少々肌寒くなってきたな。(北へ)
……
「……と、いう訳だが、どうする? カンイチ?」
先方の騎士団長コンラットからの申し出を皆に披露したガハルト。
このまま先方を信用し、北進して【アマナシャーゴ国】に向かうかどうかだ。
どうする? と聞いてくるわりにはガハルトの心の中では決まっているようだ。それはもちろん、行く! と。
「そうさなぁ。ここで撤退となれば同じ帝国の同盟国。アマナシャーゴのダンジョンは望めんじゃろ?」
「ま、そう言う事になろうなぁ……」
「帝国を通らねば【入らずの森】じゃったか? そこにも行けまい。おまけにここで引きかえせばガハルトさんと、フジがうっぷん晴らしに暴れだす危険性もあるで、コンラットさんを信じて先に行こうかの?」
「おう! さすが、カンイチだ!」
「おいおい。カンイチよ。ガハルト殿も」
「あのぉ、カンイチさん、下手すれば軍が待ってるんですよ?」
「結果はどのみち変わらんじゃろ……。ガハルトとフジじゃし……?」
「カンイチさん……それはちょっと……」
「じゃぁ、行くってことで良いな! カンイチよ!」
「おう! 親方も、イザーク君も頼むの」
「おうさ!」
「はい!」
「楽しみだなぁ! イザークよ!」
「はぁ……。まぁ?」
……
会議の結果をコンラット騎士団長に伝える
このまま北進し、アマナシャーゴを目指すと
「そりゃよかった。うん? カペリンの町には入らんのかね?」
「ああ。さすがにな。この町を治める伯爵様に襲われたのだし」
「そうか……俺も一緒に行きたいところだが、こいつを王の下に運ばにゃならん。そうだ! 使者に書状を書かせるから持ってけ。町に入るときは見せてくれ」
「ああ、世話になる。町に入るかはわからぬが」
「ふぅ。本当に余計な事をしてくれたな。伯爵よ。王の顔に泥塗りやがって。じゃぁ、このおっさん預かるわ。猿轡もそのままでいい。馬車の後ろにでも繋いでおけ!」
「はっ――!」
「むぅ……むむむぅ……!」
……
「では! 何かあったら先ずは書状を!」
「うむ! 世話になったな!」
使者の挨拶を受け書状を預かる。書状には手出し無用と書かれた国内の通行書。護衛や、交渉役の騎士の同行の打診もあったが丁重に断った。
色々と秘匿することがあるからだ。それにないとは思うが寝首を掻かれても困る
……
「思った以上に話が広がっているのぉ」
もちろんフジの事だ。そのフジは我関せず。馬車の屋根の上で居眠りしているが
「そりゃぁ、そうだろうに? なんといってもフェンリル様だぞ。カンイチ。しかも、アール様も一緒だしな」
「ふむ。良い目印だものなぁ。アールは……」
「カンイチさん……目印って……」
たしかに、ハイエルフのアールカエフは目立つ。遠くからも良く見える翡翠色の髪。
入門、町審査の際にはフードも下ろす。
そして、そのアールカエフにはフェンリルが同行している。さぞや権力者には光り輝く珠に見えることだろう
「一応、書状はある。でだ! ルートは二つ! まっすぐ行くか、西の【剣の山脈】の裾を回って行くか……どっちにする?」
「遠回りになるじゃろ?」
「まぁ、大して変わらんがな」
「ふむ……そうじゃ! 農業国は?」
「は? メヌーケイかぁ? 全然違うぞ? カンイチよ。カブジリカからシター・シャモイに直接入ったからなぁ。位置的にダンジョンの後になるだろうなぁ」
「そうか……。じゃぁ、久しぶりに山の方、覗きながら行くかのぉ。取れる獲物も変わってこよう?」
「まぁな。この国にもフィヤマのような冒険者の町もあるからな」
「うん? 詳しいのぉ。ガハルト」
「まぁ、冒険者の常識だ。各々の拠点から、アマナシャーゴ、帝国の間はな。ダンジョンもあるし、そこそこの冒険者ならば良い稼ぎ処だな」
