当然であろうが。 (孤児の兄妹)
……
街で出会った孤児兄妹を保護することにしたカンイチ達
しかも、フジが養い親に名乗りでる。その言葉のとおり貸家に帰ってからも甲斐甲斐しく面倒を見るフジ。風呂も子供達、介助のカンイチと入る。
「風呂なんかはいるか! 兄ちゃん!」
ん? ガハルトも嫌いだから獣人族はこういうものかなどと考えていると
『それだけ臭ければ狩も出来ぬぞ? チビ。生きていくのもままなるまい。風呂は気持ちがいいぞ?』
「……う、ううう」
幼いが獣人族故か、力の上位の魔獣、フジの言うことは良く聞く。
渋々、風呂に浸かる兄。チラチラと視線をカンイチに向けるも
「奇麗な方がええじゃろう? のぉ?」
と取り合わない。
「お兄! お風呂気持ちいいよ! きれい! きれい!」
ぱしゃ、ぱしゃとお湯で遊び妹は大はしゃぎだ。
お腹も一杯、風呂でスッキリ。ホカホカともなれば妹の方は既に夢の中。風邪をひかないように拭きあげ、ベッドに。フジも子供らを守るようにベッドに横たわる
『心配せずに眠るがよい』
「あ、ありがとうございます。……フジ様」
ベッドの上にはフジと狼人の兄妹。
そんな様子を見、
「やれやれ。さて、明日、朝一で打ち合わせじゃな。ガハルトや親方達にも報告せよう」
「そうね。フジ殿もすっかりその気だしぃ? もう引き取ったんだ。一蓮托生! 前向きにね。それに、ゾッドやら、リゾットも来るかもしれないし?」
「ゾットじゃ。そうじゃな。フジの逆鱗に触れる前に処理せんとのぉ。大事になっちまうな」
「だねぇ。はぁふぅぃ。寝るぞ! カンイチ!」
……
「む? やられたの……」
朝、居間に置いてあったカンイチの”収納”擬装用バッグ(空)とカツアゲ対応用の少額の金子のはいった革袋、腰に下げる小さなナイフが消えていた。
そして幼い孤児兄妹の姿はない。そしてフジの姿もない。
何処に行ったかと表に出たら、妹はいた。クマ達と庭で駆けまわって遊んでいる。
兄は……どうやらフジに捕獲されたらしい。フジの前に正座で。
「ふぅ。ここにおったか?」
ほっと一安心のカンイチ。
「な、なんだよ! ぶ、ぶつのかよ!」
「いや、ぶたん。で、何処に行こうっちゅうのじゃ? 元の連中のところか?」
「か、関係ないだろ! 兄ちゃんには!」
「引き取るというた手前、関係ないことは無いがの。が、どうしても元の奴らのところがいい、帰りたい……。と言うのならばわしは止めはせん。縁がなかったという事じゃろよ。が、お前さんのこれからある長い人生じゃ。よく考えるといい。そういうことだでフジも了承してくれ」
『うむ。チビ。どう考えてもあんなところにいるよりもここの方が良いぞ。飯は我が食わせてやる。もちろん、タダではない。後々、この群の力になってもらおう』
「……」
カンイチを睨みつける兄
「妹の事も考えるんじゃな。とにかく大きく、成人……自分で稼げるようになるまでウチに居るとええ」
「……」
「それと、盗みやひったくりはなしじゃぞ。下らない称号が付いたら生きていくにも窮屈じゃ。欲しいもんがあれば言え。何でもって訳にはいかんがの……。どうじゃ? わしらを利用すりゃぁいいで。お前さんに力が付くまでのぉ」
「……じゃぁ、成人するまで! せ、世話になる!」
この少年にしたらこれ以上ない強がりだろう。そんな様子に頷きながら微笑むカンイチ。
「な、なんだよ! 兄ちゃん! 気持ちわりな!」
さらに追撃! 撫で繰り回すカンイチ
「わかった! わかったってば! ひったくりや泥棒もしないから!」
「おう! 頼むぞ。お兄ちゃん。妹を守るんじゃぞ」
「言われなくても! 撫でるな!」
「ふふふ」
……
朝も早くから、庭でフジやハナ達と駆けまわり遊ぶ兄妹。どうやら、クマ達の間では話が付いて仲間として認められているようだ。
