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二(かんいち)爺ちゃん、異世界へ!(仮)  作者: ぷりぷり星人
フィヤマの日々
29/520

花園

 ……


 木戸からカーテンをすかし、入ってくる朝日。大通りに面している割には静かな朝。それは未だ、朝日が出て間もないからだろうか。

 

 「ふぅ……」 

 

 昨夜はゆっくりと寝られた。先人の残り香で興奮して眠れないかとも思ったが。思った以上に気疲れしていたのだろう。

 肉体は若く、老練な思考をもってしても昨日は怒涛の日と言ってもいい。いや、あのハンス氏と会っていなかったら……。寝床どころか未だに、街道をあても無くさまよっていたに違いない。

 

 「本当にありがたいことじゃ…ハンスさんや、門衛の方々には感謝じゃのぉ…。さて」

 

 タオルを引っ掴み、裏庭の井戸へ。

 ”ぎっこ、がっこ、ぎっこぎっこ……”

 手動式のポンプを漕いで”じゃばばばぁ!”

 クマもハナもついてきた。美味そうに水を飲む犬達。

 

 「うむ。懐かしいのぉ。深山村でも電動ポンプじゃからなぁ。良いものじゃぁて。あ、そうじゃ! 言葉使いも徐々に若者に直していかなくてはのぉ。……ふむぅ」

 己の事ながら、少々おかしい。中身はジジィなのだからしょうがないが、事情を知らぬ他の人から見たらどうだ? こんな爺臭い言葉を使う子供はいるまい

 こんなことで目立つのも藪蛇だ。ひっそりと生きていくためには。

 

 「しかし、異国の方の言葉はちゃんとわかるのに、ワシの言葉は普通に翻訳されないのはおかしなことじゃ……だな。何故に、爺様言葉になるのじゃ……だろうか」

 確かにおかしな事例だが、そうなっているのは事実とし受け容れるしかないと。この事で神様の御手を煩わすのもしのびないと思うカンイチだった。

 ”ばしゃ、ばしゃり”

 冷たい井戸水が顔の皮膚を引き締める。

 「ふ~~。気持ちいいのぉ……いいな。じゃな……ではなく、だな!」

 すでに大混乱だ。かえって目立つが、必死のカンイチには解らないだろう。

 ……

 

 顔を洗い、散弾銃を引っ張り出し、鞘のままの山刀をマウントに設置。そして、銃剣術の型をなぞる。

 【地球】では、流石に銃剣術は封印していたが、木に結わえ付けた自転車のチューブで柔道の打ち込み等はやっていた。併せてラジヲ体操も。

 こちらの世界は、ずっと”死”に近い。それに、無事、”冒険者”とやらへ就職も決まってしまった事だし。銃剣術も解禁。大いに生きる技となるだろう。

 

 「えいやぁ!」

 裂帛の気合いの乗った突きを放ったところに、

 「おはようさん! ギルド長から聞いてるよ! お宅が期待の新入りかい! 私ゃ、マーサって言うんだ。洗濯とかあったら出しておくれよぉ」

 「おはようございます! 昨日から世話になっておる……お世話になります。カンイチといいます。よろしくお願いします」

 なるべくジジィ語が出ないように、丁寧に、且つ、若々しく話す作戦を取るカンイチ。

 「お? おやぁ? どんな荒くれものかとも思ったが、真面目そうな好青年だわねぇ。言葉使いも普通でいいさね!」

 

 ――普通だとジジィ言葉になってしまうのだが……

 困惑のカンイチ。

 

 「食事も良かったら、もう摂れるよぉ。あと、その狼たちの食事はどうすんだい?」

 「そうですね。なるべく獲物は自分達で調達しようと思っていますが……。繋ぐ場所はあそこで良いですか?」

 「ほぅ! それなら、うちにも卸してもらいたいねぇ。夕食が少しは豊かになるってもんさ。繋ぐところもいいよぉ。女風呂覗きに来る不届き者の牽制になるだろうさ! ははははは!」

 中々に豪放な女将さんだ。であれば、良い関係を築けるだろう

 

 「は、ははは。そうですね。ところで、下着など日用品を購入したいのじゃが……ですが、お勧めの店とかありますか?」

 「そうさねぇ。食事摂るなら、その間に回るといい所、書いておくよ」

 「お願いします!」

 ……

 

 早速食堂に移動。コックと、昨日ギルドで顔を合わせた数人の受付嬢が。出勤前、薄着ですっぴんだ。ここはまさに彼女らのくつろぐ”自宅”なのだろう。

 

 「んげ! 新入り君?」

 「あら、らぁ?」

 胸元や生足を隠す、美女たち……

 「ほらぁ、アンタ達もぉ、明日からちゃんと着替えてから降りてらっしゃいなぁ。そんなんじゃぁ嫁の行き場もないよ!」

 {はぁ~~い}

 「じゃぁ、カンイチ君にもらってもらおうかしらぁ」

 「はっはっはぁ御呼びじゃないってさ! ほら、アホ言ってないでサッサと食べて、出勤なさい! 課長に怒られるわよ!」

 「は~~い。受け付けでまってるわよぉ~~」

 賑々しく出ていく受付嬢たち。

 

 ――思えばえらい所に来てしまったのぉ……

 と。ここは女子寮……妙齢の女性たちの家だ。そこに男一人。枯れていたとはいえ、今では若い肉体を得たカンイチ。何時まで平常心を保てるか。それとも何も感じないか。

 

 「じゃぁ、カンイチ。好きなとこに座っておくれな。あのコックは私の旦那だ。お替りもできるよ」

 「はい。カンイチです。これからよろしくお願いします」

 「うむ。聞いている。こちらこそ頼む」

 恰幅の良い女将さんと、ごついオヤジさん。お似合いの夫婦だろう。住み込みなのか、元々あった宿屋をギルドで借り上げているのか……。居候のカンイチにはどうでもいい事だ。

 

 朝食は、少々硬いパンと分厚い猪のバラ肉のベーコン、野菜スープ。

 地球にいるときは見るだけで腹がいっぱい、胸焼けレベルだが、若いこの身体、ぺろりと平らげてしまった。

 「うむ。美味かった。どうにもこの身体、いささか燃費が悪いような。いや、成長期か? だとしたら何回目になるのかのぉ?」

 食べ終わった食器をもって、洗い場に。

 「こっちで良いさね。お? よく食べたねぇ。若いっていいやね。はい、これが、お店のリストね。ちゃんと値切って買うんだよぉ。舐められないようにね!」

 ”ぱん!”

 と尻に女将さんの激励を受ける。

 「は、はい!」

 店舗のリストは手に入れた。今日は一日買い物に充てよう。そう決めるカンイチであった。

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