町の連中が心配だ (領主の首をとって)
……
腹部を失い、こと切れた伯爵を見下ろすハンセン将軍。
その膝はがくがく笑い、もはや立ち続けるのも難しそうだ。
その彼に、
「で、役立たずの将軍君?」
アールカエフが声をかける。
「は、はひぃ!」
そのまま腰が抜け、尻を突く。失禁はどうやら回避できたようだが
「うん。で、ギルドの連中に手ぇ出したかい?」
アールカエフの表情は変わらない。ゴミを見る目のまま。
”ぴしん!” ”ぱしん!”
と、再び、ハンセン将軍の周りに風の渦が巻く。彼女の心境の様に怒りを孕んだ風が
「どう?」
「お、お待ちください! わ、私は! 私は……」
「ふぅん。将軍君は出していないけど~~って、事かね?」
「い、いえ、出していません! 出していません。出していません……」
「ふぅん?」
目を覗き込むためにか無造作に将軍に近づくアールカエフ。
「アールよ、それ以上、そいつに近づくでない」
と、カンイチの制止。追い詰められた者は何をするか予想ができぬと
「大丈夫さ。そんな根性無いだろ? 腹くくって飛び掛かるくらいの気概があればノコノコこんなところに来ないでしょうよ? 僕に勝てる自信があってのことだろうけどぉ? ねぇ? どんな方法?」
「わ、私は、止めたのです! そう! この暴挙を!」
「暴挙ってわかってるじゃん? 哀れだね。 んじゃぁ、サクッといこうか!」
「ひ、ひぃ!」
「アール殿、そいつの身柄、ワシに預けてはくれんか? 人質交換の玉くらいにはなるじゃろうさ?」
「……うん。そうね。わかったよ親方。急いで戻ろうか」
「すまんの」
「いや、あの連中にも随分と世話になったし? じゃぁ、将軍君の拘束よろしくね!」
ぱっと、晴れる風。
「「おう!」」
ダイの親方とディアンの手によって拘束されるハンセン将軍
「しっかし、すっごい威力だったなぁ! 大軍来ても粉微塵だな! はっはっは! ねぇ、カンイチ?」
「ああ。じゃが、平気かの……アールよ?」
「何が? さっきも言っただろ? 僕、人族じゃ無いしぃ?」
カンイチの心配を他所にあっけらかんとしたものだ。
「それに、知らない人だし? こっちの命狙って来るんだよ? ゴブリンなんかと変わりないさ?」
「くくく。そんなの当然だな。可愛い女房が暴れてるのを見て腰が引けたか? カンイチよ?」
「あは♡ そうなの? 嬉しいね! カンイチ!」
「……」
「お熱いのはええがの。カンイチよ、そろそろ出ようかの?」
「ああ、少々、町の連中が心配だ」
と、ドワーフ夫婦
揶揄われて赤くなっていたカンイチの顔色も戻る。
役立たず将軍こと、ハンセンに向き合い睨みつける
「ギルドの皆に怪我させておったら、同じ場所に同じだけの傷付けてやるでな……覚悟せぇよ?」
「ひ、ひっ! こ、こんなことして! く、国を相手に」
「うん? 良いよ? 木っ端みじんにしてあげるよ? さっきみたいに? 沢山連れてくるといいさ」
「……」
「あんまり、兵を失うと、【イヴァーシ】やら【メヌーケイ】が喜んで攻めてくるぞい?」
「……」
「そうなのか? 親方?」
「ああ、【イヴァーシ】やら、【メヌーケイ】は土地を欲してるでなぁ。なんでも、最近、イヴァーシとメヌーケイとの間で停戦合意したとかでのぉ。この機にってやつじゃ。イヴァーシの狙いは【サヴァ】と、この【カブジリカ】。サヴァは持つかのぉ? アール殿も出てきてしまったで。【バグキロス】とイヴァーシと同盟相手にのぉ。メヌーケイはこのカブジリカじゃろの。いつメヌーケイが動くか。帝国の後ろ盾があるでな」
「あらら、そりゃ大変だねぇ! ま、僕には関係ないけどぉ」
「きな臭いのぉ……」
「まぁ、住める土地が限られてるでなぁ。じゃ、出立せようかの?」
「ああ、そうしよう」
……
領主の首を掻き、馬をまとめる。領主の馬車や軍事物資の悉くはカンイチの”収納”に。
来た道を引き返す一行。ドワーフ達が心配なので自然と足が上がる
「これで、今後、町には入れんの。完全に敵対じゃぁし?」
何せ、悪名高し! とはいえ、王国伯爵の首を飛ばしたのだ。
普通であれば国としてもこのままということは無いだろう。
「だな。野宿しながらさっさと国境越えちまおう」
「で、親方、鍛冶師組合の連中はどうすんじゃ?」
「さて……どうしたものか……。とりあえず爺様が無事で、話聞いてからじゃな……最悪、シター・シャモイに逃がすことになるが……」
「勿論協力は惜しまんよ」
「すまんの」
……
「おお! ダイインドゥ! 無事じゃったかぁ!」
「は? 爺様ぁ?」
門の審査の列に並んでいると、見知ったドワーフ達がやって来た。特に変わった様子はないようだ。
「とにかく町に入って休憩しておくれ」
「お、おう? 爺様たちこそ無事じゃったか! 皆の衆?」
「うん? ワシらか? 特に何も無いがの? なんじゃ? 何かあったのかの?」
「なんじゃ? じゃ、ないで爺様! 領主に捕まっておったとか? 拷問されたりとか?」
「は? 何でじゃ?」
きょとんと、ダイインドゥの言葉について行けない老ドワーフ。
「何でじゃ? って……」
どうにも余計な心配だったようだ。
「それよか心配したぞい。ダイインドゥよ。国境警備の兵連れて領主がうぬらを追って行ったと聞いてのぉ。抗議したが城に残ったのは知らぬ存ぜぬでなぁ」
「じゃぁ、他の……『冒険者ギルド』やら『商人ギルド』の連中は?」
「はて? 特に町に騒ぎは無かったがのぉ。ナラや、ちと、調べてみておくれ」
「はい。わかりましたわ」
「良かったな、親方。特に問題なさそうだな。町の連中は」
「んむ。心配かけたの。ガハルト殿。皆も。ふうぃ。良かったわい」
「ああ。そうじゃ、ナラさんや。それぞれのギルド長に声かけてもらえんか」
「はい。カンイチ様」
……




