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二(かんいち)爺ちゃん、異世界へ!(仮)  作者: ぷりぷり星人
フィヤマの日々
30/520

買物

 ……


 朝食を摂り、早速と朝の町へと繰り出す。

 早朝はあれだけ静かだった通りも【冒険者ギルド】に押し寄せる冒険者の喧騒に渦巻いている。誰よりも、少しでもいい依頼を受注する為だろう。

 農業志望のカンイチにとってはその風景だけでうんざりである。

 

 ――まぁ、金子は結構ある。ボチボチ行けばいいわなぁ

 と。

 

 街中を歩くときは、クマ、ハナには手綱が必須となる。要らぬ災いを避けるためだ。

 もっとも、犬と言っても狼のような大きな獣がノーリードでウロウロしていたら、この世界の人々だってたまらない。

 手綱をつけようと屈んだら、首輪にはいつのまにやら銀のチャームが装着されていた。ギルド職員の方が付けてくれたのだろうか。

 500円玉くらいの大きさで、表面に冒険者ギルドの紋章が浮かぶ。裏面にはクマの名と、主のカンイチと刻印されている。

 

 手綱をつけて出発だ。深山村では手綱なぞ、動物病院に行くときくらいしかつけないカンイチだったが、ハンスに付けるように言われているので仕方がない。

 

 「慣れないじゃろうが、ま、我慢しておくれ。明日には、外に出られるじゃろう。そうすりゃ、思い切り走れるじゃろて」

  ”ぉおん” ”ぅわおふ”

 カンイチに応えるように吠える犬たち。

 この世界では狼、従魔とも呼ばれる。

 

 「なんか、本当にワシの言葉がわかってるようじゃぁの。うむ、不思議じゃわい……じゃなかった、不思議だな!」

  ”ぅふぅ?”

 爺言葉に気づき、訂正するカンイチ。その様子を不思議そうに見る犬たち。 

 ……

 

 まずは、服屋へ。猿股パンツを求めに。女将さんから頂いたメモを頼りに大通りを征く!

 必ず入手せねばならぬ物資だ! さもなければ明日からノーパンで過ごさねばならなくなる。それは避けねばなるまい。しかも、住んでいるところは女子寮。少しでも清潔にしていなければ追い出されかねない。

 途中途中、気を惹く品物を出店、屋台で見るが、今は猿股! と、後ろ髪惹かれながらもズンズン進むカンイチである。


 「ここが女将のおススメじゃという、ユーノ服店か……どれ」

 

 通りに面したこじんまりとした洋品店【ユーノ服店】と看板が出ている。お洒落な雰囲気なので少々入り辛いが……猿股入手のためには仕方あるまいと腹をくくる。

 

 ”がららん”

 

 「いらっしゃいませぇ」

 入口のベルの音と共に、にこやかに出て来たのは金髪の別嬪さんだ。しかも外国の映画にでて来そうな。

 「な、なんとまぁ……」

 熊やら筋肉ムキムキの男衆にも怯まぬカンイチさん。でもムチムチ、金髪の美人さんには一歩下がる。大和魂も敵わぬようだ。

 

 「さて……どうしたものか……」

 さすがのカンイチもこんな若い、しかも外人さんのお嬢さんに猿股を聞くのもいささか恥ずかしい。

 まぁ、カンイチから見たら、どのご婦人も”若い”ご婦人だが。

 「う~~む」

 「? どうしたの? 坊や、お使い?」

 

 挙動不審の青年カンイチに優しく声を掛ける女主人。日本人、大正生まれじゃ大きい方だが、この世界は、ガッチリ西洋人の世界。成人してるようには見えなかったのだろう。

 その実、美人を前にして悶々としてるのだが……。その辺り、気づかれなくて何よりだ。

 

 「うむぅ……ワシは坊やって歳でもないのだがの。マーサさんの紹介での……じゃなかった、紹介で来ました。さ、猿股はあるかの……ありますか?」

 「? ギルドのマーサさんの? ならサービスしないとね。で、”さるまた”? 何でしょうか? ”さるまた”って?」

 

 ――なんと! こっちの世界に猿股はないのかの。では、どのように聞けばいいのじゃ。ふむぅ……

 少し考え、

 「男性用下着、下の方。ありますか?」

 と聞く。

 「はい。男性用の下着ね。ちょっと待ってね。……こんな感じだけど?」

 女主人が手にしているもの。なんかひらひらした装飾の布が付いたブリーフタイプのパンツだ。

 

 「こ、こんなものかのぉ。成人男性も?」

 驚くカンイチ。

 

