貴殿にわしらの何が分かるというんじゃ? (ファロフィアナ来所)
……
「スィーレン様ぁ、いらっしゃいますぅ?」
食後の一服の折り、アールカエフのもとにファロフィアナがふらりとやってきた。
もうバレているだろうと愛想笑いはない。
「おう? ファロフィアナ君? どうしたんだい? こんなに朝早くに?」
「全然早くないですよ。はい、これ、おチビちゃんたちの身分証。マータイ帝国の身分証ですけど? 問題ない……ですよね?」
「ああ。別にどこのでも? 国境越えられて、町に入れればいいさ。ありがとうね」
「わしからも礼を言わせてもらう。ファロフィアナ殿、ありがとう」
「いえ、いえ、カンイチ殿。お気になさらずに」
つまらなそうに手を振るファロフィアナ。
「そうそう。貸し借りの問題だしぃ? 先に手を出したファロフィアナ君が悪い!」
「チッ――!」
「おいおい。そこは素直に礼をいうところじゃろ」
「言ったからいいの。で、何が聞きたいんだい? また余計なちょっかい出されるのもつまらないし? 言ってみ? ファロフィアナ君!」
「……」
色々考えているのだろう。じっとアールカエフの顔を見つめる。どのあたりまで聞いたモノか……
アールカエフの真意は? 代償は?
「……では、カンイチ殿は何モノです?」
「カンイチ? 15? 16の若造の人族だよ? ただ、大神様の御加護を受けている。その辺りが普通の人族とちょこっと違うかなぁ?」
「……大神様の加護持ち? それは?」
「さぁ? 大神様だし? 神のなされることなんかわかんないよ? ”鑑定”したってこれ以上の情報は無いよ? 君も大神様に目を付けられないように行動は慎重にね?」
「……加護持ちか……。で、何故にスィーレン様となんか? 1500越える化物婆さんに?」
「ファロフィアナ君! 君ぃ。本性表したからって……失礼じゃないかね? 思わずぶっ殺しちゃうところだったよ? 愛! 愛に決まってるだろう! わからないかね?」
「ええ。まったく。物好きだなぁ、ということぐらいでしょうか?」
「……そりゃぁ、ファロフィアナ殿。ちぃと言い過ぎじゃの。貴殿にわしらの何が分かるというんじゃ?」
少々……いや、珍しくかなりご立腹のカンイチ。黙っていられず前に出る。
「お! 流石カンイチ! そうだ! そうだ!」
「お、おっと、これは大変失礼を。カンイチ殿。この前の意趣返しのつもりが、少々無礼が過ぎました。お許しください」
本当に悪いと思ったのか真摯に頭を下げるファロフィアナ。
「ファロフィアナ君、以後注意してくれたまえ! ぶっ殺しちゃうかもよ?」
「はい。この件は少々無礼でした。では、用事も済みましたので失礼しますね。で、ダンジョン覗いた後のご予定は?」
「誰も干渉してこない農地を捜してあちこちに行く予定? エルフ国の方まで行ってみるつもりさ。森とか?」
「は? 【入らずの森】です? あんな処で畑なんか耕していたら即、死んじゃいますよ?」
「ま、色々と見て回ってからだね。海にも行きたいし? 魚食べたいんだって」
「はぁ? 海の魚です? ……何とも……」
今度は呆れた顔。謝ったり、驚いたり……こんなに表情の変わる上役の顔をティーターも見たことは無いだろう。
「ま、あちこち回ってみようって事さ。帝国領内、支障が起きないように頼むよ!」
「はぁ。ウチで用意しますよ? 畑くらい」
「とにかく見て回るんだよ? これ決定!」
「そうですか……」
……
「ふむ。良く解らんお人じゃな」
「まぁ、城勤めだし? お国の意向も大いにあるんだろうさ? で、どうする? カンイチ? 帝国だったら戦争に駆り出されることも無いと思うし? いっその事、一地方もらっちゃう?」
「そこまでは要らん……がな。じゃが、折角この世界に来たんじゃ。もう少し色々と見て回りたいのぉ」
「だね! 愉しみだね! カンイチ」
「うむ!」
……
……
「大神様の御加護……か。”収納”持ちとも聞くし……。確かに、神の御都合までは分からん……な」
「ファロフィアナ様?」
カンイチ達が借りている貸家を出たところで護衛の金髪エルフのダリオンが合流
「うん? ダリオンか。引き続きティーターと監察対象のあの婆さんを頼む。私は一旦、国に帰って報告してくるよ」
「婆さんって……。了解しました! 引き続きスィーレン様の観察に当たります!」
「うん。よろしく頼むよ。後はお国の行政に関わる連中の考え次第さ。ま、拘束するとはいうまいよ」
「だと良いのですが……」
「あの腐れ三男坊もさすがにスィーレン様相手なら大人しくするだろうさ。次世代の皇太子も決まったんだ。ったく、大人しくしていればいいものを……」
「ええ。ですが、まだ、第一夫人の勢力も諦めていないでしょう……刺客の心配も」
「そう。そこが頭が痛いところさ。皇太子の警護もあるからね。ふぅ」
……
マータイ帝国の皇帝には三人の妻、子は男子が5人と、女子(姫)が6人いる。
姫は嫁に出すから問題がないが、次期皇帝の座を巡っての権力争いが皇太子が決まった今も尚くすぶっている。
メイテ皇太子は長子という事で順当に決まったのだが、三男を生んだ第一夫人が3つある公爵家で最も力のある大公の家の出という事で頭の痛いところだ。
三人いる夫人はいずれもそれぞれの公爵家の出、そこに順位はないとされているが、最も古く、皇帝の血を守ってきたと自負するレルド=ブルーリー大公家の当主メダキィンと、皇子を三人も生み、しかも長子を生したバクトゥラ=ポギィ公爵家の当主、ローダイクが一歩も引かず世継ぎ問題が勢力争いの場となっている。皇太子が無事に皇帝となればバクトゥラ=ポギィの家は大いに躍進するだろう。
その第三皇子は祖父である当主メダキィンに大いに甘やかされて歪み、酒と女に執着する暗愚に。それが更に問題となっている。
帝国の行く末は




