まぁ、気持ちは分かるけどね? (初めてのバッグ)
……
大掛かりな襲撃を受けたにも拘わらず何事もなかったかのように移動を開始するカンイチ一行
主犯格のコウマイやらトゥコヤ、アコヤ。出入りしていたゴロツキ等も証言と判定石で次々とお縄に。領主様のお怒りに触れたせいだろう徹底的に調査が行われるという。
お宝もいただいたし、後はすべてお任せととっとと出て来た。
嬉しそうにイザークは腰のポーチを暇さえあれば撫でている。カベゾン町で入手したマジックポーチだ。おかげで身の回り、装備品もすっきりしている。が……
「イザーク君。嬉しいのはわかるがのぉ……。怪しいぞ」
「だね! これはマジックポーチだぞぉ! 襲ってくれ! って、自分で言ってるようだよ? イザック君!」
「あ……」
撫でていた手もピタリと止まる。
「イザーク君じゃ。じゃが、変な癖にならんようにのぉ。貴重なマジックバッグとはいえ所詮道具じゃ。そんなもんの為に命とられてもつまらんじゃろうに?」
「は、はい。ですね……」
「まぁ、気持ちは分かるけどね? 貴重だし? 高価だし? 皆欲しがる物だしね。一応、おめでとう! イザック君! 初バッグ!」
「はい! ありがとうございます!」
「で、それが原因で死んじゃったら呪いのアイテム? 前の持ち主も? その前のも死んでるし?」
確かに。マジックバッグも国や大店の物でもなければその存在している年月に応じて多くの因縁を持っているに違いない。
「……」
そんな事は百も承知でも改めて言われるとイザーク君の意欲も下がってダンマリに
「……おい」
「で、カンイチよ、穀物も手に入ったし、次の【ヒメスイ】はどうする? 素通りか?」
「そうさなぁ。親方一家をと思っておるがな。ゆっくりと酒、飲ませてやりたいでなぁ」
「ああ、それも良いな。カンイチ達はカペリンの町まで我慢か? くくく」
「そうじゃな。とにかくこの国を出るまで……お次の国シター・シャモイまではの。それこそマサヒラの町は通過じゃろ。国境だで。待ち伏せるならそこじゃろ」
「違いない。どうしても目立つからな。アール様は……」
「だね! まったく! 悪いことしていないのに! 面倒な! デートもできないなんて! 憂さ晴らしにいっそのこと町で大暴れしてやる?」
「……ダメじゃろ。……どの国にも入れなくなるぞ……」
「僕は構わないよ? カンイチ……一緒なら」
「……アールよ」
「ふんだ!」
今日も平和に? 過ぎていく……
……
「じゃぁ、ちぃと、行ってくるでな!」
「すまないなぁ! カンイチ!」
「麦、買えたら、買って来るよ~~」
ヒメスイの町にドワーフ一家を送り出す。いつも以上に足が速い。
そんなドワーフ一家の後姿を見送る。
「ま、親方達なら大丈夫じゃろう。鍛冶師のギルドもあるようだで。イザーク君も行ってもいいぞ?」
「え? 大丈夫ですよ。親方達、徹夜で飲むんだろうなぁ……きっと」
「じゃの。さてと、ワシらも水場を捜すかのぉ。久しぶりに風呂さ入ろう! 風呂!」
「……久し振りって……一昨日入りましたよ? カンイチさん」
「風呂は毎日入るモノじゃろうに? イザーク君?」
「……そんな贅沢、お貴族様くらいですよ……」
「じゃぁ、俺は狩に行ってくる! クマたち借りるぞ!」
「おい! 先に野営地探しじゃ! まったく……。うん? アールは?」
「うん? カンイチが風呂出るまでフジ殿と遊んでるよ?」
『ぬぅ! エルフ殿、我も風呂に入るぞ!」
「あら。じゃぁ。カンイチと一緒に入ろうかな!」
「……」
