邪魔する奴は、皆、ぶっ飛ばせぇ♪ (風刃乱れ撃ち)
……
マロタスの町に入り、門衛を騙る賊を除き、街中を急ぎ行くカンイチ一行
賊の生き残りは放置してきた。後方にいるはずだが、街を走る噂は思う以上に速い。待ち伏せされてもつまらない。
「スーィレン様。一つお聞きしても?」
帝国特務、ファロフィアナの部下、金髪の若いエルフがアールカエフに話しかける。
「うん? なんだい? ダリオン君?」
「”御籠り”から生還されたのは本当でしょうか?」
「ふふふ。さて。そうだとしたらキミは信じるかい?」
「……」
真意を探るようにアールカエフの目を覗くダリオン。が、役者が違う。
ふふふと笑うアールカエフ。
「おう! カンイチ! 後ろから変なのがついてくるぞ!」
「ん? ディアンさん? ふむ? 先回りしてるかもしれんな。警戒しながら行こうか。それにしても、ここは立派な町だったんじゃなぁ。一応はまだ商店はあるんじゃなぁ」
比較的綺麗にされている建物。商店として機能しているのだろうか。店先には買取品目と金額が書かれた黒板が置かれている。並びに似たような建物がずらり並ぶ。今は木の板が入り口や窓に打付けられているが。山の富で賑やかだった昔が窺える。
暫く街の様子を見ながら進むと前方に人の壁が現れる。
道を塞ぐように馬車を並べ、その馬車に腰を掛けてニタニタ笑うゴロツキ共。
見るからに盗賊だ。そして間違いなくカンイチ達を待っていたようだ。
「お下がりを……。チッ――!」
周りの建物の窓やら屋根から弓を持った者が現れた。舌打ちをするダリオン。
「おいでなさったようじゃ! カンイチ! ガハルト殿!」
と、御者台からダイインドゥ。
「囲まれたのぉ」
周りの家の屋根から弓、馬車に座ってた賊どもも得物を抜く。
そしてここでも、門衛の恰好をした賊が槍を構える。
「ふぅん。帝国ってのも、大したこと無いんだねぇ」
と、アールカエフの嫌味炸裂。
「「……」」
反論できずに賊を睨む二人の若きエルフ。
「おい! お前らがザッパたちをヤった、帝国のエルフかぁ?」
門衛……いや、既に門衛の恰好をした只の盗賊。その頭や幹部だろう。
堕ちた3人の男が前に出る。
「ふん。帝国の犬がぁ! よぉく、聞けぇ! ここには魔法封じの結界の魔道具がある! お前らの自慢の魔法も届くまいよ!」
「よくも仲間をやってくれたなぁ。……けひひひひ。たっぷりかわいがってやる」
「おいおい。エルフの奴隷は高く売れる。手ぇ出すなよぉ!」
「手は出さねぇさぁ」
と、ズボンを脱ぎだす下種。
「おい! そっちも出すな! バカ野郎がぁ!」
何処がツボだったのだろう、笑い転げる賊ども
ぐるっと囲まれた一行。思った以上に賊の数が多い。
「私達が時間を稼ぎます。スィーレン様だけでも引き返して……」
「くっ、油断した! 魔法封じの結界があると『風の鎧』も……」
いくらなんでも帝国の紋章には剣を向けまいと予測していた二人。そう、油断だ。相手は盗賊。道理などどこ吹く風。
しかも、結界の魔道具まで持ち出して。真贋、効果は措いておいてもエルフにも有効というのだ。決して安いものではないだろう。
若いエルフ達は盾になるつもりのようだ。カンイチ達の前に進み出る。
「は? 無理だろ? 馬車回す前に射殺されちゃうだろう? どら! ♪ 精霊たちよ……この勇気ある者達を御守りください♪ ……矢を逸らす風の鎧を……風の祝福を……♪」
魔法封じの結界がある。そう聞いても構わず魔法を紡ぐアールカエフ。
「す、スーィレン様?」
「お、退きを!」
「何を言っているのだい? 君達は? 諦めるの早すぎ。それでも軍人かい? それに一人で逃げられるわけないだろう? 仲間がいるんだし? それに、僕の仲間を甘く見ないで欲しいねぇ。こんな雑魚、余裕、余裕。でも、危ないから弓は除かないとね!」
”さわさわさわ……”
アールカエフに応えるように風が吹き、皆の外套の裾がふわりと浮かぶ。風の精霊の加護か。
アールカエフの周りには特に濃密な風が。風……何かが遊び、戯れるように。
「うんうん。解ってるさ! もちろんさ! ここで良い所見せないとね! ほら、君達も。僕の精霊様が後押ししてくれるよ? 詠唱を! ぃよっしゃ! 行くぞぉ! ♪ さぁ! 出番だ! 精霊たちよ~♪ 力を示すいい機会だぁ♪ いくぞ! いくぞ! 行くぞぉ! 風の通り道をつくろう~♪ 吹き抜ける一本の道を! 邪魔する奴は~皆ぁ、ぶっ飛ばせぇ~♪ 粉微塵だ~♪ いけ! いけぇ! いけ~♪ おっと! くれぐれも仲間に当てちゃぁ、駄目だよ? いい?」
最初の『風の鎧』の雰囲気と違った何とも勢いのある詠唱歌か
アールカエフを中心に渦を巻く風。その風の渦が一枚、一枚剥がれるように風の刃となり、彼女の指さす相手を屠って行く。あるものは頭を飛ばされ、胴を輪切りにされ……
「ほら! 行った! 行った! やっつけろ!」
建物の屋根やら隙間やらから矢を放つも、『風の鎧』のお陰か、カンイチ達に届く前に空やら地に向きを変える
矢を撃ち終わり、己の矢の行き先に愕然としていると、お返しの風の刃が飛んでくる。
次々と、斬られ、屋根から落ちてくる賊。
ダリオンたちもアールカエフに従い。魔法を放つ。魔法封じの結界の魔道具なぞないように賊を切り刻む。しかも、普段よりだいぶ威力が高い。若いエルフ達も感じている。友の精霊たちも喜んでいるのが。
「こ、これが、スーィレン様の御力……」
と、ダリオン。震える声で。
今は、リツの上に立ち、戦場を睥睨するアールカエフを畏怖の籠った目で見つめる。
「さすがアール様! どれ! 頭どもは俺が頂こう!」
バスターソードを引き抜き駆けだすガハルト。まっすぐ賊の頭の方に!
「ガハルト君! 魔法に過信は禁物! 矢には注意だぞ!」
「おう! お任せを!」
「どれ! オレ達もいくかぁ! アンタぁ! 本当に面白いねぇ! この旅は!」
「おうよ! ディアンよ!」
「弓持ちは任せて! いくよ!」
”どしゅん!” ”ギチィ” ”どしゅん!”
ミスリールの構える大弓が続けざまに鉄の矢を撃ち出す




