やっちまったか……(撃退)
……
バンバン”収納”を使うカンイチ。どうにも人攫いの組織に目を付けられてしまった
相手の策を逆手にとろうとアールカエフの策。罠にかかった体を装い一網打尽といきたかったのだが
……
「はい。マハセさん。チッ! このクソ狼! 邪魔だな!」
カンイチに【隷属の腕輪】を付けようとしたが近くにハナ。ハナを蹴り除けようと足をハナに向けて蹴りだす!
「「不味い!」」
「フジ!」 「フジ殿!」
アールカエフと、カンイチが慌てて飛び出すも後の祭り……
「はぁ? お前らなんで動けるんだよ? ん? ”ぴぅ!” ”ぼっちゅびゅーーーー” ……」
もはや、手遅れ……。その首に不可視の爪が襲い掛かる!
ぽとりと落ちる首。すぐさま間欠泉のように吹き上がる血! よほど体には自信があっただろう。力強く血頭のあった場所に血を送り続ける心臓
「な!」
「お、おい! レギ……? う……喉が痛い? ”ずるり” あれ……ひゅぅう?」
首を飛ばされた仲間に手を伸ばす。も、己の喉にも違和感が。
『あれ』その掠れる声、最後の呼吸と共に定位置から転がる頭
「はぁ! お、おい ”ずるる”」
”どちゃちゃちゃ……”
屈強な5人の手下の首が音もなく、何をされたのでもなく突然落ちた
「な? なぁ! なぁああ!? あ……」
腰が抜けたのか、どさりと尻を付くマハセ。己が逆に身体封じの呪に絡めとられたかのように動きを止める
そして、見てしまった。慌てて立ち上がった女のフードが後ろにずり落ちたのを。尖った耳、零れる翡翠色の髪
「エ、エルフぅ?」
そして異変に気付いた通行人たちも足を止め、悲鳴が上がる!
広がる血の池。通りに転がる5人の首なし男の死体。
「あ~~あ。やっちまったか……」
「もう! フジ殿! ぶっ殺すのは最後って。ハナだって余裕で避けられたでしょうに! まぁ、漢気は認めるけどぉ!」
『フン! 我が番に手を出したのだ。当然の結果であろうに? そいつは生かしたのだ。上出来だろうが!』
「足でしょうに! もう! まぁ、いいや。で、おい。マハセとやら? これはどういった了見だい?」
「ええのかよ。アールよ」
フジとアールカエフの問答? を見ていたマハセはポカンと。彼にはフジの念話は届いていない。
フジとの問答もおわり、マハセに向き、睨みつけるアールカエフ。
アールカエフの目が自分に向けられてると知り、
「ひ、ひぃぃ、エ、エルフ様、お、お許しを! お許しを……」
土下座の格好で必死に許しを請うマハセ。ぺこぺこと腹のぜい肉をものともせずに滑らかに動く様子、コメツキムシも真っ青だ。
「君ぃ? 耳ついてるのかい? で、どういった了見だい!」
「ひ、ひぃ! お、おゆるひ? ”ぴしゅ!” ひ?!」
”ぽとり”
と、地に突いた手のひらの甲に右耳が落ちる。アールカエフの魔法だ。
ちなみに5人の首を斬り飛ばしたのはフジの爪。”飛爪”だ。
「ひ、ひぃぃぃ!」
「聞こえないなら要らないでしょう? 耳? じゃ、もう一回だけ聞くよぉ? 最後ね。聞こえてないかも? だけどぉ? どういった了見だい? マ・ハ・セ・く・ん?」
「ひ、ひぃ! ひぃいいいぃぃぃ!」
恐怖におののくマハセ。口の端には泡を吹き、そのまま心臓発作でも起こしそうな勢いだ。
「う~ん。もういいかぁ。言葉通じないし? ゴブリンみたいに 「は! はひぃ! エ、エルフ様! エルフ様! エルフ様ぁ!」 ん? 続けて」
ゴブリンみたいに処分と、右手をマハセに向ける。その恐怖に慌てて話し出すマハセ。
「はひ。はいぃ! ”収納”持ちの小僧を捕まえてジョーンズ様に、け、献上しようと……。まさか、エ、エルフ様がいらっしゃるとはぁ! 知りませんでしたぁ! ほ、本当です! じゅ、呪を向けたこと……お、お許しくだされーー」
呪を向ける。それはすなわち敵対行動。殺されても文句のいえない行為だ。エルフ、人族係わらず。
「ふぅん。許さないけど? 絶対。んで、そのジョーンズ様とやらは何モノ? 黒幕? 貴族?」
「は、はいぃ! 一応、男爵位は持ってると……買ったとかで?」
「で?」
「はいぃ……。こ、この町、周辺の村々の、か、顔役と申しましょうか……」
「ふぅん。で、悪人?」
「……」
口を噤むマハセ。
「そ。で、ここん家は、マハセ君のお店?」
と、マハセと男達が出てきた商店を指さすアールカエフ。
「は? は、はい……? そ、そうでございます……が? な、何か? エルフ様?」
「うん。じゃぁ、君に襲われた慰謝料? 貰ってくね! たんまりと!」
と、声高々に宣言するアールカエフ。当然だろうと。
「は、はひぃ?」
「カンイチ、縛っちゃって! ぶっ殺すのは後だよ? フジ殿」
『ふん。我にはもはや関心などないわ』
「おう。大人しくしなせぇよ」
「な、何を!?」
恐怖で震え大人しくしているマハセの全身を触り、武器等を持っていないか検め、肩掛け鞄を取り上る。
唯一の抵抗、鞄を取り返そうと伸ばされた手を捻り上げ、後ろ手に縛り上げる。
両足首もきつく縛り、猿轡をし転がす。もぞもぞと蠢くマハセ。
「で、こいつはどうするんじゃ? アールよ?」
カンイチの手には因縁の魔道具。【隷属の腕輪】が握られている。
「そんなガラクタ。そこに置いて」
アールカエフに言われ、地に腕輪を置く。
アールカエフが手をかざし何やら唱えると腕輪が爆散。粉々に。
「はい。処理完了! 魔石あるから拾っておいてね。カンイチ」
「……お、おう」
自分を苦しめた腕輪が一瞬で。カンイチ自身も精神で腕輪に打ち勝ってはいるが……。何とも複雑な表情のカンイチ。そんなカンイチを他所に
「どれ!」
「む! むぅぐむむぅ!」
拘束され転がるマハセの懐を漁るアールカエフ。
「ん? 何してんじゃ? アールよ?」
「盗賊やらは剥ぎ取るに決まってるだろ? 財布、財布。この金の指輪も全部貰って行こう! ご飯代くらいにはなるだろ? うん? 財布も小銭程度? ああ! その肩掛け鞄! マジックバッグだね!」
「むぅうむむむ!!!」
目を見開き抗議の声を上げているのであろうが
「うん? どうせ死んじゃうんだし? 君には要らないでしょうに? おお! 中々の容量だね! 金貨も結構入ってるぞ! しかし、なんで悪党はどいつもこいつも懐が温かいんだい? 頭くるぅ! こいつも慰謝料だな! このバッグ! イザック君に似合いそうだ!」
「イザーク君じゃ……で、慰謝料?」
「当たり前だろう? なにを呆けているんだい? カンイチ。襲われたんだぞ? 僕たち。下手したら奴隷にされてオークションに夫婦そろって目出度く出品されるところだったんだぞ? わかっているかね? んじゃ、良い物あるといいなぁ」
そう言い残し、店舗に入って行くアールカエフ。
「き、危険じゃ、アール!」
カンイチも慌てて続く。マハセを放置して。
……




