……ならええがのぉ (鍛冶師ギルドにて)
……
ファロフィアナとのギスギスした再会。そんな事もすっかり忘れたかのように【スサム】の町を征くカンイチ一行。広い中央大通り。その左右には大店が軒を連ねる。
商人の姿も目に付き多くの荷馬車も行きかう。その荷馬車には商会の紋章と共に各国の国旗もたなびいている。
「ほぅ! 大きな店が多いのぉ! そんなにダンジョンとやらは金になるのかの?」
活気のある街にはしゃぐカンイチ。
「それもあるけど、帝国やらこの周辺国は穀物の産地だから、あちこちから買付けに来るんじゃない? たぶん?」
と、隣を歩くアールカエフ
この町なら帝国にも近く穀物や交易品の交易の場、輸送の基地にでもなっているのだろう。
「なるほどのぉ。穀物か! 米があるとええがなぁ」
存在自体は確認済みだ。後は食味が耐えられるかどうかだ。
「コメ? そんなに食べたいの? カンイチ。馬の餌だぞ?」
「……わしの世界じゃぁ主食だったんじゃ。ものすごい種類がってのぉ。炊いて食うと美味い」
「……ふぅん。……カンイチの生まれた所って、随分とひもじい国だったんだね?」
「……そんなことは無い……と思うがのぉ」
が、よく考えれば、こちらの方が幾分まともともに思える。CO2問題、環境汚染なんか皆無だろう。昔良き日本。確かに貧しかったが、皆、自然と共存してた。
TVだって特に必要としていなかったカンイチ爺さんだ。スマホだって名と形を知ってる程度だ。そんな彼から見たらこちらの世界の方が”魔法”がある分、豊かなのかもしれない。
「ま、良いじゃん? 別に? どうせ帰れないんだろう? それに僕を置いてくなんて許さん! 絶対!」
「お、おう。そうじゃな。ずっと一緒にいておくれ。アールよ」
「うんむ! 当たり前だろう! カンイチ! ぅん? なんだい? イザック君!」
そんな二人の会話を羨ましそうに見ていたイザーク君。
「……なんでもないですよ」
「くくく。イザークも探せばよかろうが? 何ならチームを抜けても構わんぞ?」
イザークの背後からガハルト。
「ええ! まだ何もしてませんよ? 俺!? ”鉄”に逆戻り?」
「そんな事もあるまい? 装備だってガラリと変わったし。金子だってかなりあるだろう? なにより、実力にしてもな。”鉄”などはあるまいよ。試しに、ここで昇格審査受けてみるか? ”銀”だって夢じゃぁなかろうさ」
「ほ、本当ですか! ガハルトさん! ……でも、昔ほど憧れないんですよねぇ。冒険者かぁ……」
ふぅと、息を吐き、空を見上げるイザーク。
「うんむ! イザック君は料理人で大成するだろう! 自分で採取や狩りをして、それを自分の店で出す……。なんかいいね! 素敵だなぁ。ねぇ? イザック君!」
「……イザーク君じゃ。それに抜けられても困る。わしの畑耕す仲間じゃし? わが農村最初の住人じゃ!」
「お、おいおい、カンイチよ……」
少々呆れ顔のガハルト。カンイチの中では決定事項らしい。
『うむ! 我はイザークの子孫に代々世話になろうと思ってるのだ。余計な事を言うな! ガハルト!』
「は、はいぃ? フ、フジ様?」
「くくく。”フェンリル使い”のイザークか? ガハルト以上の威風じゃぁなぁ。のぉ、親方! イザーク君?」
「ほっほっほ。そうだの。”銀”どころか、即、”ミスリル”じゃろうよ?」
「……や、やめてくださいよぉ。カンイチさん、親方ぁ……」
『どのみち、番云々はダンジョンとやらの後だな! 万事、我に任せておけい! イザークよ! 丈夫な子を産めそうなのを選んでやろう!』
「は? はぁ……?」
「よかったのぉ。イザーク。将来は安泰じゃの。で、どうすんじゃ、カンイチよ? この町で長期休暇をとるのか?」
「親方はどう思う?」
「そうさな。酒を措いてもここは大きな町じゃし? 情報収集や物資の購入も十分にできようさ。なにより、アマナシャーゴ国に入っちまったら、ガハルト殿がジッとしてはおられまいよ?」
「……親方」
「くくく。そうじゃな。いつ行くんだ! 今日か! 明日かと騒ごうな。親方、ここの鍛冶師ギルドでまた家借りられるかの?」
「騒がぬわ……ガキであるまいし!」
「大丈夫じゃろうさ。今から行ってみようかいの。さてと、確か北の方だったよの?」
「うん? アンタ。オレはこの町初めてだからわからないよ? 場所」
「そうじゃったけか? まぁ、先に進もうかの」
……
「おうおう! よう来た! よう来た! ダイインドゥ!」
「おう! 久しぶりじゃな! リュベッケよ!」
ここは鍛冶師ギルドのギルド長室。
ガシリと抱き合うドワーフ族。これもいつもの光景だ。
「で、これがワシの嫁のディアンと娘のミスリールじゃ!」
「んを? こりゃ、別嬪じゃの! 初めてじゃな! よろしくのぉ! んで、家族そろってこんな所まで何しに来たんじゃ? ダイインドゥよ? 主はサヴァの王都におったじゃろうに?」
「おう、そうじゃそうじゃ、ちと、アマナシャーゴのダンジョンを覗きに行こうと思ってのぉ」
「は? いい年こいてダンジョンかの?」
「うるさいわい。ワシはまだまだ若ぞぃ!」
「もっほっほっほ! よぉし! ともあれ一杯行くぞぉ!」
「その前にじゃな、リュベッケよ。少しの間、家を借りたいのじゃが……大きな庭付きの家ないかの? ギルドで管理しちょる牧場でも構わん。広い庭のある宿を紹介してくれても良いで。それでじゃ! 紹介したい! ワシの仲間じゃ!」
「おうおう! 歓迎するぞい! 客人よ! ぅん? ちと待っておれ。家……のぉ。マチルダ! マチルダぁ!」
自己紹介、歓談をしているとお茶のワゴンを押して人族の細身の女性の事務員が入って来た。
「随分とご機嫌ですねぇ。ギルド長?」
「おぅ! 古い知り合いとの再会じゃ! すぐ飲み屋を押さえておくれ。連日での! 暫く飲み会じゃな! それと、大きな宿舎ってあったかの? 街はずれの牧場の権利ってウチ、持ってたっけか?」
「当たり前でしょうに。牧場も『商人ギルド』と共同経営ですよ。五年前に領主から払い下されたときに買ったでしょうに?」
「うん? そんなもん買ってどうするんじゃ?」
「……ま、その辺りは今更ですので。ちゃんと経営して利益も出ておりますよ。この町は交通の要所ですし。っと、遅ればせながら、私、マチルダと申します。以後、お見知りおきを。親方」
「んむ。ワシはダイインドゥという。よろしく頼むの」
「貴殿が、名工の……お会いできて光栄にございます。ダイインドゥ師」
「ふふん! ワシの方が鍛冶の腕も男前も上じゃわい!」
「……リュベッケ・ギルド長……ちぃさい……小さいですぞぉ! 人として!」
「はぁぐぅ!」
マチルダの言葉に怯むリュベッケ。そんなギルド長を他所に、手帳を捲るマチルダ女史。
良い関係じゃのぉと眺めるカンイチだった。




