おあつらえ向きのがいたわ! (身分証を求めて)
……
今日は一日買物に。
リンドウたちの服や日用品。馬車に据え付けるためのベッドの材料の木材を購入。布団は敷布団のみ、掛布団は軽すぎてカンイチがいらないというオオタルミカモの高級羽毛布団が回される予定だ。
おまけにリンドウたちの胴元だったゾットとの関係も切れ、煩わされることもなくなった。こちらから仕掛けることはしない。このまま、街を出ることになるだろう。
すでに殺されていることはカンイチは知らない。
ベッドの上で二人、丸まってくっ付いて寝る兄妹。こちらから危害を加えないことが分かったのか、安心して眠っている。添い寝してるフジのお陰ともいえるが。
「よぉ、寝とるのぉ」
優しい目で見るカンイチ
「そうだね。はふぅ。僕たちもそろそろ寝よう……」
そしてアールカエフ。
「うむ。フジよ頼むの。おやすみ」
『うむ。また明日』
せめて夢だけでも……良い夢をと願うカンイチであった。
……
「やぁ! やぁ!」
今朝の鍛錬に小さなリンドゥが加わる。身を守る力が欲しいと自ら願いでてきた。
得物はとりあえずナイフ。今はイザークと並んで素振りの最中だ。
キキョウはクマ達と走り回っている。きっと良い体力作りになることだろう。今ではしっかりと食べることもができる。今までなら腹が減ってそれどころではなかったのだから。
「ふぅ。それじゃぁ、朝飯にするかの」
「ええ、そうしましょう。じゃぁベーコン焼きましょうか。アール様の目覚まし代わりに。ふふふ」
「本当にしょうがないのぉ。うちの肉食エルフ殿は……」
ベーコンの脂の焼ける匂いを嗅ぎつけてから起き出してくるアールカエフ。毎朝の光景だ。
「イザークお兄ぃ! キキョウ、ベーコン沢山!」
「お、おう? 一杯食えよキキョウ。リンドウもベーコン多めか?」
「うん!」
「お、お願いします……イザーク兄?」
早くもご飯を沢山くれる、優しいお兄ちゃんという認識で子供達の信用を得ているイザーク君
その様子を見て微妙な表情のカンイチ。
「うん? カンイチ、じぇらしぃ? くすくすくす」
「……今日は珍しく早いの。アールよ……。まだ、ベーコン焼いておらんぞ?」
いつの間にやら傍らにアールカエフが。
「ふふふ。昨日の事もあったからね。ちょっと早く起きたよ? ま。イザック君にしても僕たちの息子みたいなもんだろう? いや、孫か?」
「まぁのぉ。言い出しっぺのわしが何もせんで良いのかと思ってのぉ」
「見守ることだって立派な仕事だと思うよ? 僕は?」
「そうじゃな。それにイザーク君じゃ。息子の名くらいちゃんとな」
「ふふふ。そうだね」
……
……
「カンイチさん、アール様、キキョウとリンドウの身分証どうしましょう?」
滞在、五日目。だいぶ子供達も馴染んできたころ。
この世界で最も基本である”身分証”問題が浮上。孤児であるリンドウたち。親がいるでもなく、チンピラ共に良い様にされてきた。身分証を持っているはずもなし。
「ぅお! そうだ! 良いところに気が付いた! イザーク君! そうだわねぇ~~。ふぅむ……。パンお代わり!」
ベーコンを齧りながらのアールカエフ。
「……身分証など持っていない……わな?」
ちらと子供達を見るも二人とも頭の上に”?”を付けている。
それに今の彼らにとっては目の前のベーコンを駆逐する方が重要案件だ。
リンドウはガハルトに憧れてか、分厚くカットしたベーコンをご所望だ。真似てがふがふと食らいついている。
「ええ。それらしいものは。出自の表す物も何も。連れてこられたのか、ここで生まれたのか……どのみちなにも無ければ仕方ないんですけどぉ」
リンドウたちの持ち物、着の身着のままのぼろ雑巾のような服。ただそれだけしかない。
「まぁ、わしの養子でええがのぉ。のぉ?」
朝、あまり肉を必要としないカンイチ。そっとベーコンを二人の皿に移動させる。
「うん? 僕も構わないけど? ただ、まだ小さい子供だから色々面倒くさいのよぉ。カンイチ。ほら、人攫いやら、違法奴隷商やらがいるだろう?」
「なるほどのぉ……どうすりゃぁいいんじゃ? アールよ?」
そういった事も見て来たカンイチ。己ですら攫われた経験がある。
「そうだねぇ。身分証無けりゃ町の出入も不便だし? 一応、役所に事情話してみるかぁ。最悪脅してでも?」
「駄目じゃろ……」
「……アール様」
「冗談だって! 冗談! ……うん?」
にやりと笑うアールカエフ。
「どうしたんじゃ? アールよ?」
「ふふふ。……おあつらえ向きのがいたわ! よぉし! ご飯食べたら出かけるぞカンイチ! フジ殿も来る?」
『うむ? 昼飯を食いに行こう。ハナも連れて行くぞ』
「いいよ! ダブルデートだね! イザーク君! ガハルト君と留守番頼むね! リンドウたちよろしく!」
「え、ええ。了解です! アール様」
「おう! お気をつけて」
……
「よぉし……うんうん。こっちだ!」
カンイチがフジ、アールカエフがハナの手綱を取り、大通りを征く。
大通りを暫く進むと急に裏通りに入るアールカエフ。初見の道だ。それにも関わらず迷いなくズンズン進む。
「のぉ、アールよ? お役所とは逆だと思うがの?」
「いいから、いいから。こっち……だな。ふふふ」
細い路地をスルスルと進む一行。
『ほう。ここらにも美味そうな飯屋があるのだな。裏通りも捨てたものではないな』
大抵は大通り。入っても大通りと並行した道くらいしか通らなかった。このような生活道路は初めてだ。ちゃんと生活の場となっており、小さな商店や、食堂も結構ある。
その食堂の一つがフジの性能の良い鼻に引っかかったようだ。
「フジ殿、先、用事済ませてでいい? 逃げられちゃう可能性もあるから」
『もちろんだ。リンドウたちに必要な事なのであろう?』
「うん。っと……こっちね!」
「逃げられる? ゾットたちの事かの?」
冒険者崩れのゴロツキ、大男のゾットを思い出すカンイチ。リンドウたちの事を知っているのは彼らだろうと。そいつらから聞きだすのか? そう思ったカンイチ。だが、
「うん? ゾット? ああ、アレならとっくに死んじゃってるぞ。カンイチ。取り巻きの子分共々?」
「は? 本当か? ……なんかしたのか? アールよ?」
「いや、僕じゃないって! 酷いな! カンイチ! 僕たちずっと一緒だっただろうに?」
「そうじゃが……」
「まったく。疑り深いんだから! この優しくて可愛い僕がそんなことする訳なかろうに?」
「何で肝心なところが何時も”?”なのじゃ……アールよ?」
「ふふふ。ん? こっちだ! 急ぐぞぉ! カンイチ!」
「お、おう?」
……




