半分残しておくれ……(出立)
……
交渉事を終え、さぁ! 出立! とその時。
「おうおう! ダイインドゥ! 酒ぇ持ってけ! 酒ぇ! 恐らくは町にも寄らんのじゃろう?」
どすどすと後を追って来たドワーフの老師。どうやら酒を分けてくれるようだ。
ぱっと顔を上げるディアン。
「おぅ? 爺様? が、野営じゃでな。そう自由には飲めんで」
「おおぉ! ヌシの口からその様な真面目な言葉が出るとはのぉ! ばっはっはっはっは!」
「爺様……ワシだってまだ死にとうないでな。じゃぁ、貰っていくかの。いいか? カンイチ?」
「勿論じゃ。感謝しますぞ。ドルトムンドゥ殿」
「おうおう。持ってけ。持ってけ」
酒をいただきに。ギルドの資材置き場に隣接した酒庫での一幕。
容赦なく品定めをするディアン。良い酒からバンバン、アールカエフが”収納”に仕舞っていく……
その様子をあんぐりと口を開けて固まるドルとムンドゥ老とギルドの面々。
「はっ! 老師ぃ!」
我に返ったドワーフの親方衆が叫ぶ! 酒庫の危機と!
「ぬ、ぬぉおお! ”収納”かのぉ! 半分残しておくれ……」
と、
それでもかなりの量の酒をいただき、大満足のディアンとアールカエフ。
「親方……少しは金払った方がええか?」
「ま、だいじょうぶじゃろ……。ちと礼を言ってくるわ」
……
「ハクも頼むの。じゃぁ! 行くか! 出立!」
{応!}
酒をいただき、今度こそ出立となった
……
……
休憩も最小限に進む一行。特に追手やら尾行者はいない。
まだ体力のないイザークは疲れたら馬車に飛び乗り休憩。そしてまた走る。
カンイチ、ガハルトは走りっぱなし。クマ達も遊びながら走っている
ドワーフ連中は最初から馬車の人だ。
アールカエフはリツに跨る。
「うっはぉうぅ! 久しぶりに速駆けの馬に乗るとお尻痛いぃ! わ、割れるぅ! 割れるよぉ! カンイチィ!」
「……最初から割れとるわい」
「うん? 見たことあるのかね! カンイチ君! 僕の尻を!」
「うん? エルフの尻は割れてなんだか?」
「内緒だ! 楽しみにしてると良いよ?」
「別に楽しみでもないのだが……」
「良いですね! カンイチさん! ふ~~んだ!」
「い、イザーク君?」
『むぅ。早く見つけてやらねばならんか? そのうち、内包する邪なる性欲が、毒気、淫気となって毛穴から噴き出してきそうだな。イザークよ! 辺りに悪い影響を及ぼす前に我が引導を渡してやろう……』
「え、ええぇ!? い、いやですよぉ! フジ様ぁ! 何です? それって!」
『ある意味、執念か。幽鬼……生霊みたいなものだな』
「ほ、本当ですかぁ……フジ様」
『くっくっくっくっく。さてな』
「まったく……何やってんだか……」
イザークとフジのそんなやり取りを見てぼそり。
『イザークは措いておいて、そろそろ休憩にしようか』
フジはクマ達のみならず、動物全体の意志をこちらに伝えてくれる
ハクの状況を見ての提案だろう
「了解じゃ」
休憩となると、ガハルトとミスリールは馬の世話。
カンイチ、イザークは犬達の世話、イザークはフジと採集も熟す。
ダイの親方夫婦は馬車の補修。飯時ならディアンは食事の用意。イザークとミスリールが補助に。蛇スープはイザーク君の専売特許だ
アールカエフ? 彼女は自由だ
「どうじゃ、親方?」
人も疲れる。が、馬車もまた。まだまだ舗装もされていない、良くて石畳の道。
特に負担のかかる、車輪。車輪を支える車軸。その車軸を馬車本体に取り付けるための軸受け。この辺りの損傷が激しい。
「む? 問題無しじゃな。予備の車軸やら、軸受け。車輪もあるでな。ほれ、例の貴族の馬車、ええ軸がついておったで。当分持つじゃろさ」
”収納”のお陰で様々な予備の部品も手元にある
「あの馬車は使えんのか?」
「ゴテゴテといろんなもんがついとるでな。板も厚いで。ハクも重かろ。カンイチの愛の巣にするかの?」
「親方……。ま、馬車が大丈夫ならええがの」
……
「ふぅ。やっと、ここまで戻って来たな」
そう、伯爵に追いつかれた場所だ
「この先、【ジヨロイ】の町がある。警戒を」
「寄りませんよねぇ」
「ああ、残念じゃがの、イザーク君。隣国にとっとと逃亡じゃ!」
暫く進むと分岐が現れる。
道標によれば右に行くとジヨロイの町。左は【剣の山脈】。まっすぐは、ガンドーの町。
「うん? これなら【ガンドー】に向かえばいいか?」
「そうじゃな。とにかく北じゃろ? どのみち寄らんがのぉ」
「シター・シャモイの国境の町カペリンまでまだ結構ありそうじゃな」
「ああ、ギルドで調べたところガンドー町、カベゾン町、ヒメスイ町、で、国境のマサヒラ町その先だな。もちろん間に小さい村々はあるぞ」
「まだ結構あるのぉ」
「そりゃぁ、カンイチさん。小さい国とはいえ、縦断するんだし?」
「そうじゃなぁ。小麦持つかの?」
「ダンジョンの事を考えるともう少し仕入れたいところですね。そうなると大きな町に寄る事になりますね」
「ううむ。そうよな。少し仕入れるか……。金貨はあっても食えんものなぁ」
「は、ははは。そうですねぇ。大きな問屋さんがあると良いのだけど」
「確か……ガべゾンの町が大きかったと記憶してるが……」
「うん? そういや、ガハルトは通った道じゃな」
「あまり良くは覚えていないがな。護衛任務をこなしながらだからな」
「大変じゃなぁ」
「そりゃなぁ。当時は金も無いしなぁ。飯付きのキャラバンの護衛に付いてな」
「ガハルトさんにもそういう時代があったんですねぇ」
「当たり前だろう。イザーク。ダンジョンで一攫千金! って夢見てなぁ。ま、カンイチのお陰でその夢も叶いそうだがな。本当についてきて良かったわ!」
「ご期待に添えればええがの」
「そうか……そうだよな。ダンジョンへの道かぁ! くぅぅううぅーー!」
「ん? どうしたんだ? イザークの奴?」
「ガハルトの話聞いて気合が入ったのじゃろうさ。ふふふ」
「そうか。が、また夢が見られる。楽しみだなぁ」
「……そうじゃな」




