キキョウ、怖くないよ! (ゾット襲来)
……
古着屋で適当に子供達の服を購入。
店を出るとあれだけいた通行人の姿がない。
それもそのはず。道の真中に見るからにガラの悪そうな冒険者風の大男。それに付き従う、同じく冒険者風の男達と、町人の恰好をした男たち。20人くらいか。おまけに朝っぱらから媚びるように大男にすがる女が二人。そのゴロツキ集団が道を塞ぐように。
そのゴロツキたちの中に、昨日五人組の内の三人の顔を認める。一人は右手に包帯を巻いている。
「お前たちが俺の仲間に舐めた真似してくれた小僧共か? ううん? えらい怪我ぁさせてくれたなぁ? ああん? どうしたぁ黙っていないで……!」
大男が声を張り上げ、気持ちよく口上を述べていたが……ぴたりと止まる。
大男の視線の先には後からのそりと古着屋から出て来たガハルト。その姿を見て”ごくり”唾と共に言葉を飲む大男。
ガハルトの方が一回り大きく筋骨隆々。大男も剣で生きて来たのだろう。相手の力量がわかったのだろう。
が、この辺りの顔役として通って来た大男、ゾットにすれば、多くの手下の目の前で無様な格好を晒すわけにもいかない。
それに、数は断然こちらの方が多い。どんな武芸者でも数人でしがみ付けば。それに町中で剣は抜かぬだろうと。
「お、おい! 貴様ぁ! す、助っ人か? そ、そいつらの?」
が、声が上ずる大男
仕方あるまい。楽しそうにニヤリと口元が大きく歪むガハルトを見ては。まさに動物のように獰猛な顔、獣人族故か、より強烈だ
武器も持っていない。持ってはいないがタイマンじゃ絶対勝てないと。いや、ここにいる全員が一斉にかかっても。そう感じざるを得ない迫力だ。
「ほ。相手さんはガハルト見てビビってるようじゃ。さすがの強面じゃなぁ」
と、楽しそうにガハルトをからかうカンイチ。毎度の事だ。
「ふん! ほっとけ! で、貴様らは何者だ? 町中で暴れれば罪になるぞ? うん?」
ガハルトのいかつい顔に怖気付き一歩下がる大男。ジワリと、冷たい汗をかいて。
「は! 獣人風情がぁ! ゾットさん! やっちまってくださいよぉ!」
「そうだ! そうだぁ! アニキなら余裕だろう? あんなのは!」
「アニキの力ぁ、見せてくだせい!」
「足腰たたんくらいに!」
と、大男の気持ちも知らずにはやし立てる子分たち
「ほう……。俺を……か? ぐるるるるぅぅぅ……」
ガハルトの顔が歪む。その顔のまま一歩前に出る。その顔に恐怖し一歩がるチンピラ共。
この場は完全にガハルトが支配しているようだ。
「ひ! あ、アニキぃ?」
「や、やっちまて……」
「時間が勿体ないのぉ。お前さんがここらの顔役だかのゾットか? で、わしらに何の用じゃ? 子供達、リンドウとキキョウは絶対に渡さんぞ! 死にたければかかってくるとええ!」
このままじゃ、埒が明かぬと前に出るカンイチ。
「くっくっく、ヤルか? カンイチ」
「に、兄ちゃん? ガハルト小父さん?」
ゾット。この町の厄介者、ゴロツキの頂点、それなのに一向に怯まないカンイチたち。その姿を見て驚くリンドウ。そういえば昨日も五人相手に怯まなかったと。
横を見るとアールカエフは笑い、イザークも十手をだす。こちらも全然怯んではいない。
「念のため、後ろ、下がろうか? フジ殿? イザック君」
『うむ? そうだな……何も恐れることはない』
「了解です! アール様」
フジとアールカエフは怯える子供達と共に後ろに下がり様子を窺う。その前に壁のように立つのは日頃からアールを頼むとカンイチに託されているイザーク。なかなかの男前だ
”ごくり”唾をのむ。大男改め、顔役のゾット
「あ、アニキぃ?」
「ど、どうしたんですぅ?」
これだけの人数を前にして一向に怯まない二人。対して、大人数の町のチンピラたちの方が浮足立つ。
「こ、こほん……。よ、よぉ! ボ、ボロども! な、名前つけてもらったのかぁ、リ、リンドウか? 良かったなぁ! はっはっは! か、帰るぞぉ!」
「「「「「「はぁ?」」」」」」
「あ、アニキぃ?」
「ちょ! ちょっとぉ! ゾットのアニキぃ!」
「ま、まって、待ってよ! アニキぃ!?」
尻に帆を立てて逃げていくゾット。
わいわいがやがや……
「あ、アニキぃ!? お、覚えてやがれぇ!」
カンイチ達を残してゾットの後を追い去って行く町のゴロツキたち……。またもや、捨て台詞を残して
もはや何を覚えておけば良いのかは判らないが
「……。一体何じゃったんじゃ? あやつらは」
「くっくっく。まぁ、血を見なくてよかったということにしておこう。街中じゃぁ少々面倒くさいからな」
「それもそうじゃな」
そして、町も普段の街に。住民、通行人たちも戻ってくる。
遅ればせながら衛兵の一隊も到着。ゾットたちの姿を捜し、右往左往している。
「何だか知らないけどぉ。良かったねぇ。お兄ちゃん」
と、古着屋の女将さんがカンイチに声をかける。
「そう……じゃな。うん。まぁ、何も無くて良かったわい――良かったです。騒がせました。女将さん」
いやいやと手を振り店に戻っていく女将さん。野次馬たちもバラバラと掃けていく
「うん! さすがガハルト君だ! そのおっかない顔で二十人ものチンピラを追い払うとは! これってば顔面兵器? ねぇ?」
「ア、アール様?」
「す! すげぇ! ガハルト小父さん! かっけぇーー!」
憧れの目でガハルトを見るリンドウ。
力の信奉者である獣人族のリンドウの支持も得たようだ。
「キキョウが怯えるからあっち向く!」
「は? はぁあ?! アール様?」
「怖くないよ! キキョウ、怖くないよ!」
と、キキョウ。
「おいおい、アールよ……。ま、ガハルトの顔の(ぼそり)お陰でもう大丈夫じゃろ。御苦労様!」
「お、おう……。なんか釈然としないのだが? カンイチよ」
「聞こえてるよ! カンイチ!」
コクコクと頷くリンドウとキキョウ。獣人族、エルフともに耳は良い。
「……ま、飯食いにいこうか! のぉ! 飯食いに!」
「おい! カンイチ……」




