ほんむぅ? その手があったのぉ。(捕虜)
……
「なんと……」
領主が軍を率いて出て行き、再びアールカエフ町に戻った。領主の首を携えて。
驚きを隠せない『商人ギルド』ギルド長、ベルナール
「仕方あるまい。戦だろう? 領主殿は負けたのさ」
とは、腕を組んだ筋骨隆々の50代の大男。『冒険者ギルド』ギルド長のハーヤだ。
「ま、そうなるじゃろのぉ。アールカエフ殿がいるでな」
と、頷く、ドワーフのドルトムンドゥ爺様。こちらは『鍛冶師ギルド』の代表だ。
この町の名士ともいえる三つのギルドの長を集めた会合。今後の相談だ。
ダイインドゥから聞かされた領主撃退劇の一部始終。そして、領主の死。拘束されたハンセンの姿もある。
こちらの出席者はダイインドゥ夫妻と一歩下がってカンイチ。
「じゃぁ、兵の連中は無事なのだろうな?」
と、ハーヤ。
「うんむ。ワシらは手は出しておらぬ。領主と騎士のみじゃ。急いでたので追い越したでな。直、町に帰ってこよう。途中、何もなけりゃの。その辺りは関せずじゃな」
こちらは主にダイインドゥが交渉に。見た目若造のカンイチは大人しく成り行きを見守る
「ふむ。さて、どうするか……。か。ベルナール殿?」
「そうですね」
「それよか、よくもまぁ、無事だったの? 貴殿らは」
ベルナールもハーヤ、他の職員たちも拘束、拷問された痕跡はない。
「うん? 鍛冶師ギルドはどうしたかは知らんが、俺の処は、例の子爵、男爵の件、領主の関与が疑われると即日、緊急回線で王都の本部に通達。本店の総括に直に王に直訴してもらってるからな。今更口封じも無かろう? もっとも簡単に口封じなぞされぬがな!」
と、腕をめくるハーヤ
「私どもの方も。これでも一応は王の臣下、男爵ですので。そもそも、冒険者ギルド、商人ギルドの封鎖、ましてや排除などできませんよ。国から撤退なんてことになったら国が立ち行かなくなりますから」
とはベルナール。
では、鍛冶師ギルドはと……
「爺様? ウチは?」
「ほんむぅ? その手があったのぉ。ばっはっはっは!」
「爺様ぁ……」
高笑いのドルトムンドゥの爺様
何もしていなかったらしい……
――確かにな。王の耳に入っていれば最早、公。今更動いても評価を落とすだけ……ではなぜ? 追撃なぞ……
それにしたって私怨。あわよくば討ち取り、名を上げ、王の心証でも良くしようと思ったのだろう。護国の英雄フックラーギここに在り! と。今は首だけになってしまったが。
「まぁ、こうなっては我らで王に訴状を上げるしかあるまいよ。ありのままをな」
「ええ。そうですね。ハーヤ殿。で、ダイインドゥ殿、……領主殿の御首と、証人としてハンセン殿の身柄を預かっても?」
「……」
一言も発することなく項垂れているハンセン将軍
「そいつは構わんが……。証言をとって首、落とした方が良いではないのかの? 万が一解き放たれれば貴殿やら兵に害になるのでは?」
「そうしちまった方が良いと思うぞ?」
と、ダイインドゥ夫妻。彼らからしたら既に二回敵対している。
ディアンなんかはなんなら落してさし上げようかという勢いだ
「ひ、ひ!」
「いや、ディアン殿。一応は王国貴族。国境軍の総括の重職にある者です。それに、その証言は重い。とりあえずは王の下に」
「が、後は王の裁量。どうなるかはわからんがな。ま、生きながらえたとて、これに懲り大きな顔はしないだろうよ。無様な姿、多くの民も見てるしな」
「ぐぅぅ……」
――確かにのぉ。国としての面子を潰されたと思えば派兵止む無し……か
と話を整理していくカンイチ。
「うむ。貴殿らと兵たちに累が及ばねばええで。ワシらも急ぎ国を出るで」
「恐らく大丈夫でしょう。各ギルドからも訴えますので」
「ああ。その点は任せろ。しかし、とんだ目にあったな」
「仕方なしじゃの。まさか、子爵やら伯爵が副業で賊なんぞやってるとは思わなんだわ」
と大袈裟にお手あげのポーズ。手を挙げてみせるダイインドゥ
「違いないな。ウチも変なのが混ざってそうだしなぁ。こりゃ忙しくなりそうだ」
冒険者ギルド、商人ギルドにしても件の賊に情報を売る者や、護衛任務と偽り、賊の目前に献上して来る者。挙句、既に一味になってる者。
町を挙げての調査となり、調べが付けば役所の方にも芋づる式に広がり、公になる事だろう
「ええ、お気をつけて」
「ハンセン殿、もう、戦場じゃぁ会いたくないのぉ」
「……」
……
「と、こんなもんじゃが、カンイチよ」
首と捕虜のハンセン将軍を町に引き渡し、交渉を終え皆の元に戻る途中。
「まぁ、上出来じゃろうよ親方。それにしても、皆、無事でほんに良かったの」
「ああ、爺様や同胞らの安全も確認できたでな。恩に着るわい」
「じゃぁ、すぐに?」
「ああ、そうせようか。国が動く……というのも全くないとはいえんでなぁ。恥の上塗りじゃがな」
「そうじゃな。なるべく早くに抜けてしまおう」
「酒……ぇ」
「ほんむ。ディアンよ……。当分町には寄れん。野営じゃで。我慢じゃ」
「おう……わかってるさ。……アンタぁ。はぁ……」
この期に及んで酒とは……。
呆れると同時に、酒に対する情熱に感心させられるカンイチであった。
……と、ここにも己の欲求に素直なのが
「皆の衆、忙しいが、今から町を出るでな」
{おう!} ……けふぅ」
「ぅん?」
ゲップの先には、ぽっこり下腹が出ているアールカエフ。フジもまた満足げに毛繕い。
そして、少々困り顔のイザーク君
「ほら! 僕の言ったとおりだろ? すぐに出立だって! 串焼き食べておいて正解だったろう! イザック君! けふ! けふぅ……」
「……何やってんじゃ。……アールよ」
「安心して! カンイチ! オミヤあるよ?」
「馬に揺られて気持ち悪くなっても知らんぞ……まったく」
「カンイチ! 馬は処分(売る)しておいたぞ! ん? どうしたカンイチ?」
「……何でもない。ご苦労じゃったな、ガハルト」
「おう?」
……




