いらん!(使者)
……
カブジリカ国の国境門。門を潜る審査待ちの列も無く、すんなりと審査場に至る。
交渉はガハルトとダイインドゥ。
「これは冒険者殿。どちらへ?」
身分証を確認しつつガハルトに問いかける警備兵。国境門の警備は軍が当たっている。
「うむ。ダンジョンを覗きにな」
「アマナシャーゴですか。! ……き、貴殿がガハルト殿? ということは……」
「何か問題が?」
その様子を見ていたカンイチ。ここでもひと悶着かと。
「た、隊長に……報告の義務がありまして。お時間を……」
「構わぬ。が! そう待てぬぞ。こちらの予定もある。それに出頭などに従う気はないぞ! 我らはただ”盗賊”の一味を除いただけだ!」
「は、はい。少々お待ちを……」
……
「ガハルト?」
「まぁ、無理はすまいよ。さて」
門の守衛隊隊長と貴族のような上質の服を着飾った男がやって来た。5人の護衛を連れて。護衛の一人は国旗を携えている。使者だろうか
腰の金属製トンファーをゆっくりと撫でるガハルト。
ダイの親方、ディアンもポーチへと手を伸ばす。ミスリールに至っては御者台に既に大弩を設置済だ。
カンイチもまた。イザークも身を守るために腰のナイフに手を置く
「で、使者殿? 我らの前に立ち塞がるかね?」
ぎろり、使者を睨みつけるガハルト。
「い、いえ! が、ガハルト殿ぉ。フックラーギ一派の件は、か、各ギルドからあがっており、わ、我が王、もこ、心を痛めておりますぅ!」
「ふん。心を痛める……だ? そりゃぁ、襲われて果てた人々や、残された家族の言葉じゃろうに。屑に領地を任せた者の台詞じゃないわい」
と。皮肉を込め、聞こえるようにボソリ。
「じゃの。カンイチの言う通りじゃわい」
ど、ダイインドゥ。こちらもぼそり。聞こえるように。
護衛の連中がカンイチを睨むも使者の方は聞こえていないかのように振舞う。
「それは解った。じゃぁ、通っても良いのか?」
「お、お待ちください! よろしければ、お、王都にご招待したく……お詫びの宴などを 「いらん!」 ……へ?」
ガハルトの前に出てきた青年……カンイチだ。
「いらんと言うた。詫び? そんなもん、あの盗賊貴族から迷惑をこうむった遺族やらギルドにせい」
ぽかんと口をあけて固まる使者。が、我に返り
「な、なんです! こ、この小僧は! これはガハルト殿と国との交渉! 引っ込んでいなさい! 無礼な!」
と。怒りだす始末。彼らの目にはガハルト、そしてアールカエフ、フジしか見えていない。
「ふん。この国、王にしてこの使者。底が知れてるな! その小僧がこの集団のリーダーで、アールカエフ様の旦那のカンイチだ。カンイチの言が全て! カンイチが言う通り、詫びなど不要! 持ってくるならともかく王都に来いとは。信用できるか! それ以上の話が無いのだが通らせていただくが?」
「ま、待ってくだされ! ガハルト殿! カ、カンイチ……ど、殿?」
アールカエフの旦那と聞いて興奮して赤くなっていた顔から一気に血の気が引いて真っ青に。
「俺たちは王都に行くことは無い! どかぬなら、押し通る!」
「ひ、ひぃ!」
「よいかな? 使者殿」
ダイインドゥが静かに言葉をかける。質問ではない。確認だ。
「……は、はいぃ……?」
「では、失礼しようか! 追手は不要!」
”がらがらがらがらがら……”
「うん! さすがガハルト君! あっさりと通れたね! うん? 僕、身分証も出していないけど……ま、いいか!」
『しかし、面倒だな。山の縁を通って行った方が早くはないか?』
フジの言う山、【剣の山脈】のことだ。
「まぁ、そうかもしれんがの。フジだって美味い飯は食いたかろう?」
『そうは言うがな。お爺。今回は町に入る回数は少ないくせに、面倒ごとばかりではないか』
「……まぁのぉ。国に入る前の緩衝地からの騒ぎじゃったからのぉ」
「今回が異常。【シター・シャモイ】は大丈夫だと思いますよ。フジ様」
『……そう願いたいものよ』
「フジ殿の魔獣の目から見てもおかしいってよっぽどだよね。……困ったもんだ! 人の世も!」
「そうじゃな」
……
カブジリカ国、国境門を出てシター・シャモイの国境門まで緩衝地を抜けるのに都合二日。
この辺りは木々も少なく、原野が広がる。これだけ見晴らしが良ければ盗賊が身を潜ませる場所も少ないだろう。
「ふ~~! 良い風ぇ!」
リツの上に両手を広げ立つ、アールカエフ
「お、おい、アールよ。危ないぞ!」
「大丈夫。大丈夫! リツ、賢いしぃ。ね!」
”ぶるるるるるぅぅ”
「それに、僕は風使いだよ? 風は友さ! 風に吹っ飛ばされたりするわけ……! おっと! 危な!」
言ったそばから、よろりと風に煽られるアールカエフ。慌てるカンイチ
「おいおい。落ちてくれるなよ」
「もう! 戯れるのは良いけどぉ! 落ちてたらガッカリエルフだよ! 君達ぃ!」
と虚空に向かって文句を垂れる。その様子を見てドワーフ母娘。今更だろうと。声には出さないが。
「ふぅん。これじゃぁ、盗賊は望めんなぁ。なぁ、イザークよ~~」
「……盗賊は望むものじゃぁないですって。ガハルトさん」
「そうじゃぞ。ガハルトよ。変な称号生やすなよ」
「そうじゃ。馬賊の類もおるで油断大敵じゃぞぃ」
「馬賊かぁ。くっくっく」
「おいおい……」
「まぁ、盗賊は期待できなくとも、緩衝地帯は人も制限されるから、薬草や香草なんかはは取られずに残ってるんですよ」
『ふむ。では採取にでるかイザークよ! スープの香りになるものを探そうか!』
「ええ! 行きましょう! フジ様。クマ達も来るか?」
”ぅおん!”




