ふぅ。緊張したぁ (小麦を買いに)
アコウ=アコヤに変更
……
「はい? 小麦粉を大量にでしょうか?」
『商人ギルド』で、小麦粉を仕入れられる問屋を紹介してもらう。
領主より払い下げられる小麦を一手に扱う店だ。城外の風車で小麦粉へと加工され、小売店やパン店に販売される。小売店を回って悪目立ちするより、そういった店であれば安く大量に買えると踏んでだ。
「ええ。ダンジョンを覗きに行こうと思うのですが。手持ちが。大量に購入できる店、紹介いただけませんか?」
「そ、それは構いませんけど……大量? マジックバッグをお持ちで?」
疑いの目を向ける受付嬢。大量といってもどのように運搬するのか? その前に、目の前の青年が、お金を持っているのかしら。などなど。ギルドの会員でもない。
その視線に気づいたイザーク君
「あ、ははは。お金はあります。私でなく……ガハルトさん」
「うん?」
フジの手綱を握り、掲示板の前に立ってるガハルトがこちらを向く。
太い腕、精悍な面構え。目の前の青年なんか比べモノにもならない。何処からどう見ても、高ランクの冒険者だ。
「彼、酒飲んじゃって。で、私が交渉に」
受付嬢もガハルトを一目見て納得したようだ。
一つ頷くと、さらさらと地図を描きだす受付嬢。
そして、その様子を見て少々むくれるイザーク君。仕方あるまいよ。
「この、サウワラァ穀物問屋なら」
「は、はい。ありがとうございます。行ってみますね」
受付嬢に礼を言い、ガハルトの元に。
「行きますよ!!! ガハルトさん!」
「お? おお? どうしたんだ? イザークよ?」
「何でもありません! 麦買いに行きますよ! 麦!」
「お、おう?」
ギルドを出た足で『サウワラァ穀物問屋』へ向かう、二人と一頭。
途中途中、フジの『美味そうだ!』と、歩みがピタリと止まるので、進みは遅いが。
……
「どうやらここのようだな」
「ええ、……立派な店ですねぇ」
街はずれ。とはいえ、本当の壁際というわけではなく、貴族の居住区に近い方。町の中心に近い処に建つ、大きな倉庫を有する商家。
取り扱っている商品は穀物全般。特に払い下された小麦の販売。有事の時には穀物の供出等もあるので一等地に店を構えている。
「さすがにフジ様は連れてはいけまい。入口で待ってる」
「はい。行ってきますね」
……
「ほう。出来るだけ多くの小麦粉を? その若さでマジックバッグをお持ちで?」
「いえ、私は使用人のようなものですよ。ほら、表に。バッグも金も彼の持ち物です」
店の外でぼうと立ってるガハルトを指さす。
「……なるほど。納得ですな。さぞや名の通った冒険者なのでしょうね」
「え、ええ。は、ははは……」
受付嬢と同じような反応……
イザーク君にしては少々納得できないが、こればかりは仕方がない……。まだまだ若造君だ。それにマジックバッグはとても高価。それを穀物入れにと三つ持ってきている。
店主には個数までは伝えていないが、これほどの大店の店主だ何らかのスキルで見破ったのだろう、いや、経験か。
「それにしても、穀物入れに使うとは……実に羨ましい限りですね」
「どうしても遠出、それとダンジョンに潜ろうと。備えは必要でしょう?」
「そうでございますね。食べ物無しじゃ力もでないでしょうし。ダンジョンは備蓄がキモですもの。小麦は一回の販売には上限がありましてな」
「はい。売れるだけ。後は豆を……」
……
小麦と、大麦、数種類の乾燥させた豆を購入。現金決済だ
「ありがとうございます。良い取引が出来ました」
「いえ、こちらこそ」
「それではイザーク様、裏の倉庫で引き渡しを。アコヤ! アコヤ!」
「はい。ご主人様」
……
「ふぅ。緊張したぁ。こんな大きな買い物、初めてですよぉ」
現金決済。支払いの折り、積んだ金貨。手が震え、カチカチと金貨が音を立てた。
「ふふふ。そうかもわからんな。業物の武具なんぞはそれなりにするがな」
「……俺なんか出来合いで十分でしたしぃ。それにマジックバッグ……財布にはまだまだ金貨が……」
「はっはっは。随分な出世だなぁイザークよ!」
「俺のじゃないしぃ……」
「いや、直、金も振り込まれようさ? それに、賊から頂いたのもたんまりあるぞ? ふむぅ。マジックバッグの一つくらい持たせるか」
「……まだいいです……」
『うん? 我の干し肉入れに良いな。イザークは採取の達人であろう? バッグの一つや二つ持っていても良かろうが?』
「殺されちゃいますよ……フジ様」
『なぁに、我が守ってやるぞ。……。む? ……ふぅむ。こういう事……であるか。なるほどな』
「どうされた、フジ様?」
『先の店より後をつけてくるのがいるな。イザークの言うように悪目立ちしたか?』
「後ろを見るなよイザーク」
「は、はい……ふぅ。自信無くすなぁ。俺……」
「くっくっく。まぁ、大丈夫だろう? 俺もいる。それに、フジ様の手綱を握ってるのはお前だ。敵さんの考えも改まろう。『狼使い』と知ればな」
”狼使い”は敵にすると面倒だ。機動力、攻撃力とも高い狼と使役者の連携による攻撃。シロの元主のハグロの戦い方がそれだ。しかも、下手をすると”魔獣使い”かもしれない。数自体は少ない”魔獣使い”。そのほとんどは狼タイプの魔獣を使役している。狼は元々群れで生活しているので従魔に比較的適しているのだろう。
「はぁ……」
『確かにその金貨とやらはとても便利だが……そんなもので命を狙われるとは、人の世もつまらぬな』
「ええ、とっても便利ですから……」
「くっくっくっく」
「笑い事じゃないですよ! ガハルトさん!」
「ま、様子見だな。ギルド寄って情報仕入れたら飯だな。飯」
『うむ。美味い店があるといいな』
「……そうですね」