その様子をぽかんと見守るガハルトとイザーク。顔を洗いに来たのだろうがそのまま立ちつくす。
そう、今度はカンイチ達の出番だ。メンバーに説明をする。
因みにドワーフ一家は未だ宴から帰って来てはいない。
「狼人の子供か。珍しいな。で?」
隣にやって来たカンイチに問うガハルト。視線は子供に向けたまま。
「わしが引き取った」
「……そうか……って、どういうこった? カンイチ?」
「引き取った? カンイチさん?」
町での様子を語るカンイチ。
何時もは寝坊助のアールカエフも今日は早く起き、カンイチの補佐にまわる。
「話は分かった……。確かに幼い子供を出汁に使う屑やらは許せんな」
「そんな事が……犯罪組織がやってるのかなぁ。孤児を集めて……」
「孤児か……。確かに今までの町じゃ、あまり見かけなかったもんなぁ。大抵の町にゃぁ孤児院もあるしな。が、結構いるぞ? カンイチよ? それに、これから行く【アマナシャーゴ国】、ダンジョン町なんか特になぁ。孤児なんかゴロゴロいるぞ。親がダンジョンに食われるやらでなぁ。それ見てどうすんだ? 皆に施すのか? いっそのこと孤児院でも開くか?」
「ぅんむ……」
ガハルトの言葉に腕を組み考える。
「うん? 良い考えじゃん? 孤児院か! 将来的には【カンイチ村】の住人候補に? よぉし! たくさん集めるか! お金もあるし? ナイスアイデアだ! ガハルト君!」
とアールカエフ。
「は? い、いえ? アール様……」
いや、違うのですけど! そういう意味では
そう、ありありと顔に書いてあるガハルト。
『うん? ガハルトよ。反対か?』
何時の間にやら兄妹と遊んでいたフジがのそりと。遊びながらもこちらに聞き耳を立てていたようだ。
「フ、フジ様?」
「フジが、随分と乗り気での。親代わりを買って出てるのじゃ……。その辺りも困ってるんじゃわ」
「い、いえ……そういう訳では……」
『お前は、チビらがいては楽しみなダンジョンに入れない……。などと、小さいことを抜かす漢とは思わんがな。仔は皆で育てるものだろう?』
「は、はい……そ、そうですね」
がくりと肩を落とすガハルト。
「フジよ。無理強いは良くないで。ダンジョンも今回の旅の目的の一つじゃしのぉ」
『ふむ。それもそうだな。では我とハナで地上に残っても構わぬぞ? チビらの面倒を見よう』
「フジ……主は、慈愛ある良きものじゃな」
『当然であろうが。狼人なれば、遠い眷属でもあるしな!』
わしわしとフジの首を撫でる。ダンジョンに入ることをあれだけ楽しみにしていたフジ。あっさりと”当然”と割り切る。
まさか、魔獣の口からその様な言葉を聞くとは。いや、獣故か? 生きていくためには必然なのだろう。何とも天晴な心意気か!
「わかった! わかった! カンイチ! これじゃ、俺が悪者だ。協力させていただきますよ。フジ様」
『うむ。それでこそガハルトだ。沢山食わせて鍛え上げればすぐにも群の力となろう!』
「であれば、当面はそのゾットだかの来襲に備える必要があるな。カンイチよ」
「うむ。すまぬな。フジが出る前に始末をつけよう」
「……そうだな。事が大きくなってしまうからな」
「そうそう! フジ殿はあの兄妹の守りをね。僕たちでなんとかするから。……で、彼らの名前決まったのかい? カンイチ?」
『うん? そうだ! どうなったのだ? お爺?』
「お、おう……そ、そうじゃなぁ」
――さて、困った。さすがに”ポチ”やら”コロ”はないの。う~む。困った……
今まではなんとか乗り切ってきたが……どうしたものかと腕を組むカンイチ。せめて実の親が付けた名を覚えていればいいのだがと、駆けまわる子供達に視線を向ける