 ――こ、これを履くのかのぉ。郷に入れば……とは言うがのぉ。女モノみたいで嫌じゃな。! あ、あのハンスさんや、ジップ殿もこれを履いているのか? しかも、あの仏頂面のリスト殿も! ぷ! ぷくくくく 

 あの、ごついハンスが? あの、仏頂面のリストが? このヒラヒラパンツを? と、そう想像してしまったカンイチ。笑いが込み上げてくる。ジップさんは……まぁ似合うな。と。 

 

 「どうしたの坊や? え? ええ、大体こんな感じですわ」

 「うぅむ」

 さてと、困った。そう思いぐるりと店内を見まわす。服の注文、仕立て直しも受けているのだろう。巻いた大きな反物や糸も並ぶ。であれば……

 「お嬢さん、裁縫ができるのならば、この白い布をだな……。長さ110cm(3尺)くらい、幅、34cm(1尺)に裁断して……」

 紙に書きながら、注文する。そう、越中ふんどしだ。パンツ、猿股なんかは舶来品。褌が当たり前だったものだ。

 「こんな布どうするの? 坊や?」

 「できるか? と、ワシ……私はこれでも成人してる。”冒険者”のカンイチです」

 自己紹介の職業で【冒険者】という謎の職業を名乗らねばならないのには少々戸惑うものがあるが仕方あるまい。

 「あ、あら! ごめんなさい。カンイチさん。え、ええ。もちろん。マチの仕上げもしたほうが良いわね」

 「うむ。ほつれんようにの。丈夫な方がええ。……いいです。お! そっちの赤い布……赤褌あかふんもいいのぉ。色落ちはどうじゃ?」

 「この”赤”は特別な染料を使っていますの。易々と落ちませんよ」

 「ふむ……この一本の反物から何本とれるかの? 腰ひもの分も入れての」

 「どうかしら……。10mくらいあるから、7~8本は行けると思うけど?」

 と、巻き物から布を引き出し、カンイチに披露する。

 さわり、と、布の表面を撫でるカンイチ。

 「では、反物代と手数料を払う。白と赤、反物一本ずつ分こさえて……作ってくれませんか。注文します」

 「え、ええ。完成は明後日で良いかしら」

 「うむ。じゃ、他にも……」

 他にシャツ、半ズボン。長ズボン。タオルなども普段使いの物を大小購入。商品代と褌の注文の半金を支払い、注文書の控えをもらって店を出る。

 

 「まさか、こっちの世界で、再び褌を締めることになろうとはのぉ」

 と、ボソリ。

 が、内心、出来上がりがものすごく楽しみなカンイチであった。褌は年に数回、祭りのときくらいしか締めないから。気持ちもぐっと引き締まろうというものだ。

 ……

 

 お次は道具屋。細々とした日用品を買いに。

 コップやら、歯ブラシがあったので購入。歯磨き粉はないようなので塩で代用とした。

 99歳にしては、彼の歯はかなりの本数残っていたが、やはり、部分入れ歯やらはあった。今では完品だが。

 

 ――今度は絶対に大切にしよう。もう二度と入れ歯はこりごりじゃ!

 と決意を固めるカンイチであるが、この世界……そのような医療があるかも不明である。

 他にも外で使うように木製の器なども購入。丁度、クマたちの餌入れに良い大きさの木の器があったので二つ購入した。

 マーサさんの御加護でお安くなったのは言うまでもない。

 店を出て、路地に。そこで、サッと”収納”に仕舞う。もちろん警戒は怠らない。

 ……

 

 次は、革細工屋だ。【アノン皮革店】。少々高級な部類の店だろうか、奇麗に磨かれた皮製品が陳列棚を彩る。

 「いらっしゃい」

 「こんにちは。マーサさんの紹介で」

 「ああ、ギルドの? じゃぁ、冒険者さんかい?」

 「はい。背負い袋、財布とかを」

 「うん。じゃぁ、これなんかどうだい?」

 趣味の良い革性の背負い袋。シンプルなデザインのリュックサックと肩掛けバッグ。

 手に取り、思い出にふけるカンイチ爺さん。息子が中学生の時に使っていたような鞄だな。帆布製ではなく、革製だが。と。

 その鞄を即、購入。財布はお札自体が無いから、巾着とがま口の二種類のようだ。

 

 ――そういえば、息子の……誰だったか。新婚旅行の土産でカンガルーの金〇袋の巾着とやらを買って来たな。どう見ても牛革だったが……

 と、またも、家族との思い出を思い出す。

 懐かしい思い出に浸りながら物色。普段使い用の巾着と、追剥に襲われた時用の巾着とで二つ購入。これさえあれば、命までは取られまいと。と一安心。のカンイチ

 ……日本ではだが。ここは異世界……さて。

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