門やぶりの罪人さん? (マロタスの町にて)
……
情報収集やら、鴨獲り。寒さ対策の防寒着や毛織の毛布の購入。『鍛冶師ギルド』を通しての穀物の補給も無事に済ませることができた。
幌馬車の改良もダイインドゥの手で行われ寒冷地仕様に。これで出発準備は完了だ。
「それじゃぁ、明日、出立でええかの? 皆の衆?」
「おう。俺たちは特になしだな。イザーク?」
「ええ。盗賊などの話もないようですし?」
と、冒険者組。主に情報収集が役割だ。
「ワシらも準備万端じゃ。のぉ?」
「ああ。酒もたんと飲んだしな。皆の寝台馬車の寒さ対策も問題無いと思うけど。何かあったら言ってくれ」
「馬車に敷く毛皮も結構買ったしね。後は? 親父?」
「そうさなぁ。ダンジョン用の水袋じゃなぁ。小さいものは結構買ったがの。ダンジョンに行くまでに大きなタンクをこさえようと思う。【マロタス】は冒険者の町じゃて、大きな炉もあるじゃろうさ」
此方はダイインドゥ一家。装備や設備の管理が主たる役割だ。
「水……な。果実等も売っていればどんどん買うことにしよう。水代わりにもなるし、ビタミン補給に良かろう」
「びたみん? よぉ解らんが、果実はええと聞くの」
「まぁ、食いもんは結構”収納”に入っているで、壊血病は大丈夫だとは思うがの?」
「何? その壊血病って? カンイチ?」
と、興味津々のアールカエフ
「そうさな。ひもじい飯で新鮮な野菜やら果物からそのビタミンやら栄養素が摂れないとあちこちから出血して死んじまう病気だ」
「へぇ~~」
「うん? ……聞いたことあるな。ダンジョンに長く潜ってたやつがコロって死んだって。彼方此方に内出血。歯から血流して。何かの呪いって話だったが……。そうか、野菜か」
と、ディアン。冒険者の中では謎の死として有名らしい。
「うん、どうにもそれっぽいのぉ」
「こわ! 野菜食べよう! ねぇ、ガハルト君! 野菜の呪いだぞ!」
「……はい。アール様」
「違うわい……」
……
……
「おはようございます! スーィレン様。本日ご出発で?」
門には帝国所属のハイ・エルフのファロフィアナがにこやかな仮面を張り付け見送りに現れた。
「ん? ファロフィアナ君? 勝負じゃないのかい?」
「む、ファロフィアナ……様」
ガハルトの記憶にもある高名な精霊魔法の使い手だ
「御冗談を。この町は楽しめましたか? スーィレン様?」
「そうね。美味しい鴨も食べられたし? で、只のお見送りかね?」
「ふふふ。それは良うござました。一応、先日の件のご報告を。調べたところジョーンズ男爵は無関係。こちらの要請によりマハセの首を差し出してきましたよ。これで終いにするつもりです」
「ふぅん。ま、帝国とそれにくっ付いてる国の事。どうでもいいや。じゃ、それだけなら行くよ?」
「はい。お気をつけて。おっと、そうだ。この私の書状を持って行ってください。門で必ず見せてくださいよ?」
ファロフィアナが出した書類を親指と人差し指で嫌そうに摘まむアールカエフ。
「ええ~~面倒! 変な呪いついてない? これ? ”鑑定”するよ?」
「付いていません! ご自由に! そうそう、一応、スィーレン様は観察対象ですから。ウチの斥候に手出さないでくださいよ?」
「うん? なら、問題が起きないように先に手を回してくれたまえ! ファロフィアナ君!」
「ま、それもそうですね……」
「じゃ、また会おう! ファロフィアナ君!」
……
……
【スメルト】の町を出て二週間の道程。盗賊に襲われることもなく無事【マロタス】の町に到着する。途中途中の農村で多くの野菜を仕入れながら。いたって平和だった。のだが。
冒険者の町といわれるマロタスの町。【剣の山脈】に沿う街道にある。サヴァ国やカブジリカ国では決壊している【古代の防壁】も健在。国も国境軍ならぬ、防衛軍を組織し駐留、警戒に当たっている
町自体は大きいが、防壁に頼ってか、貧相な木柵のみ。
建物も仮設のような掘っ立て小屋が並ぶ。一瞬、貧民窟かと思うほどだ。
「……随分と小汚い町だなぁ。ねぇ。カンイチ」
普通の冒険者の町でああれば富を得る場所。多くの冒険者、買付けに来る商人達が多く集まる場所だ。よって景気は良いものだが……『冒険者の町』の醜いところが目立つ。賭博場、飲み屋、娼館。昼から突っ立つ娼婦たち……。
「そうじゃな。が、活気はあるようじゃて? うん? この町は”審査”はないのかの……無法者の町か?」
「う~ん。前に寄った時はこんなに荒れてはいなかったが……治める貴族が変わったか?」
とガハルト。
カンイチの言う通り門には衛士の姿はない。町に入るのもフリーパスだ。
門やら屋台に屯し、昼間から酒を煽る連中の視線がカンイチ達に集まる
「……うむぅ、こりゃぁ、サッサと抜けた方がええか……。必要なものはあるまい? のぉ、カンイチ?」
「そうじゃなぁ。採取もスメルトの町で出来たでなぁ」
「目立つで、一旦引き返して迂回路を捜そうかい」
「そうしようかい。うん?」
馬車を回そうとしたところ、先ほどまで居なかった門衛? ゴロツキ共が道を塞ぐ
「そんなに慌てて何処行くんだい? 門やぶりの罪人さん?」
ニヤニヤ笑いながら槍を向けるゴロツキ。
「いい馬持ってるな! 貴族が乗ってるような馬じゃねぇか!」
「馬車だってよく出来てんぞ! ウチで貰おう!」
「はぁ、冗談言うな! 俺が貰う!」
「で、どうするんで? ザッパの旦那ぁ?」
ザッパと呼ばれた門衛の長らしき者が娼婦のような女の肩を抱いたまま前に出て来た。酒を飲んでるのだろう。顔は真っ赤だ。
「そりゃぁ、罪人の荷物は没収だなぁ。門やぶりは立派な重罪だぁ! ほれ! 大人しくしろぉ!」
とがなり立てる。いつもこのようにやってくる商人らを貶めているのだろう。
「ふぅぅ……」
このやり取りを見て溜息をつくカンイチ……
「は? まぁ、もういいですけど。でも、よくもガハルトさんいるのに……」
とぼそり、のイザーク君。横のガハルトを見る。
当のガハルトはにやり。牙を剝く。
フードをかぶり、リツに跨り震えている少女……いや、きっと笑いをこらえてるのだろう。もちろんアールカエフだ。
”カタリ”
幌馬車の正面、仕切り板の一部が開き、鉄の矢じりが覗く。ミスリールも準備が整ったようだ
「ううん? ”狼使い”がいるようだな。くっくっく。狼共もいい敷物になるだろうさぁ!」
と、叫ぶザッパ。
『……ほう?』
馬車の屋根に寝そべっていたフジがゆっくりと顔を上げる。この時点でゴロツキ共の運命は決まったようなものだ。
「ふぅむ。只では通さんという訳かいの。で?」
ダイインドゥが御者台からゴロツキ改め、賊に声をかける。
ガハルトは腰に下がるトンファーの腹を撫でる
返答次第ではこのまま戦闘になるだろう。