「ダンジョンも入ったことはあるのか?」
「そりゃぁなぁ。でもまぁ、親方と大して変わらんさ。始めのほうを少々な。なにせ物資の補給の目途が立たん事にはなぁ。まだ若い時だったし、バッグも持って無かったしなぁ」
「なるほどのぉ」
「だから、今回は大いに期待してるぞカンイチよ! これだけのメンバー! ”収納”持ちが二人。バッグも沢山あるしなぁ!」
「おうよ! 任せてくれたまえ! ガハルト君! ねぇ、ところでご飯まだ?」
「そりゃぁ、わしの台詞じゃ。アールよ。聞いておったのか? そうさなぁ。そろそろ野営の準備をせようかの。親方達、残念じゃな、町に入れなんで」
「いや、構わんて。そろそろダンジョンだしのぉ。すこし、制限せにゃぁならんじゃろう。基本、ダンジョン内は禁酒じゃでなぁ」
「ほ! そうかい? そりゃぁ、難儀じゃな。親方!」
「そりゃぁのぉ。さっきのガハルト殿の話と一緒じゃ。ダンジョン潜るのに制限される物資で食料置いて酒入れてく訳には行くまいよ? が、今回はワシらも大いに期待しとるでな!」
「オレ、留守番してようかな……」
「……母ちゃん……」
……
進路を西へととり、【剣の山脈】への前線基地の町、【マロタス】の町を目指す。
サヴァ国の【フィヤマ】と同じ、富を得るための冒険者の町だ。フィヤマのように古の城壁の外に張り出してはいないが、山の麓までの道の整備やら、定時で乗合馬車を出したりと、冒険者へのバックアップが充実している。
途中、【スメルト】の町がある。何も無ければ、そこで情報収集と休暇のために2週間くらい滞在するつもりだ
……
街道の周りの木々も減り、低木ばかりとなって行く。段々と見晴らしが良くなり、
「お! 【剣の山脈】だぁ! ここからでも【不死の山】は良く見えるねぇ!」
一大パノラマだ。連なる山脈。奥に行くほどに高さが増すような錯覚。
そして遠くでもはっきりと存在を主張する、剣の山脈の象徴、大山【不死の山】。
「うむ。……少々肌寒くなってきたな。アール、大丈夫かの?」
「うん。大丈夫だよ? 温めてくれるのかい? カンイチ♡」
「お、おう……」
「ふん! 随分と温かそうで良いですね! 行こう! クマ!」
”ぅおふ!”
クマ達を引き連れ、街道わきの草原に入って行くイザーク。
彼の周りも随分と温かそうである。犬と狼でぬくぬくだ。人肌以上に
「ま、イザック君は放置でいいな。確かに気温が下がって来たなぁ。馬車や、家屋馬車にも暖房器具を設置するか……」
北上するにつれて徐々に気温も下がってくる。特に剣の山脈の麓は高山からの吹き下ろしでさらに冷える。
「イザーク君じゃ。……で、その暖房器具とやらは何処で買えるんじゃ? アール?」
「はぁ? 何を言ってるんだい? カンイチ君! この魔道具発明の大家! アールカエフ様がこさえるに決まっているだろう!」
ぐいんと胸を張るアールカエフ
「……。……爆発せんか?」
「カンイチぃ。思っていても言っちゃぁいけないぞ? そこは可愛い女房の愛情籠った逸品だ! その愛情諸共一緒に爆死するくらいの気概は見せてくれないと? それぞ漢気?」
「そんなんで死にたくはない……のぉ。わしは……。で、何処でこさえるんじゃ?」
「確か試作がいくつかあったなぁ……。出してみ? カンイチ?」
「……ア、アレをだすのかのぉ……」
アレとはもちろん、アールカエフ邸の庭に屹立していたガラクタ山達だ。今はその約半分。カンイチの”収納”に眠っている。ガラクタ山イ、ロ、ハ……と銘打たれて。
「うん。僕が収納した方には無いようだし? 多分、カンイチのほうだよ? 試作品が1、2台はあったはずだ?」
「了解じゃ。休憩の時でいいの……」




