地下のアジトへの道は? (アジトへ)
……
「うん? 今日は休業ですよ。タッカベ隊長一体何の御用……お、お前ぇ!?」
タッカベ隊長、副官。その背後に屹立すガハルト。その顔を見て驚く店主、コウマイ。順調に襲撃が成功していればこの目の前の虎人は既に死んでいるはずだ。
「ほう? 初対面の、しかも商人にお前呼ばわれされる筋合いはないがな。貴様がコウマイか?」
「チッ――!」
その生きているはずのない冒険者。そして、衛士の面々。この状況。考えずともわかる。失敗し、悪事が明るみに出たと。
くるりと背を向け店の奥に、逃亡? それとも立てかけてあった剣を取ろうとしたか。
が、その瞬間、肩口に激痛が走り膝をつく。
「ぐひぃ!」
ガハルトが剣の鞘で殴りつけたのだ。
「うん? タッカベ殿、そっちの店員も拘束頼む!」
キョロキョロと成り行きと出口を見ていた店員。隙あらば……。そこにガハルトから捕縛の依頼が。諦めたのだろう。こちらもがっくりと膝をつく。
「で、コウマイよ。お前、盗賊稼業をしていたって本当か?」
「そ、そんな訳あるまいよ! タッカベぇ! この仕打ち! 訴えてやるぞ! 訴えて! 貴様らぁ!」
拘束されながらも威勢よく唾を飛ばすコウマイ
「で、コウマイとやら、地下のアジトへの道は?」
「ふん! 獣人のくせに! 生意気な! ねぇよ! アジトだぁ? ただの倉庫しかな! 見えねぇのか? その目は節穴かぁ? そこに階段があるだろうがぁ! ひやはははは!」
確かに下る階段はある。これだけ堂々としているのだ。その先は本当の倉庫か何かだろう。
「そうか。家探しか……。隠し階段がありそうな場所は……」
そんなやり取りの中。後方に控えているイザークとフジ。
『はふぅ。……腹が減ったな。……まだか? しかし、まどろっこしいものよ。さっさと殺してしまえばよかろうが?』
と、退屈と空腹で苛立つフジ。
「そういう訳にも……。あ! そうだ! フジ様、他の階段て判ります?」
小声でコソコソ。フジの声は思念、漏れることは無いがイザークはそうもいかない。
ちらちらと衛士に見られる。狼に話しかけているのかと。動物・魔物使いには珍しいことではないのだが、その数が少ない。どうしても奇異の目で見られがちだ。
『不便だな……。イザークよ念じてみよ。? ……お主……。こんな時にも雌の事を考えてるのか? ……さしもの我でも少々呆れるぞ……』
”盛りの鬼”をしてこの発言。
「なぁぁ!?」
たまたま。そう、たまたま偶然。店の前を綺麗な年上のお姉さんが通った……。一瞬だが青春真っ盛りのイザーク君の心の容積の大部分を占めたのかもしれない。
一応、彼の名誉のために
「うん? どうした? イザーク?」
「な、何でもありませんよぉ!」
『……困った奴よ。ふむ。あの奥の壁だな。ガハルトなら蹴り破れよう?』
「は、はいぃ……。ガハルトさん。あの壁が怪しい。蹴破ってみて」
「ほう?」
一瞬、コウマイの顔が歪む。
「どれ」
”こんこんこん……” ”どがぁ!”
壁を軽くたたき空間があることを確認。いきなり壁を蹴り破る!
「お! おい!」
叫ぶコウマイ
”ばきばき”
大穴が開いた壁。その大穴を見てコウマイが大きな舌打ちをする。
バリバリとガハルトの豪腕で剥がされる壁だったもの。
そして、ぐったりとした男と共に現れる階段。壁の裏からこちらの様子を窺っていたところ、壁を突き破ったガハルトの蹴りをまともに食らったのだろう。
「あったな。コウマイ……これがアジトの入り口か?」
「く、くそぉ! ! と、トゥコヤ? トゥコヤぁ! おい!」
ガハルトの蹴りを食らった男、トゥコヤ。口から血を流し微動だにしない。コウマイの実弟だ
「む、むぅぅ~ん……。げほぉ、げほ! ごほぉ! い、いでぇ……」
目を覚ましたトゥコヤ。その首根っこをガハルトに掴まれ、隠し階段の踊り場から引きずり出される。
「ふん! 生きてたか。運が良いな。が、すぐに仲間の後を追う事だろうさ。どれ、戦利品の回収だな。こいつ等は隊長に引き渡そう。では行くぞ、イザーク!」
トゥコヤを衛士たちの方に投げ捨て腕まくり。これからアジトへお宝回収だ。
盗賊狩りの最大の楽しみといえるだろう
「了解!」
……
階段を降りるとそこそこの広さの空間に出る。20畳くらいの広さはあるだろうか。隣の家の地下にも進出している。おそらくは隣もコウマイの持ち家なのだろう。
換気が不十分なのか、食い物、酒、体臭などの匂いが混ざり臭い。鼻の良いガハルトは顔を歪める
中央に大きな机が置かれ、乱雑に酒瓶やらカードの類が散らかっている。
棚には戦利品の武具類だろうか。その奥には金属製の大きな金庫が鎮座している。
「ほう……戦利品か? どれも大した事ねぇな。ガラクタ……! ……ちっ! この手の屑は、よくこういったことをする!」
壁の武具類を品定めしていたガハルトが手を止める。その視線の先。イザークも覗き込む。
「何です……はぁ? これって」
壁に張られていたのは被害者であろう者達の多くの身分証。新しいもの、古いもの……男女問わず……
「隊長を呼んでくれ!」
階上に向かいガハルトの大声が響く
その壁を確認する隊長と衛士たち……
「……やってくれたな……コウマイよ……」
「くっ、隣町やら、ギルドから問い合わせのあった者ばかり……」
やはり被害者の物だったようだ。捜索依頼のあった者達の身分証。部屋の乱雑さと違いこれ見よがしに丁寧に、綺麗に張られている。あたかも自慢するように。
その身分証を丁寧にはがしていく衛士たち。
「これは此方で管理させていただいていいか? ガハルト殿……」
「ああ。そっちはそっちでやってくれ。ギルド証の届け出の報賞は遺族に。見舞だ。じゃぁ、武具類と金庫貰ってくな」
「が、ガハルト殿!?」
「うん? こっちで適当に開けるから問題ない。金庫バッグに入るか? うん? 入らんか?」
「じゃぁ、マジックバッグ、入ってるって事ですね! やった!」
一般的な常識としてマジックバッグはマジックバッグに入らない……。
但し、特殊なアーティファクト級のバッグと、天の恵みである”収納”については別だ。この事は一般的には知られていない事だ。
「かもしれんな。このまま担いで行く訳にもいかないな。開けさせる……”がちゃり!” うん? 鍵、かかって無いのかよ。……どれ」
金庫の取っ手を回したら開いた。
”ぎぃぃ!”と重い音を立てる金庫の扉。
「大袈裟な金庫の割に金貨は少ないな……。家の権利書? 商売云々の資料……と。真面目に金物屋をやっておれば良いものを……。うん? この丁寧に畳まれてるのがバッグか? 頂いて行こう。しかし金貨が少なすぎるな……頭目だろう、そいつは。……探すぞ! イザーク!」
「はい! なんか楽しいですね、ガハルトさん!」
『楽しそうで何よりだが。未だか? イザークよ……』
「も、もう少し、お付き合いください。フジ様」




