の一種でしょ? コボルト自身の持ってる魔力が干渉して効果が大きくなったのかと?」
胸の上下も徐々にゆっくりに。痛みのショックは大分軽減されたのだろう。右肩を押さえ、ゆっくりと立ち上がるコボルト。殺気はない。そのままゆっくりと跪く
「アリガトウゴザイマス。コ、コノご恩ハ忘レマセン。”力”アルお方……」
「いや、忘れていいで。わしらとお前さんの生活の場は相いれないじゃろう。会わんほうがええ。できれば、町の方には来るでないぞ? 殺されるで」
「ハッ――! ハイ」
「では、わしらも行くで。血の匂いで変なモノが来てもつまらん。お前さんも急ぎ離れるとええ」
「ハイ。デハ!」
近くにあった剣を拾い上げ腰に下げると【剣の山脈】の方に向かい駆けていくコボルト。
見えなくなるまでその背を見送る。




