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二(かんいち)爺ちゃん、異世界へ!(仮)  作者: ぷりぷり星人
序章
3/520

二(かんいち)爺さん

新作始めましたぁ~♪ 『おいらの嫁さん、オークなの? ねぇ? 神様?』の方が終わる気配がないのに…というのは置いておいて…


 こっちの作品は章単位の不定期投稿になる予定です。当面はストックがありますので連投になる…かな?

 「なんじゃぁ……アレは……」

 「かんいっつぁああん! ありゃなんだ! おい! かんいっつぁん!」

 ベテラン猟師のタツの声が木魂す!

 他の猟師たちは目を見開き今にも手にしている猟銃を取り落としそうだ。

 

 辺りに散る赤い飛沫、血の臭いが否応なく、現実世界に引き戻す!


 目の前に屹立する熊? いや、熊だろうか? あれは……


 「知るか! 猟師のお前が知らんのなら、が、ありゃぁ、誰も知るめぇよ」

 と叫ぶように応えるかんいちと呼ばれる老人。それでいて後半は小声に。己に聞かせるように……

 「かんいちさん! さがれぇ! タツぅ! タツ! 撃つぞぉ!」

 やっと己を取り戻した猟師が、この場で最も頼りになるであろう、猟銃を構える。

 「応!」

 耳をつんざく銃声が辺りの山に木魂する……何発も……

 

 ……


 誰が想像出来ただろうか。日常の世界が非日常になる瞬間を……


 …………

 

 ……

 


 「大じぃちゃん! また来るね!」

 「大じいちゃん、ばいばい!」

 小学生くらいの兄妹が車の窓から老人に大袈裟に手を振る。

 「おうおう。悠斗! 爺ちゃん、来年までなんとか頑張るでのぉ! 早紀も良い子にするんじゃぞぉ」

 それに、顔中クシャリと満面の笑みで応じる老人。彼らの曽祖父に当たる。目に入れても痛くない可愛い曾孫たちだ。

 「うん! がんばれ! 大じいちゃん! 長生きだ! 来年来るまで生きててよ!」

 「うん。クマ、ハナも、ばいばい」

 「おうおう! 大爺ちゃん、頑張るでのぉ!」

 それに大声で応える元気な曽祖父。

 ”ぅおん!””ぅわん!”犬達も。

 

 「こら。悠斗。……なぁ、爺ちゃん、うちに来ないかい?」

 と、子供達の父親、老人の孫にあたる……が、声をかける。『一緒に暮らそう』……そう。一人暮らしの曽祖父の身を案じての事。

 「ありがとうよ。が、皆に迷惑かけたくないでのぉ」

 少々、寂しげにつぶやく老人。そりゃ、孫が心配してくれているのだ! 嬉しいに決まっている。

 

 「お爺さん、大丈夫ですよ。来てください。悠斗も喜びますし」

 と、孫の妻が優しく声を掛ける。

 「美沙さん……有難い……。有難いのぉ。だがの。きっと、都会に出りゃぁ、ワシはボケるしのぉ。足腰だって。恐ろしく迷惑をかける……。それにハナとクマ(どでかいハスキー)も連れてはいけまいよ?

 大丈夫だて。近所の連中も注意してくれとる。どうせ、寿命だってそう残っておるまいで。ワシわぁ、好き勝手にやるさぁ」

 犬の頭を撫でながら答える老人。応えるように、慰めるように老人の顔を舐める犬達。

 

 「かんいち爺ちゃん……」

 「今わの際にゃぁ、間に合わんだろうがの。ま、その時は、その時じゃ! まぁ、ぼちぼちの。なにも慌ててくることはないぞう。ゆっくり、旅行気分で来るとええ。隣町の温泉宿でもとってのぉ。村の連中が葬式くらい出してくれるじゃろて」

 諭すように言葉を紡ぐかんいち爺さん。ここには、婆さんの墓もある。今更動くことも無かろう。ここに一緒に骨をうずめる覚悟だ。

 

 「爺ちゃん……」

 「ありがとのぉ。……。? ……。……勇樹ゆうき?」

 「俺は、勇佑ゆうすけだよ! 爺ちゃん、なんで俺だけ、いっつも間違えるんだ?」

 「ありゃ? こりゃぁ、すまんのぉ」

 ”はっはっはっはっは”

 ……

 

 夏休みの田舎。都会から顔を見せにやって来た孫、曾孫たちとの別れ、何処でも見られるごく普通の風景……


 

 俺は勇佑ゆうすけかんいち爺さんの孫に当たる。

 かんいち爺ちゃん。本名だ。漢数字の『二』、一文字で『かんいち』と読む。もちろん当て字だ。

 戦争で死んだ、かんいち爺ちゃんの兄はもちろん、『はじめ』さんだ。若くして亡くなったという。

 弟が、『宗次郎』というのが、爺ちゃんの名前談話のオチになっている。是非とも『三』で何某かを考えてほしかったところではある。

 

 大正生まれの今年、白寿(99歳)の祖父だ。山脈から飛び出た深い森の中の小さな村に居を構え、二匹のハスキー犬……普通のハスキーの二回りは大きい。みな最初は、オオカミかと思うくらいだ……と暮らしている。

