何でここにおるんじゃ? (鍛冶師ギルドにて)
……
「うん? おお! あれが【スメルト】か!」
低い山を利用した城塞都市が姿を現す。
【剣の山脈】に対する備えなのか、斜面を上手く利用した高い城壁に囲まれている。ここからでも、内側にも城壁があるのが分かる。堅牢な要塞だ。
「こりゃぁ、フィヤマの御領主様に見せてやりたいのぉ。これだけの備えがあれば魔物が来ても大丈夫じゃろ」
「さてな。フジ様なら一発だろ? オークやらトロル、ゴブリンなんぞも数次第ってところだろうさ」
「……フジ……のぉ」
寒空の中、幌馬車の幌布の上で寛ぐ魔獣を見上げるカンイチ。
ちょうど、フジが大欠伸をしたところだ
「ふぅむ……」
「それに確かに堅牢だが、場所柄、水が確保できてるかだなぁ。山の上だから難しかろうよ。何日分の貯えがあるもんだか」
「なるほどな。アールよ。水を生み出す魔道具って出来んのか?」
隣を歩くリツの背に跨るアールカエフに問う
「そりゃぁできるさ! でも、現実的じゃぁ無いね。精々、1~2人分だ。魔石使って。それならうんと深い井戸掘って”ポンプ”にした方が良いだろうね。ま、こちらも現実的じゃぁないけど? こんこんと湧くアーティファクトがどこかにあったなぁ」
「ほ~~ん」
……
「ア、アールカエフ……様?」
「……僕が君達に何かしたかね?」
すぐに食って掛かるアールカエフ。
「い、いえ!」
「そ、そのような事は……」
緑色のエルフの身分証と、翡翠色の髪のハイエルフ、アールカエフの顔を交互に見て固まる門衛。門衛総動員の熱烈大歓迎状態だ。これもまたいつもの光景だが
「門衛殿。俺たちはお隣の国にダンジョンを覗きに行く途中だ。ここにコンラット殿の書付もある」
このままでは先に進まぬと、書状を出し前に出るガハルト。
「は、はい? 見せて頂いても?」
「うむ。特使の方の書状もある。これを示せばこの国内の通行は許されると聞いた」
「は、はい。……。……お通りくださいませ。ようこそ【スメルト】へ。滞在期間はいかほどでしょうか?」
「情報収集と寒さ対策、補給に、2~3週間となると思う」
「わかりました。何かありましたら、役所のほうへご一報ください」
「うむ」
……
「うん。今回はすんなりいったの。コンラット殿のお陰じゃな」
「そうだな。で、親方、(鍛冶師)ギルドの方に?」
「ああ、家、借りられれば借りようと思う。その方が楽じゃろう?」
「そうじゃな……この前の大きさの家は望めんじゃろ、ハクらの牧場やらもお願いする」
「うむ。任せておけ」
先ずは滞在場所の確保という事で『鍛冶師ギルド』を訪れる
ここはドワーフ一家の出番だ。ダイインドゥとディアンが窓口に
「鍛冶師ギルドと言えど、職員さんは普通の人じゃな」
カウンターの中を見渡しぼそり。事務仕事をしてるのは人族ばかり。
今思えば、前に世話になった【コズクラ】のギルドもそうだった。案内も人族のナラ女史だった
「そりゃぁ、師匠、オレらドワーフ自体が少ないから。鍛冶師にしたってドワーフの方が全然少ないって」
「そうなのか? ミスリール?」
「うん。ドワーフ国からあまり外には出てこないよ。出てくるのは余程の物好きだね」
「ふぅん」
「ま、オレたちの鍛冶と細工の技術はぴか一だから大きな顔できるけどね」
カンイチとミスリールで話をしていると、勢いよく扉が開き、
「おう! ダイインドゥ! 生きておたか!」
「おぉ? そりゃぁ、ワシの台詞じゃぁ! ロストクよ!」
がしりと抱き合うダイインドゥと、同年代と思われるドワーフ
「うん? ここにも知り合いがいたようじゃぁな」
「そうみたい。オレも挨拶してくるね!」
カンイチ達も奥の部屋に通され、各自自己紹介。
表に停めた馬車にはイザークとフジが残っている
「ワシはロストクじゃ。この町で鍛冶屋を営んでおる。まぁ、飲め。茶の代わりじゃぁて」
テーブルの上には人数分のコップと、大きな蒸留酒の瓶。
ダイインドゥ一家は躊躇なく、杯を満たし喉を潤す。
「うん? エルフ殿には茶の方がいいかの?」
「うん。飲むにはまだ早いよ。ロストク殿! 親方達もお宿が決まるまで控えてね」
「おう。そうじゃった、そうじゃった。でじゃ、ロストクよ。ギルドの所有する空き家ないかの。一月くらい借りられるような」
「うんむ? ところで、何でここにおるんじゃ? ダイインドゥよ?」
……
ダイインドゥの口から今回の旅の目的が語られる
それと同行者たちについても。そのせいでここに至るまでの勧誘絡みの騒動も。
「ほぅん? ダイインドゥよ。いい年こいてダンジョンに遊びに行くと?」
「余計な世話じゃ!」
「しかし、フェンリル様がのぉ。何が起きるかわからんのぉ」
「うんむ。どうしても力を欲するものはいよう?」
蒸留酒の杯を重ねながらの会話。部屋の中は既に酒精の匂いで満たされる。
挨拶でこれかと舌を巻くカンイチ。これが宴だったらとおもうと背筋が凍る
「まぁそうじゃのぉ。”使役”するもんが現れちゃぁ尚更じゃぁの。わかった。屋敷は用意せよう。で、どうじゃ? 今晩? 客人も招待せよう!」
ひくりと反応するガハルト。またかとドワーフの歓迎の宴を思い出したようだ。この武人をもってもこの反応。『鍛冶師ギルド』に世話になる限りついて回ることだろう
丁度、カンイチも宴に思いを馳せていたところ。ご苦労様とそっと手を合わせる。出席する気はないらしい。
「おう! いいのぉ! ワシら一家と……」
「うぅむ。俺も出よう。イザークも後で誘ってみるか……」
「すまんが、わしらはフジがおるでな。欠席させていただく」
「うん。お誘いありがとう。ロストク殿。フジ殿、酒精が大嫌いでね! ご機嫌斜めになっちゃうんだ」
「それではしょうがないのぉ。じゃあ早速、シュツットガルトの爺様に知らせねばなるまい!」
「シュツットガルトの爺様? おお! 暫くぶりじゃな! 元気に……元気じゃな。あの爺様は……。おっと、先に、家を頼む。足を延ばしたいでの」
「おう! そうじゃな! 旅の埃も落とさんとの! ああ。爺様か? 元気じゃ……恐ろしい程にの。当分お迎えも来まいさ。飲み会にも出てくるじゃろ。楽しみにしとれ! 忙しくなるのぉ! 皆に知らせねば!」
「おう! 世話になるのぉ! ロストクよ!」
どうやらこの町でも無事に家を借りられる事ができた。ゆっくりと身体を休めることができるだろう。




