もう一回呼んでみればよかろう? (盗賊?)
……
【ガべゾンの町】の北門を抜け、カンイチ達に合流すべく北へと進むイザークたち。
三人の尾行者を引き連れて。
まだまだ町も近く、街道の通行量も多い。どのタイミングで襲って来るのか。
今日か、明日か……
暫く進むと後方からついて来た三人の尾行者の男達がイザーク達の前に回り込む。
「おい! 大人しくしろ! ここには多くの仲間が囲んで ”ざばぁ!” ! は? はへ?」
腰の剣を抜きイザークたちに向け、鷹揚に口上を垂れていた男。突然にその右脇腹から左肩まで刃が抜ける。
己の血しぶきに見たもの。大きな虎人が間合いに踏み込み、抜刀と同時に左切り上げを放つ姿!
そのまま一太刀で口上を垂れていた男を斬り捨てるガハルト。
何が起きたか理解できずにポカンとする隣の男にそのままの勢いで剣を振る!
「生け捕り!」
イザークから発せられた指示で右から一文字に振られた剣をピタリと途中で止める。
男の首の皮一枚、寸前で止まったようだ。つぅーーと流れる一筋の血。
何とかイザークの言葉が間に合ったようだ
「ひ、ひぃ!」
己の首に当てられた剣、そしてガハルトの気迫に尻を付く男。その隣には、先ほど胴を割られた同僚が物言わぬ躯になっている
「おっと、あまりにもアホだったのでな。つい切り捨ててしまったわ。で、貴様らは一体なんだ? 何がしたいのだ?」
大人数で囲むのならわかる。待ち伏せ場所に引き込むにも人質も無しに。態々命令に従う謂われも無い。ガハルトのいう通り、何しに出て来たか。理解に苦しむ
「お、おーーい! おーーーーい! こ、ここだぁ! ここだ!」
三人目、この三人の中のリーダーか? 少し距離を取っていた男が、茂みに向けて叫ぶ!
彼らの言う通り、その茂みから大人数の賊が出て来て取り囲むのだろう。
「へ、へっへっへ……も。もうお終いだぁ! 今に仲間が!」
と、勝ち誇り叫ぶ男。
「ほう。なら、貴様は要らんな」
そう。何の保証にもならない。むしろ合流前に斬り捨てて人数を減らすのが当然だ。
大人数で囲む。その言葉でビビると思ったが、一向に怖じ気付く気配を見せない相手。
そして自分の立場を知る。みるみる青くなり、逃げられないか辺りに目を向ける。
「へ? ……ま、待て! 待って! おーーーい! おーーーーーーい! 待て!」
「おいおい。待つ義理はないが? アホかお前?」
「ひぃ! ま、待ってぇ! 待て!」
…………
「サッパリ来ないな」
血刀をひっさげ、賊の到来を待つガハルト。尽くを切り捨て皆殺しにしてやろうと。
「な、なんで? なんで? お、おい!」
狼狽えるリーダー。もう一人、ガハルトに首を飛ばされそうになった男は腰が抜けたのか立ち上がる事すら忘れているようだ。
「さてな。待ってやるよ。ほれ。もう一回呼んでみればよかろう? ふむ。大人数であればトンファーの方が良いか?」
剣を腰のマジックポーチにしまい、鉄のトンファーと、木製のトンファーを並べて吟味中のガハルト
「ガハルトさん……来ますよ?」
”がさがさがさささ……”
盗賊本体の到着か!