 

 爺ちゃんの実家はもっと交通の便の良い賑やかな所にあるのだが、戦後、町の喧噪を嫌い、ここに引っ越して来たという。その資金源も、戦後の東京の闇市で、夜行列車で運んだ田舎の農産物を大量に売り捌いて稼ぎ出したという。

 明るく、結構ハチャメチャ? な武勇伝をいくつも持つかんいち爺ちゃんは村でも人気者だ。

 

 大自然の中、畑を耕し、今尚、耕運機をも乗り回す(違法だが…山奥の農村だ。裏の畑に行くときに少々公道を横切るとか?)、元気溌剌爺さんだ。

 俺の親父、かんいち爺ちゃんの次男に当たる――も生きてるが、親父よりもずっと若い。変な話、50代と言っても通るかもしれない。

 昔の人としては背も175cmと高く、背筋もシャンと伸び、下腹も出ていない細マッチョ。頭髪も少しは薄いが、真っ白。雪のような白髪だ。顔にも変なシミも出ていないし……。

 髪染めて、爺さん言葉を直せば……。まぁ、戦争から帰って来て戦後を生き抜いてきた苦労の皴は深く刻まれてるがね。老人というものから一番遠い”老人”だろう。

 俺なんかよりずっとモテそうだしな!

 

 そんな爺ちゃんも数えで100だ。親父は兄貴が診てるから、俺達が爺ちゃんの面倒をみよう思ったのだが……

 まぁ、断られるのは想定の範囲。決して、コンクリートと喧騒の都会には来ないだろうなぁ。

 それに、この山々。大自然。爺ちゃんがいるから来れるようなものだ。

 今年の夏休みも、川で大いに遊び、カブトムシを大量に捕まえ、お盆の花火大会、夏祭りに繰り出した。子供達も大満足だろう。

 

 俺が子供の頃は、ひと月、夏休み丸々居たものなぁ。兄弟だけで預けられたっけ。今は、婆ちゃんも居ないし、爺ちゃん一人だと大変だろう。

 だから、できるだけ有休を固めて家族で来るって訳だ。先に帰ったが、従弟の雄大ゆうだいの一家も来てたな。爺さんから見れば同じ孫だし。

 で、今日、俺達が帰るという訳だ。車の窓から身を乗り出して手を振る曾孫を、車が見えなくなるまで見送る爺ちゃん。寂しくなるのだろうなぁ……

 ”ぅおん! ぅおおん”

 クマ、何時まで追って来るんだ? しかし、足速いな、おまえ……

 

 ……元気でね。爺ちゃん。来年も来るよ。


 

 

 鬱蒼と深い山。そのすそ野に約30軒の集落がある。その名も”深山みやま村”ちゃんと電気ガスも来てるし、郵便物だって届く。

 以前は林業、木材の販売で莫大な富を上げていたが、輸入木材に取って代わられ、産業はサビれ過疎化が進み、当時の面影としては、切り出した木材の運搬用のロープウェイの支柱と、トロッコの軌道跡、広い木材集積所跡地があるだけだ。

 

 以前はJRの最寄りの駅からもバスで2~3時間かかっていたが、何時の間にかに新幹線の駅ができ、その駅までは一時間ちょっとで行ける。

 が、在来線の乗り入れも無く、乗降者も少ない。なにせ、山以外何もない処だ。

 こんな所に、ご立派な新幹線の駅が在っても……といった様子だ。ま、予算の余っている政府と、公共事業のあがりの賄賂目当ての政治家、土地が高値で売れる地元の名士の方針だ。住んでる者の意向など全くと言って良い程関係あるまい。

 

 買い物は隣り町にある、Aコープが唯一の”百貨店”だ。農薬から、日用品、海の魚の刺身まで何でも売っている。かんいち爺さんは、生鮮野菜や、米は自給や交換で仕入れ、肉は、もっぱら野鳥やら猪だが。ほぼ、自給が叶っている。


 そんな山奥の静かな山里にも、最近は、インターネット環境とリモートワークというもので、若い家族――若い家族と言っても、子供がいる夫婦ではなく、子育てが済み、会社経営者や、会社に行かずとも仕事になる、地位のある連中が、やって来る。政府の経済政策で引かれた光回線の恩恵で。

 そんな家族も15軒加わり、消滅しかけていた集落に再び僅かながらにも活気が戻る。

 そして文明の利器が革命を起こす。そう、ネット環境。ド田舎に居ながらにして日本中、世界中の品物が、この山奥まで届くのだ。

 入植者達も村の老人達との交流のツールの一つとして、インターネットを活用し、買い物や、調べもの等をほう助してくれる。おかげで、生活も大分近代化されてきた。

 村の老人なぞ、腕時計型の端末で日々、健康管理をしているほどだ。

 

 スーパーは来てはくれないが、こんな山奥でも警察、救急車、役所の連中。葬儀屋と宅急便は来てくれるから。


 この物語はそこに二匹の愛犬と住む、田畑たばた かんいち、99歳。彼が体験する物語……その始まり……

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