まだわしらと決まったわけでもないで (軍!)
……
イザークとフジが中心となり薬草、香草を採取。カンイチも学びの場として参加。多くの珍しい薬草を得ることができた。そのほとんどはアールカエフに接収されてしまったが。怪しい霊薬の原料にでもなるのだろう。
採取をしながらのんびりと移動。【シター・シャモイ】の国境門に到着。盗賊や、前の国のように盗賊に身をやつした高位貴族に襲われることもなく。
……
「ア、アールカエフ……様? で、ご、ございますか?」
身分証を確認する手が止まる。
そして何らかの合図があったのだろう。わらわらと奥の詰所から兵が。ご丁寧に手に手に槍やら、サス又をもって。
「ふぅう! 何さ! そんなに放浪エルフが珍しいのかね! フラフラしてるのも他にも結構居るだろうに!」
リツの背に仁王立ちのアールカエフ。腰に手を当てて猛抗議。
「し、しかし……」
「あ、あのアールカエフ様ですし?」
と、困り顔の隊長……
「何かしたかい? この国に! で! 通行を許可してくれるの? ダメなの? どっちさ!」
「落ち着け、アールよ」
と、カンイチが宥めるも怒り心頭! 何故に悉く引っかかるのかと。納得のいかないアールカエフ
長い間、サヴァ国の”抑止力”として、各国の軍事資料に名を残すハイエルフだ。各国の反応は仕方がないのかもしれない。
これ以上時間をかけるものとガハルトが前に出る
「それで、門衛殿。通ってよいかな」
「と、特使との会談は? 【カペリン】の町まで来ておりますので是非に……」
「不要。我らはダンジョンに行く途中。この国に留まる予定はない。返答次第ではルートを変えねばならん」
「わ、わかりました。どうぞお通りください」
背後で動きが。もちろんただ通すわけでもない。伝令が走る。恐らくカペリンの町にいるという特使(使者)と軍の屯所へと。数騎の騎馬兵が駆けていく
「うむ。ご苦労! では!」
「はぁ。納得いかないよ! 僕は!」
プンスカ怒るアールカエフを宥めながら進む一行。
「まぁまぁ、無事に通れたんじゃ。良しとしとこう。アールよ」
カンイチに頭を撫でられて多少は溜飲が下がったか。
「むぅ……」
「だといいがな。で、新たな国、シター・シャモイ国に入ったわけだが情報収集するか?」
と、ガハルト。走っていった多くの伝令。そう上手くいくかと。
「そうさなぁ。国境の町……カペリンじゃったか? そこで、また二週間ぐらい時間を取るか。今回の旅も色々あったで。ゆっくりしたいでな。また家を借りられると良いな」
と、カンイチ。例の盗賊貴族のせいで逃げるようにカブジリカ国から出て来た。ゆっくりと休養も欲しい。
「ふんむ? カペリンの鍛冶師ギルドで聞いてみるかのぉ」
「うん? アンタ、カペリンってデュセルの爺様のとこか?」
「うんむ。うんむ。死んだと知らせもきとらんで。ま、生きとるじゃろ?」
「じゃが、いよいよこの国を越えたらダンジョンがあるのじゃろ? 思えば遠くに来たものじゃなぁ」
「うん? カンイチ? 『森』まで行くのだったらまだまだう~~~~んと遠いいよ? 帝国突っ切って行かないとだし?」
「そうじゃったの……。もう【剣の山脈】の麓でええかのぉ……」
「ふふふ。好きにすると良いさ。カンイチ! 付き合うさ! 彼方此方見て回るのもいいけど?」
「見て回るのは構わんが……の。悉く捕まるでなぁ。……アールがのぉ」
「は! 今それ言う? デリカシーが無いな! てか、僕じゃなくてフジ殿だろ! フジ殿!」
『ん? 我は何もしておらんが? エルフ殿?』
「うむ」
「……なにさ!」
……
国境門を抜け、暫くすると……
「う~~ん。こりゃぁ……。町に入れんかもしれんのぉ」
【カペリン】の城壁が見えて来た。国境の町という事で堅牢、高い城壁を備えた堅守の城塞都市。
その門前には軍が方陣で展開している。1000人くらいはいるだろうか。多くのテントが並び国旗、領主の紋章だろうか。多くの旗がたなびく。
「町? その前の問題だろうが。どうやら国境に引き返さんといかんかもしれんな」
「”ごくり”……ぐ、軍?」
生唾を飲むイザーク君。彼の反応がごく自然だろう。何せ、多くの兵を目の前にしているのだ。一行に怯まない他の連中の方がおかしい。
「領軍? いや、国境軍……かの? シター・シャモイはカブジリカとは仲がええで、おそらくはワシらへの備えじゃろうの。カブジリカ出たことくらい掴んでおるじゃろうしの」
とダイインドゥ。軍を望みながら。
アールカエフもまたリツの背に立ち前方を凝視。
「うん? 結構いるなぁ。魔法で吹っ飛ばすかい? カンイチ?」
「ダメじゃろ……」
「うんむ。ここは帝国の同盟国でもあるでな。【アマナシャーゴ国】に入れなくなるかもしれん」
「……ふぅ。面倒じゃな。のぉ。アール?」
「何さ! 僕のせいとでもいうのかい? カンイチ! 頭来た! こうなったら皆、魔法でふっ飛ばしてやろう! ついでにその帝国も?」
「おいおい。ついでは不味かろうに。親方はああいうが、まだわしらと決まったわけでもないで。それに軍隊じゃ。いきなり襲ってくることもあるまいで? あっさり通してくれるやも知れんて?」
「そう? ん? ……ほら! カンイチの願いはどうにも通じないようだよ?」
「うん?」
城門の方から馬車と騎馬。さらにそれを囲む兵50人ほどだろうか。国旗と紋章の描かれた旗をたなびかせて。粛々とこちらに向かってやってくる。
「……やっぱり、わしらに用があるようじゃなぁ……」
溜息を一つ。
「であろうに。どうするんじゃ? カンイチ?」
「だろうよ。くっくっく」
ニヤリと笑うガハルト。腰に下げたトンファーを撫でながら。
「とりあえず話を聞こう……さ」




