少しは酒量抑えんとのぉ (スサムの町)
……
マチルダの案内で鍛冶師ギルド、ギルド長所有の物件【石造りの家】にやってきた一行。
「ほぉう? 落ち着いた雰囲気の良い家じゃなぁ。庭も広く取られて……」
「へぇ! 元々お店? いいねぇ! 気に入ったよ! いっそのこと、ここ買い取って住んじゃう? カンイチ?」
「う~~む……」
真剣に考え込むカンイチ。敷地も三百坪近くあろうか。町はずれとはいえ、城壁内。これだけの広さは貴族街でも珍しい。馬を自由に走らせる事は出来ないが、クマ達なら問題ない広さだ。そこに六十坪程度の石積み造りの二階建ての家。
一階はレストラン。庭にもテーブルが並べられ、草花を観賞しながら食事が楽しめたのだろう。二階は住居、地下は大きなワイン貯蔵庫になっている。
「お、おい? カンイチ?」
あまりにも真剣に悩むカンイチに少々焦ったガハルトが声をかける。
ここを買い取って居座るのかと。
「ん? 安心せいガハルト。ダンジョン行は決定じゃ」
「そ、そうか、ならいい」
ほっと、胸を撫でおろすガハルト
その様子を見てクスクス笑うアールカエフとイザーク。
「どうぞ、ご自由にお使いくださいませ。後ほど魔力を注ぎに参りますので」
「うん? 構わないよ! 僕がいるんだ! カンイチだっているし? それくらいこっちでやるよ?」
「ですが、お客様に……」
「すぐ、風呂も入りたいで。構いませんよマチルダさん」
「それでは……。あとで迎えを寄こします。それまでごゆるりと」
「お世話になります」
クマたちの手綱を外し、ゆっくりと庭を歩く。家庭菜園程度であれば十分な広さだ。
厩にハク、リツを繋ぐ。ハクは農耕馬だからそう走らせなくとも良いが、リツは軍馬。牧場に預けるか、外に連れ出して走らせなくてはなるまい。
それに、建物も気に入った。間取りやらは好きにリフォームすれば問題ないだろう。
「う~ん。建てるとしたらこんなモダンな家がええのぉ」
腕を組んで、家を眺めていると、アールカエフが隣に。
「そうだね! 結構広いしぃ。僕の商品も全部出せるね!」
「……いや、それは整理せような。アールよ……」
折角の庭がガラクタの塔で埋もれてしまう……。フィヤマにあったアールカエフ邸を思い出す。
「で、今晩はデート? 例のリストにこの町にレストランある?」
「ふむ? どれ……スサム……スサムと……。あったあった! レストラン『ヴォイエーロ』? じゃそうじゃ」
「楽しみだね! カンイチ!」
自分に向けられる笑顔……嬉しくもあり、少々照れ臭いカンイチだった……
「……またですかぁ。行こう、クマ!」
”ぅおふ……”
その横を通り過ぎるイザーク君とクマ……
「「……」」
……
「さてと。家も無事に借りられた。休暇は2~3週間の予定じゃ。でじゃ、この町での活動方針としては?」
「そうさなぁ。ワシらはしばらくは夜は宴じゃろうの。で、日中は鍛冶を少々といったところか。少しは酒量抑えんとのぉ。ダンジョンがきつくなるわい」
「アンタぁ。じゃぁ地上で鍛冶屋でもするかい?」
「ディアンよ……何のためにワシらはこんなとこまで来たんじゃい?」
「まったく……しょうがない母ちゃんだなぁ……」
「ううぅ」
と、相変わらずのディアン。
「まったくもう! ディアン君は! で、イザック君は? 「イザーク君じゃ」 ……冒険者ギルド?」
「そうですねぇ。ガハルトさんとギルドで情報収集でしょうか。後は必要な物の買いだし。マジックバッグもあるし、カンイチさん達もいるし? 余計に買っても大丈夫でしょう?」
「そうじゃなぁ。が、目をつけられないようにの」
「は? カンイチがそれ言う!? 困った君だな!」
アールカエフの指摘に皆で頷く……
カンイチは赤面ものだ
「なぁ、カンイチよ。また変わった武器はないのか?」
とは、ガハルト。腰に下がるトンファーを撫でながら。
「……もうええじゃろうよ。親方に預けてある絵図で実用化していないものもあろうに?」
「俺も遠距離攻撃の手段をな」
「……槍でも投げればよかろうよ。ガハルトは」
「カンイチ!」
「ふむ。満更でもあるまい。暇見て投げ槍つくっておくかの。ガハルト殿?」
「親方まで……。こう、今までにない……工夫がいる武具をなぁ」
「……面倒じゃな……ま、皆、町中じゃ注意せよう」
……
親方達を迎えに来た馬車を見送る、カンイチ。
「さてと。わしらも飯食いに行こうかの」
「そうだね! ブラブラしながら。美味しい物沢山あるといいね! カンイチ! フジ殿!」
『うむ』
……
腕を組み街を行く二人と一頭。アールカエフはすっぽりとフードを被り翡翠色の髪を隠す。
フジは赤いスカーフと手綱装備だ。手綱もディアンが色紐を組み、カラフルでお洒落な逸品になっている。フジは首輪をしていない。前脚を通し背に手綱をつけるハーネスだ。本来の姿になる時には金具が自動で外れるようになっている。この辺りはダイインドゥの工夫が光る。そんな事をしなくとも、引き千切るのはフジにとってはたやすいことだが。そもそもが人の世で暮らすための飾りのようなモノ。手綱を引いたくらいじゃフジは止められない。
『ふぅむ。この辺りの串焼きは香ばしい匂いがするな。場所が違えば主たる味付けが変わる。面白き事よ』
「……本当に料理評論家の先生みたいじゃな。フジよ……」
『感想を言ったまで。どれ、あそこの屋台を覗こうか!』
「食うのは今度じゃぞ? 今日はレストランじゃ」
『うむ。ん?』
「どうしたんじゃ? フジ?」
『エルフ殿、金頭のエルフがつけてきてるが?』
「うん。ま、監視でしょ? ご苦労な事で。手は出さないと思うよ? フジ殿が脅しつけたから。多分?」
店の軒先を覗きながらのんびりレストランへと向かう。
「う~ん。温かい! ねぇ? ちゅーする?」
「……町中だぞい。まったく。布団も買った方がええかの……」
「はぁ? スメルトの町で羽根布団買ったじゃん! フカフカの。鳥臭いっていうから、わざわざフジ殿に”洗浄”までしてもらって!」
スメルトの町の名物でもある、高級羽毛布団。もちろん中味はオオタルミカモの羽毛だ。
「う~ん。温かいのじゃが……わしには軽すぎてのぉ」
「しょうがないなぁ~カンイチは」
『うむ。少々暑過ぎるなあの布団は』
「そりゃぁ、フジ殿は自前の立派な毛皮着てるし? そりゃぁ、暑いでしょうよ?」
「そうじゃなぁ。布団なんぞ必要あるまいよ?」
『いや、あれはあれでな。幼き頃、母に抱かれているような……』
「そうかの。なら仕方ないの」
「へぇ! フジ殿のお母さんかぁ。どんな人……フェンリルだったの?」
『うむ。とても厳しい。厳しい母であった。が、その愛情も……」
フジの身の上話を聞きながらレストランを目指すカンイチ達。
カンイチの目にはうっすらと涙が……




