気のいい人たちですよ (ファロフィアナ再び)
……
【剣の山脈】沿いの街道を次の町目指し北上。途中途中、休憩時にイザークがクマたちを連れて草原へと降りていく。
「いくぞ! クマ! ハナ! シロ! フジ様も来ます?」
”おふ!” ”わぅ!” ”ぅおふ!”
『うむ。イザークよ! 美味い草を捜そう。ここらは蛇がいないな』
「そうですね。寒すぎるのでしょう」
クマたちの運動と食事を兼ねて。ちゃんと食事は与えている。が、この世界のもの、魔力を蓄えたものを食す。格を上げるためには必要な儀式なのだろう
走り出すクマ達を走り追うイザーク。その後ろからのそりとフジが続く。
「うん? カンイチよ。狼使いは廃業か? みな、イザークに取られてしまったな! はっはっは!」
「特に狼使い名乗った覚えはないがのぉ。わし、生粋の農家じゃし?」
「……そうだったな。カンイチ爺さんは」
「はっはっは! じゃ、僕たちもお茶にしよう! ディアン君! 酒は駄目だぞぉ!」
おおよそ、平穏に時は過ぎていく……
……
「うわわ! ここが、【スサム』ぅ? よっぽど冒険者の町ですね!」
入町審査の列に並ぶ。商人と冒険者が半々といったところか。
「こっちにも【マロタス】にいた連中が流れてきてるのか? 確かに冒険者風のが沢山いるなぁ」
国境の町【スサム】。フィヤマの倍はあろうか。国境の町という割には国境の壁は見当たらない。内陸に入っているせいか、町の壁自体も簡素なものだ。
門から見える町並は賑やかく、町を縦断するように伸びる大通り。大きな店舗も軒を並べている。
「うん? 今までのように国境門が無い……のぉ?」
「確か、もう暫く行くと壁自体はあったと思うがな。この辺りは帝国の属国のようなものだしなぁ。【アマナシャーゴ国】に至ってはほとんど直轄地だ。必要もなかろうさ」
「ふぅん。国境門までは暫くあるのか……」
「で、どうするんだ? カンイチ?」
「ん? ガハルト? どうとは?」
「いやな、マロタスの町では休暇は取れなかっただろう?」
「そうさなぁ。後で協議しようかの。ここでの長期休暇もええが、いっそのこと、2~3日はゆっくりして、アマナシャーゴ国に入っちまうのも手じゃな」
「なるほどな。ふむ」
「それじゃぁ、ガハルト君が毎日、ダンジョン、ダンジョンって騒ぐぞ?」
「そ、そんな事は? ……アール様」
「ふぅむ。おおいにありえるの。国境の町にもあるのかのぉ? ダンジョン?」
「確か、無いと記憶しているが?」
「なら大丈夫じゃろ?」
「……おい」
入町の審査の列も徐々に短くなり、いよいよというところに
「やぁ、やぁ。お待ちしておりましたよ。スーィレン様。ダリオン、ティーターもご苦労様」
アールカエフと同様、緑色の髪のエルフ。ニコニコと愛想笑いを張り付けて再びの登場。
「はふぅ。……ファロフィアナ君? 暇なのかい? 君は? 僕にはまったく用事は無いのだけれど?」
「そうは仰っても。何分、サヴァ国から出られなかったスーィレン様ですから? 色々と騒がしいものですよ。サヴァ国なんかは帝国やらイヴァーシに行かないか戦々恐々。情報収集に躍起になっておりますよ」
「ふ~~ん。それは御苦労な事で? 何処の国にも属す気なんかこれっぽっちもないけどね。僕は」
「そうおっしゃられても……。地図の上をちょこちょこ出歩いているだけで迷惑なんですけど?」
一瞬だが、ファロフィアナ目つきが変わる。殺気こそ出てはいないが。
「ファロフィアナ様!」
ダリオン、一歩前に出る。
「そう? なら、地上に壁造って勝手に境界線敷いてる国? 王家とやらを全て排除して境を綺麗さっぱり無くすのも手だなぁ。そうすれば君らに煩わされることも無いしぃ? 何処にでも行き放題だ。ねぇ、カンイチ? 先ずは大陸一番とでも思ってる帝国からかねぇ?」
こちらは何時もの表情。にこやかに物騒なことを口にするアールカエフ
「そうさなぁ。放っておいてくれるのが一番じゃがの」
只、畑が欲しい。それだけなのだが、命を狙われるのであれば別。
「ははは。冗談! 冗談ですって! 話はついております。どうぞ、町に入ってください」
「そう? 僕は冗談じゃないけど? なんか、もう、面倒くさいしぃ?」
「ス、スーィレン様!?」
狼狽える二人の若いエルフ。今のアールカエフならやりかねないと。ハイエルフを超える者
そして、フェンリルもいる。決して不可能ではないと。
「あれ? スーィレン様は冗談を理解されるお方だと伺って…… くっ! ぐぅ」
がくりと片膝をつくファロフィアナ。
『お前の下らぬ話なぞ聞く気はない。不快だ。退け……』
のそりとアールカエフの前に出るフジ。怒気を隠そうともせずに
二人の若いエルフは動けず、周りにいた門衛やら審査を受けていた商人、冒険者も何事かと武器を手に周りに辺りに目を向ける。中には尻もちをつき失禁するものも。
「じゃ、そういうことで? 行こう! カンイチ。フジ殿」
「おう……」
『ん? また何か不満があるのか? お爺?』
「いや、わしもフジと同じ気持ちじゃ」
『ならばよい』
……
膝をついたままカンイチ達を見送るファロフィアナ。その顔は青く珍しく汗がにじむ。
「ファ、ファロフィアナ様……」
「だ、大丈夫ですか?」
「ふ、ふふふ。少々、踏み込み過ぎたようだね。人の世の事。フェンリルには関心のない話だと思ったが……。まさかその尻尾を踏んでしまうとは。それに、使役という訳でも無いようだ。主人であるあの小僧を差し置いて……。自由にしてるものな。こりゃぁ、思った以上に厄介だな……」
「確かに……私も彼らは仲間、パーティと感じました。一緒に食事を摂り、戯れ、遊び……」
「そして、敵には協力して当たると?」
「は、はい。今の生活を気に入っている……そんな印象です」
「ふぅ。こりゃぁ、あまり刺激すると帝国も危ないなぁ。最悪、あのカンイチという小僧を除ければ戦力半減、スーィレン様一人であればなんとかとも思ったが……」
「しかし、ファロフィアナ様。その、カンイチ殿、何か違う……。気の流れ、その体に宿る気配……」
「うん? 一緒にいた君達の意見聞きたいな」
「なんと言うか……」
「神殿にいるような……」
「神かい?」
「そ、そこまでは……」
「変に年寄臭いですが……いや、年寄なのでしょう。人族のあの年齢ではありえない慎重さ、それとあの眼差し……エルフ族でもなし」
「ふ~~ん。なら、神というのも満更……大神様の大いなる加護でも授けられているのか……」
「それに……」
「うん?」
「気のいい人たちですよ」
「ふふふ。懐柔されたかい? ティーター」
「い、いえ」
「ふふふ、冗談さ。そうかもしれないが、放置するわけにもいくまい。引き続き監視頼むね。どうにも私は嫌われているらしいし」
「「はっ――!」」
 




