狼さんではない。我はフジ様だ (孤児の兄妹)
……
「……ふぅ。で、坊主。名は何というんじゃ?」
ゴロツキ共を難なく追っ払ったカンイチ。
そのゴロツキ共にタカられて、いや、手下にさせられていたであろう、獣人族の孤児の兄妹に向き合う。極力、優しく声をかけるカンイチ
ぱんぱん! と、服のホコリを落とし、カンイチの目をじろり
「は? 名前なんか知らないさ! 忘れた! てか、兄ちゃん! 余計なことして! これから俺たち、どうやって食って行けばいいんだよぉ! おお!?」
先ほどまでの態度とは打って変わり、カンイチに牙を剥き、食ってかかる孤児の兄
「お兄ぃ?」
「あんな連中でも、飯やら寝るとこ用意してくれてたんだぞ! 物乞いする場所だって! あ~~あ。明日からひったくりやら泥棒しないと食っていけないぞ! どうしてくれるんだよ!」
「お、おおぅ? お?」
孤児兄の態度がガラリと変わり、面食らうカンイチ。
彼の言う通り、裏社会なりの秩序のようなものがあったのかもわからない。
狼狽えるカンイチの肩にぽんと手を置くアールカエフ。
「な、なんだよ! 本当に俺達に飯食わせてくれるのかい? 兄ちゃん! じゃぁ、もう一枚、金貨おくれよ!」
兄の方は小学校に上がったくらいか? もっと年上かもしれないが、食うものも食えずにガリガリに痩せているので生育にも影響が出てるだろう。
「お兄ぃ?」
妹の方は小学校前……だろうか、この状況をよくわかっていないようだ。幼すぎる故に。
面食らってしまったが、それでも正気に戻り、
「あ、ああ、ワシらがお前さん達兄妹の面倒見よう。……さっき言ったじゃろ?」
「はぁ? 本当? 兄ちゃんが? へぇ? 本当ぅ? 初めて会ったばかりだっていうのにか?」
と、下からカンイチの目を覗き込む。というより睨みつける。真意を探るかのように
「あ、ああ、で、名はなんて言うんじゃ? 坊主?」
「言ったろ! 名は知らない! 無い! ここじゃぁ襤褸って言われてるんだ!」
「わたしは、おい。とか、こいつ? 名前? わかんない!」
と、手を挙げて応える孤児妹。
「そ、そうかのぉ」
「変な兄ちゃんだな! 普通だよ! こんなの! それに爺さんみたいだな! で、本当に俺たちに飯食わせてくれるのかよ!」
強がっているように見える兄。妹を守っているのだろう。背に隠して。二人で生きて来た。そんな健気な態度もカンイチの胸を締め付ける。
「それにしても大きな耳じゃなぁ。獣人族? じゃろ?」
「文句あるか! 兄ちゃん! ぐるるるるぅ……!」
「ないわい」
生意気じゃな! という言葉をぐっと飲みこむ。
それくらいでなけりゃ、幼い妹と兄妹二人、今の今まで生きてはこれなかっただろう。
「そうね。犬人族? かなぁ。ねえ?」
「わし、良く解らんで……。ガハルト以外に獣人族に出会った事ないでなぁ」
「はぁ? 何を言ってるんだい? 結構会ってるだろ? 帽子被ったり耳隠してるのは、ほぼ獣人族だよ? 尻尾だって隠してるし?」
「ほ? ……そうなの……か?」
そういえば、以前にも聞いたなぁ、と思い返す。
「んで、隠していない変なのは、大抵エルフだな!」
「……そうなの……か?」
変なの? 確かに? 妙に納得し、少々残念な気分になるカンイチだったりする。アールカエフの顔を見ながら
「なに? どうしたのさ? カンイチ?」
「いや、のぉ……」
『ふぅむ。犬より、狼であろう? よぉし! 大体の話はわかった! そこの生意気なの気に入った! 我が面倒を見てやろう!』
「は、はぁ? フ、フジ!? さすがにお主じゃぁダメじゃろよ!」
「フジ殿?」
『なぁに、犬やら狼なら問題あるまい! 我の遠い眷属のようなものだ! 問題なかろう!』
「問題大アリじゃ!」
そのやり取りをぽかんと見ていた孤児兄。
「げ……ま、魔獣? ……様? しゃ、しゃべった?」
「狼さん? しゃべった!」
孤児妹の方は嬉しそうだ。
『狼さんではない。我はフジ様だ。いいな。小さいの。付いて来ると良い。飯を鱈腹食わせてやろう! ……お爺。ここはびしりとこの者らに良き名を付けてやってくれ!』
「はーーい! フジ様ぁ!」
と、手を上げて返事をする妹
「ま、魔獣様? フ、フジ様? 喋る……?」
妹の方はすんなり受け入れたようだ。
兄は、疑い、周りを見渡す、誰かがしゃべってるのではないかと。
が、まっすぐ、己と目を合わせるフジにその考えを放棄。本当に喋るのだと。
「ま、魔獣……様……」
『フジ様だ』
「フ、フジ様ぁ……」
「その前に、飯にしよう。腹ぁ減ってるじゃろ? で、帰って風呂さ入れて、今日の処はゆっくり休ませようさ」
『ふぅむ。それもそうだな。名は明日の朝までに考えておいてくれ。良いな! お爺! では、あの屋台だ!』
「……フジのお陰で話がややこしくなってしまったが……ふぅ。わしらがお前さん達の面倒を見るで。ついておいで。沢山、飯食べさせてやるで」
「……」
未だにカンイチを睨みつける少年、妹を背に庇いながら。
「ごはん? やったぁ! お兄ぃ!」
「……」
「あ、ああ。たんと食うとええ!」
……
屋台のテーブルを一つ占領。串焼きを購入し子供達に食わせる
「しかし……腹が減ってるとはいえ、よぉ、食うのぉ……」
「まぁ、獣人族だし? フジ殿が言うに狼人族っぽいし? それこそ、バリバリの肉食系の戦闘種だぞ? 食う量だって人族の比じゃぁないねぇ」
串焼きを両手に持って頬張る孤児兄妹。どんどん皿の上の串焼きが消えていく
「う~ん。でも、どうするんだい? カンイチ。この子達連れてさすがにダンジョンには潜れないぞ? 美味しいかい? お肉?」
「うん!」
妹の頭を撫でながらアールカエフ。
「ぐく……。そ、そうじゃな……」
「考えなしの勢いかい?! まぁ、そこもカンイチの良いところだけどぉ。ま、何とかなるでしょ?」
「うむ……すまんの。オヤジさん串焼き、10本追加頼む」
串焼きの一団は兄妹の胃袋に、驚きながらもまだ食いそうなので追加。
結構大きな肉、焼いて締まって固くもなってるだろうが難なく咀嚼する顎の力。兄のみならず、小さな妹までも。こうも人、この場合は人族と違うものかのぉと舌を巻く。
「あいよぉ~~!」
『む! お前たち。野菜も残さず食うのだぞ! 良く噛めば美味いし、腹の調子が良くなる』
「はい! フジ様ぁ! たくさん食べる!」
「は、はい、フジ様……」
「おいおい……フジよ……」
「もうすっかり、親代わり? 良いのかなぁ? 確かにウチじゃぁ一番面倒見がいいもんなぁ。フジ殿って」
「まぁ、そうじゃがのぉ……。いいのかのぉ?」
「さて。う~~ん? ……でも面白そうじゃん? ふふふ いいんじゃない? カンイチ?」
「おい……」
『お爺。スープ追加だ!』
「……はいはい」




