カンイチ! ちゅーー! (スメルトの町にて)
……
「さてと……この町にレストランあるかのぉ」
と、収納からレストラン目録を引っ張り出すカンイチ。それを手に取るアールカエフ。
「どらどら。ふむ。一応あるみたいよ? ここ、【スメルト】だよね? え~~と……『マッケローニ』? だって」
『うむ。どんなものを食わせてくれるか楽しみだな』
「そうじゃの……また、親方達と一緒になるやも知れんのぉ」
「かもね!」
と、カンイチの腕に、腕を絡め、頬を寄せるアールカエフ
「ねぇ! キスしよう! カンイチ! ちゅーー!」
「お、おいおい……アールよ?」
カンイチだってやぶさかじゃぁない。が、フジの視線が気になる……。獣、魔獣といえど、知能も高く、人語も操る……
『我だって我慢してるのだ。他所でやれ、他所で!』
「む~~ん! フジ殿もバンバンやっちゃえばいいのにぃ!」
「おいおい……アールよ……」
『落ち着いてからだな。子を産み育てるには安全な場所が必須ぞ? エルフ殿』
「そりゃぁ、そうだけどぉ」
『それに長い生。1~2年どうということもあるまいに?』
「……何時も盛ってるフジ殿の台詞じゃないね! それ!」
と、ブツブツ……
「おいおい」
『まぁ、ハナにはもう暫く時が必要であるがな! 手を出したくともだせん! はっはっは!』
「僕は準備オッケーだよ? カンイチ!」
「お、おう?」
『うん? ダンジョンにだって暫く居よう? エルフ殿はダンジョンの中で子を産むのか?』
「……もういいよ。はぁ」
「よしよし、アールよ」
「カンイチがはっきりしないのが悪いんだぞ!」
「ほ!?」
街はずれの寂しい道から徐々に人通りも増え賑やかに
そして大通り、繁華街へと。
店舗自体が少ないようだが、多くの屋台が通路の片側にずらりと並ぶ。これも道の狭い城塞都市ならではか。
「少々冷えるのぉ……これから北に向かうでもっと寒くなるんじゃろな」
「僕は平気だよ? カンイチと一緒なら」
「アール」
『んむ? あすこの串焼き美味そうだな。お爺』
「……了解じゃ」
フジの気になる屋台の食料を次々に購入していくカンイチ。ついでにレストランへの道を聞きながら。
これからレストランに行くので今購入した串焼きは後日供されることになる。
「もう! フジ殿! ふぅ。うん? 沢山お酒が並んでるね。この国ってワインの産地だったね! 楽しみだね! カンイチ!」
「ほぅ。そりゃぁ、楽しみじゃの!」
……
「ここか……の。随分と小さいのぉ」
「でも、上の方もレストランぽいし? 奥とかも繋がってるかもよ?」
「ちと、アール、フジと待ってておくれ。話ししてくるわ」
「おっけ! フジ殿モフって待ってるよ!」
レストランのスタッフにハインツの書状を見せる。支配人がやって来てフジの入店も許される。すぐさま2階奥の個室にへと案内される。
店の表は狭いが、フィヤマの店のように奥行きがある。一階は待合室のようなラウンジと厨房。客室は2階、3階、暖かい季節は屋上もテラス席として開放される。解体場、倉庫は地下にある
個室へ移動中、大きな酒樽を積んだ台車とすれ違う。まさかと思うカンイチ。
この時点では予測でしかないが、見事正解。ドワーフの宴用の酒樽だ。これから数日この風景が繰り返されることとなる。あと半時もすればダイインドゥ達も来るだろう。
「これはよくいらっしゃいました。アールカエフ様、フジ様。ここの支配人を任されておりますデュラームと申します」
「やぁ! よろしくお願いするよ! ここに滞在中、何度かお世話になると思うし?」
『うむ。楽しみにしている!』
「フジ……」
フェンリルと書状にあったので知ってはいたが、まさか人語をしゃべるとは
目玉が転がりだしそうなほど見開く、デュラーム。
「は、はい! ご要望に応えられるように……ぜ、是非とも、当店名物のワイン煮を楽しんでいただきたく」
『ワイン……か?』
ワイン、酒と聞いて少々機嫌が悪くなるフジ
「だいじょうぶじゃフジ。おそらく酒精はみな飛んでおる。硬い部位の肉を時間をかけて煮た手間のかかる料理じゃぞ」
『ふぅむ。お爺がそういうのなら楽しみにしよう』
「わしらはワインを。あと、フジには水を」
「はい! か、かしこまりました、只今、お持ちしましょう!」
……
「あの支配人の顔見た? ぷぷぷ」
「……アールよ。フジも念話は控えるようにのぉ」
『このレストランは挨拶ぐらい良かろうが。要望が伝えられぬ! それに気に入れば褒めることも必要ぞ』
「フジ殿、律儀だもんね!」
『うむ』
――何処で覚えたのだか……。それが困るんじゃがのぉ
と、口には出さないカンイチであった。
「「乾杯!」」
”ちん!”