満更ではないがイザーク君からの視線が刺さる
「冗談だって。カンイチの風呂、熱すぎだし! 皮膚ズル捲れちゃうよ?」
「そうかの?」
『うんと熱い方が気持ちがいいぞ? エルフ殿。試してみた方がいい』
「本当? ってか、もうすっかり風呂好きだね。フジ殿は……」
『うむ。我は毎日入っているぞ。態々人の領域に来た甲斐もあろうというものよ。番! 風呂! 料理した食い物……我の生も随分と華やかになったものよ!」
「そりゃぁ、良かったの。フジ」
フジの首をわしわしと掻くカンイチ。
『うむ……気持ちいの……』
……
『うむうむ。只、焼いただけの肉に塩。それにこの”石焼き”というのも面白い。余程熱いのであろうな。余計な肉汁も出ない』
と、熱々の焼肉に舌鼓を打つフジ。
「……本当に、どこぞの料理評論家みたいじゃのぉ……フジよ……」
「本当にグルメだよねぇ。”はふはふ!” うぉ! 柔らかくて美味しぃ! この猪!」
「ええ、アール様。この辺りの森は恵みも豊か。猪共も良い物を食ってるのでしょう。大きく狩り甲斐もあったな!」
『確かにな。この脂身、たまらんな! で、そっちのスープは? イザークよ? 猪か?』
「はい。カンイチさんに聞いて。長い時間煮て凄い臭いですけどぉ……すごくおいしいスープですよ」
大きな寸胴でグツグツと煮られている白濁したスープ。野趣あふれる独特の臭いを放つ
「猪の背骨のスープじゃ。小さいタケノコも沢山生えてたで一緒に炊いてみたんじゃ」
『どれ、いただこうか!』
「イザック君! 僕も! 僕も! パンのお代わりね!」
「はい!」
……野営の食事の一コマ
……
ダイインドゥたちも五日でヒメスイから出て来て合流。満足いくまで飲酒ができたそうだ。
『鍛冶師ギルド』にも街中にも特段、カンイチ達の手配書等も回ってきてはいないようだと。
それでも用心し、国境の町【マサヒラ】を迂回。急ぎ国境門に。
さすがに国境の門の内側。門~マサヒラ周辺の治安はすこぶる良い。国境を警備する軍も駐留しているし、領主、国にしろ、外国からの訪問者に目を光らせている。
先の盗賊領主のようなものでもなければ盗賊の心配など皆無だろう。
「ふぅ。ここを抜ければやっとこ【シター・シャモイ】か」
「なんでこう、普通に通れないんだ? まったく!」
その原因の40%はアールカエフのせいだが。残り50%がフジで、10%がガハルト、カンイチといったところか。
「仕方なかろうに。入ってすぐに大騒ぎじゃったで。まさかお貴族様が盗賊なぞと……。はてさて。ここじゃぁ何も無いとええがのぉ」
今まで追手の影は無し。手配書も見てはいない。後はこの目の前の国境門を越えることが出来ればこの国とおさらばできるのだが
「ふぅむ。ガハルトよ。フィヤマの領主様はしみったれやら散々言われておったが、アールに献花も出したし、礼節を守り会談もせなんだ。随分と真面目な部類じゃ無いかの?」
と、ふと、フィヤマの領主様を思い出す。一回も顔を合わせたこともないが。
「しみったれ云々はカンイチとハンス殿が言ってたのだろうに。まぁ、今回の領主がおかしすぎるんだ。領地持ちで子飼いの貴族とグルになって盗賊なんぞ……普通あり得んわ!」
「たしかにな。ガハルト殿の言う通りだわな。ワシも聞いたこと無いわい! じゃが、後は国がどう出てくるか……」
と、ダイインドゥも賛同の声を上げる。
「ま、居たら居たで皆吹き飛ばしちゃおう! ねぇ! イザック君!」
「へ? 俺?」
「イザーク君じゃ。じゃぁ、一つ、気合入れて行こうかの!」




