それほど美味いのか? (飲み屋にて)
……
「ふぅ。ワインも料理も美味しかったぁ! また来ようね! カンイチ!」
『うむ。あのワイン煮は良い』
「そうじゃな」
ご機嫌で店を出るカンイチ一行。
『で、お爺。出せる肉はあるのか?』
「お? おう。そうじゃ、途中仕留めた猪やら鹿はあるの」
『……何を言っておるのだ。お爺……魔猪や赤トカゲの事だ。ここの料理人の腕を見込んでな』
「あ、ああ。出せるぞ。が、わしらだけでというのものぉ」
『……別に構わんだろう……』
「おい……でも、猪やらも解体に出したいのぉ。結構な数もいるで面倒だ」
「そう? なら、デュラームさんに依頼すれば?」
「そうじゃな。少し歩こうか。アール」
「うん! ちゅーする?」
「……」
「しかし、この町も賑やかいの。内陸に入ってるからかの? それに備えもあるで?」
「そうね。まだ屋台も沢山出てるしね! 少し飲んでいこうよ! フジ殿は串焼き?」
『うむ。あの店が良い。3本買ってくれ』
広場に向かってゆっくりと歩く。フジを連れているので絡まれることはない。絡まれたとしてアールカエフがフードを下ろせば脱兎のごとく逃げていくだろう。
一軒の屋台に入る。
串焼きを摘まみながら軽く一杯。フジも足元で串焼きを堪能している
『うんむ。珍しいな。鶏の肝の串焼きか。この旨味。もう1……いや2本頼んでくれ。お爺』
「うむ。美味い。オヤジさん、肝焼いたやつ、3本」
「おう!」
「僕も! それにしても、冒険者みたいのが多いねぇ。冒険者の町ってこの先の【マロタス】だったろ?」
「うん? 姉さん知らないのかい? 今の時期、オオタルミカモという渡り鳥が東の湿地に来る時期でな。そいつを獲ろうと冒険者の連中が集まってるんだ。ここでたんと餌食うんで脂も良く乗ってなぁ。帝国の宮廷料理には欠かせん食材だ。あちこちの貴族が金貨積んで買い求めるんだわ」
お代わりのワインを置きながら、屋台の親父がこたえる
「へぇ! オオタルミカモって、あの大きな丸まっこいカモだろ? ここで獲れるんだ!」
「うん? アール知ってるのか?」
「うん。羽毟って皮パリパリにじっくりローストにするんだよ? おデブで大きくて食べやすくて美味しいよ。一口噛むと美味しい脂が、びゅ! たっぷりと砕いた胡椒付けて食べるんだ」
「そうそう。脂が美味いんだよなぁ。今の時期ならちょっとお高いが、レストラン『マッケローニ』や、『ヴァルテリナ』なら食えるんじゃねぇかな?」
と串焼きを焼きながらオヤジ。今にも涎が垂れそうだ
「うん? 今年はあまり獲れてねぇみたいだぞ? オヤジ」
「買取価格もずいぶんと上がってたなぁ」
と、並びで飲んでいた他の客が声を上げる。オオタルミカモの狩猟、今の時期の風物詩なのだろう
「ウチでもシーズン中、1、2回は出せるんだがなぁ。常連の冒険者が置いて行ってくれてなぁ。そうかぁ……今年は少ないかぁ。じゃぁ無理っぽいなぁ。っと、へい、おまち!」
カンイチ達の取り皿に肝焼きが置かれる。
もそりと顔を上げ、椅子に座るカンイチの股間から見上げるフジ
『それほど美味いのか? これはひとつ、獲りに行くか?』
「うむ。もう少し情報集めたらの? 湿地、空飛ぶカモじゃろ」
怪しまれないようにフジの首筋をモフモフと撫でながらの”念話”だ。
『お爺の例のアーティファクト。あれであれば間に合おう?』
まさにそういった狩猟用の銃、散弾銃だ。
目を細めるフジ。首の快感と、それほど美味いというカモへの期待だろうか
「うむ。ワシも食ってみたいで。先ずは情報じゃ」
フジの皿に串を外した肝焼きを乗せてやる
「おう? 良く懐いてるなぁ。兄ちゃん。”狼使い”はそうじゃなきゃなぁ」
「……”人使い”かもわからんぞ……。わし、フジに良いように使われてるじゃろう……」
と、ぼそり。
「ぷぷぷ。かもね!」
「オヤジさん、そこの、果実酒一杯くれ」
串焼きをせわしなくひっくり返すオヤジに声をかける。当のフジは満足そうに毛繕いをしている。
「あいよ!」
……
……
「おはよう。カンイチ!」
「おう! おはようさん。昨夜はご苦労じゃったな! ガハルト!」
「いや、丁度いいところで帰ってこれた。あの店は仕舞が早くてな。親方連中は他所の店に。その時にな。親方一家はまだ帰って来てはいないぞ」
「……そうかの……ま、親方も楽しみにしていたで、良かろうさ」
褌をすすぎ、干し場にピンチ(洗濯ばさみ)で留めるカンイチ。今日も蒼天に白の褌がたなびく。
「朝飯はどうするんじゃ? 各自、町でええか?」
「そうだな。どうせ、情報収集で町に出るからなぁ。それでいいだろう。洗濯も溜まっちまったな。出すか……」
ガハルトは基本洗濯は”洗濯屋”にお任せだ。移動中にしても大抵、2~3日で小さい農村やら、宿場町で洗濯に出せる。村人にとってもいい小遣い稼ぎになる。
「あ、そうじゃ、ガハルト。オオタルミカモについて情報集めてくれ」
オオタルミカモと聞いて、空を見上げていたガハルト。カンイチへと向き直る。
今にも食い付きそうな形相だ。
「お! オオタルミカモか! あれ、じっくり焼いて食うと美味いんだよなぁ! うん? この辺りで獲れるのか?」
「おう! そうみたいだ。今が狩り時じゃと。免許やら許可がいるのか知れんがの。その辺りもの」
「ふ~ん。そんなもんないと思うがな。まぁ良かろう。承った。イザークと冒険者ギルドに行って調べてみよう」
「頼むのぉ」
……
「おはよう。今日は何する? カンイチ。デート? それともデート?」
「うむ……そうじゃなぁ。デートもええが、寒さ対策の服やら日用品も買わねばなるまい? それと、暖房の魔道具どうすんじゃ?」
「ん? 図面は親方に渡してるよ? それが出来次第だね。鍜治場借りて作るんじゃない? そいつに魔石を組んで動くようにするのが僕の仕事さ!」
「おう。任せた。とりあえず朝市に行こう。腹減ったじゃろ?」
「ぅむむぅ。もう、ペコペコだよぉ。カンイチぃ~~」
「フジも行くかのぉ?」
『うむ。もちろんだ。ハナも連れて行こうぞ』
「ダブルデートだね! いいね! いいねぇ!」
「そうせようか」
「ご飯食べて、掘り出し物捜そう!」