ぱぁと顔が明るくなる賊リーダー。
「お、遅い! お、遅いぞぉ! ……? だ、誰? お前?」
が、茂みからひょっこり顔を出したのはカンイチだ。
「おう? カンイチ? どうした?」
”ふひゅん!” ”ふひゅん!” とトンファーを回すガハルト
「うん? ガハルト? いやな。騒がしいから来たんじゃが。ほれ、そいつが呼んでいた……ほ~ん。なるほどのぉ。そういうことか。で、あ奴らはこいつの仲間じゃったというわけかの」
「うん? 俺にも分かるように頼む。カンイチ」
「おう。朝も早ようから、野営地に賊が来ての。なるほどのぉ。狙いはガハルト……マジックバッグじゃな」
「ああ。昨日からな。で、何人いたんだ?」
「確か……おっと、逃げられるとでも思ってか? 先にそいつら拘束じゃな」
「応! イザーク、そっちを頼む。一人居ればいいだろう。抵抗したら斬って構わん!」
「はい!」
二人の男の手を拘束し、自害防止の猿轡を。足は町まで歩いてもらわねば困るので拘束はしていない。腰に太い縄を巻き数珠繋ぎにする。
「で、ガハルトよ。どういった経緯じゃ?」
「穀物商だろうな……」
ガハルトとイザークの口から昨日からの経緯が語られる。
穀物商からの尾行、門を出てからの尾行。そして、おそらくここが襲撃点だったと。
カンイチからも賊は一人の”案内人”を残し、皆殺し。30人くらいいたと。アジトはどうやら町の中にあるという。
その話を震えながら青い顔で聞く二人の男
「ふぅん、で、首謀者は誰じゃ?」
「……」
ガキが! そんな表情でカンイチを睨みつけるリーダー男。ガハルト相手では出来ないが相手はガキだ。気も大きくなる
「じゃぁ、指、関節ごとに切って行くかの」
そんなことできるモノかと鼻で笑う。やれるもんならやってみよと
「ふふん! ! いぎゃぁああ!!!」
指先に短剣の切先が滑り込み縦に大きく割る。
「先ずは削ぎ落してやろうさ。指先には神経が集中しておるで痛かろ? で?」
「んんーーー!」
「ほう。中々に強情じゃな。どれ」
賊の人差し指。再び短剣が差し込まれ骨から削ぎ落される肉……
「ぅんんんーーーーーーー!」 ”ぽとり”
冷や汗、脂汗。苦痛と恐怖で目を血走らせるリーダー男。
「あと、九本あるでの。うん? そっちの人、次はあんたさんにせようかの?」
激痛に歯を食いしばり耐えるリーダー男……その男への宣告と共に、隣で震えてる首に切り傷のある男に、血でぬらりと怪しく光る、二式銃剣の黒刀を向ける……
コクコクと涙を流しながら何かを訴える。イザークが猿轡を外すと堰を切ったようにしゃべりだす
「い、言います! 言いますぅ! あ、アコヤですぅ! アコヤ! 倉庫番のぉ! アイツの指示で! 指示でぇ!」
涙と冷や汗、唾を飛ばしながら訴える賊。
「誰だそいつ?」
「倉庫番のアコヤ? ……ああ、穀物の買い付けの時に立ち会ってたな。で、昨日の尾行者は?」
「し、知らねぇ。知らねぇって! アコヤだろ!? アコヤ! 俺らは言われたとおりにしただけだ!」
「ふ~~ん。で、どうすんじゃ? ガハルトよ?」
「うん? もちろん、こいつ等を連れて行くが? 襲われたんだ。見舞金くらい貰わねばな。店主も関与してたら、あすこの物は賊のアジトだ、金も穀物も皆、貰って来よう」
「じゃ、わしも行こうかの」
「いや、俺達で行ってくるわ。アール様の存在がバレると面倒だ」
「……今更じゃがのぉ。しかし……案外、使いづらいのぉ。この身分証は……」
「はっはっは! アール様の婿様! 光栄なことだぞ、カンイチよ!」
「フジ様はどうします?」
『うむ? 付き合おう。どのような顛末かも知りたいしな。イザークの護衛でもしようか』
「あ、ありがとうございます」
「で、カンイチの方、首はあるのか?」
「うんむ? そうじゃな。持ってくるわ」
「あ! カンイチさん、アール様のお土産!」
「うん? すまんのぉ。喜ぶじゃろ」
……