綺麗なグラスに注がれた赤ワイン。まだ若いのかその色は瑞々しい葡萄の果実に近い紫がかった赤色。
「うぉおお! これは美味しいね! カンイチ!」
「うむ。美味いの。わしも大分、ワインを飲み慣れてきたで。これは飲みやすいのぉ」
と、ワインに舌鼓。フジもまた
『む! これは【剣の山脈】の清水か! デュラームよ! ふむ。懐かしい味よな』
と、水を口に含んだフジが満足そうに顔を上げる。
「うん? フジ?」
「はい。さすがでございますな。フジ様。【剣の山脈】の泉より汲んできた水にございます。パンや、煮ものに使うと良いようでございます」
「ふ~~ん。美味いのかの?」
『余計な臭いも付いておらん。上手に運んだのだろう。清らかな水だ。人の舌では違いは判らぬだろうが、飲めば旨く感じるだろう」
「ほぅ」
……
『ふぅむ。ここらの野菜は甘味が強いな……”もしゃもしゃ”』
「ここらは寒いからかのぉ。それにしても良く食うのぉ、フジよ」
もしゃもしゃと、既に2人前の温野菜の盛り合わせを平らげたフジ。
「む? 玉ねぎが入っておるの、フジ、避けて 『犬と一緒にするな。お爺。我はフェンリルぞ』 ……大丈夫ならええがの。腹が痛くなっても知らんぞ」
『お爺! 追加だ!』
「おう。玉ねぎ抜いてもらうぞ……」
そうはいっても、やはり心配なカンイチ。地球の深山村でも散々言われていたから。
――うん? そういえばブドウ云々も言われておったな……ワイン煮は大丈夫か? フジ
と心配になるカンイチ。今更、名物というワイン煮を食うなとも言えない
『ほほぉう。ワイン云々と聞いて構えもしたが。このプルプルとしたところがたまらんな。それに香りも良い』
「おう。フジよ。ブドウも 『だから、お爺! 我はフェンリルだ!』 ……でも、狼の魔物じゃろうに?」
我は、フェンリルだ! の一言でカンイチの心配の悉くを退けるフジ。確かに、地球にいない生物だし、頭も良い。
「ぷくく。カンイチの世界の常識? 魔物いなかったんだろ? 前にも言っただろ? フジ殿だったら、猛毒食べたって、魔法で一発さ」
「なら、ええがのぉ。無理すんなよ? ワインに仕込んで火入れて……アルコール飛ばせばええのかのぉ?」
『無理などせん! 楽しんでおる! 2人前追加だ!』
「知らないよ……カンイチ。普通、狼やら、犬はワイン煮なんか食わないぞ?」
「かもしらんの……ワシももう少しもらおうかのぉ」
「僕も!」




