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二(かんいち)爺ちゃん、異世界へ!(仮)  作者: ぷりぷり星人
外国へ!
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聞け! 兵士諸君! 逃げたまえ! (伯爵)

 …… 


 【ジヨロイ】という町を探しながらのんびりと移動中のカンイチ一行。

 その背後から軍らしきものが迫る

 どうにも何かを探しているような動き。

 そしてとうとう、騎兵の一隊がカンイチの下に。

 アールカエフも移動中は風を楽しむのにフードを被っていない。

 やぁ! と、右手を挙げるアールカエフ。

 挨拶の返事も無しに馬をとって返す騎兵たち。

 その様子を見て、確信。狙いはカンイチ一行と。カンイチも諦めて収納から散弾銃を引っ張りだす。

 

 フジの予想通り。軍隊は通り過ぎる事もなく、カンイチ達の手前で行軍を停止する。

 威嚇か大袈裟に馬を煽る騎士たち。

 歩兵に囲まれていたのは立派な大きな馬に牽かれた馬車。

 その扉が開き、小さな階段が置かれる。馬車からユサリユサリとでっぷりとした腹を揺らせながら男が降りてくる。傍らには【コズクラ】の町にいたハンセン将軍。表情を見るに嫌々だがついてきたようだ。

 

 「うん? あの男……確か将軍だかじゃったな? ということは、首魁の御登場という訳かの?」

 「件の悪徳領主様か? なるほどな。しかし……すげぇ腹だな。何が詰まっているんだ? ありゃぁ」

 「碌なもんじゃねぇだろうさ。ガハルト殿。盗賊の腹の中なんざな。犠牲者の恨みで真っ黒だろうさ」

 「うんむ。ディアンの言う通りじゃ。ただでさえ、悪徳貴族じゃ。ごうも倍じゃろうよ」

 「うん? 掻っ捌いて見てみるかい? 普通の剣じゃ斬れないだろう? 脂で。クス」

 と、好き勝手に相手の分析をする一行。ただの悪口ともいう。 


 「控えい! このお方は王国伯爵のフックラーギ様だ! 控えよ! 控えよ!」

 文官、いや、役人ではないだろう。派手な服を着た男が声を張り上げる。子飼いの貴族なのだろう。カンイチが仕留めた代官シヒノのような。  

 「ふん。下郎が! 儂がフックラーギだ。其の方らを捕縛しに来た……! ……おとなしくせいぃ! はひぃ、はふ、はひぃ、はふぅ……」

 

 歩兵が掲げる盾の壁、腹を震わせながら名乗りを上げる伯爵。日頃の不摂生のせいで肺腑の機能が著しく低いようだ。最後の方は言葉が掠れ、酸素を求めるようにパクパクと口を開け閉めする。

 でっぷりと肥えた腹、首など確認できないほどに体に頭が埋まる。腕などおまけのようなもので自分の尻もふけないどころか食事すらままならないだろう。もちろん剣など振れはすまい。その人からかけ離れた姿、服を着た膨れた大ヒルのようだ。もっとも、民の血を吸って膨れているのだろうが。

 こういった”武”に遠いものが国境やら防衛の要職に。これも長く続いた平和の弊害であろう。


 「ふん! 我らはこの国の国民でも無し! 礼を尽くす謂われも無い! それに縄を打たれる心当たりも無し! 言いがかりは止めてもらおうか!」

 無礼なフックラーギの言動にガハルトが応える

 「はひぃ……な、なにぃ! 心当たりがないわけなかろう! ふひぃ、ふざけおってぇ! シヒノのみならず、我が義弟のレガイン(=ツーバス子爵)まで手に掛けおってぇ!」

 盾の後ろから叫ぶ伯爵。

 「レガイン? 誰だぁそいつは 知ってるか? カンイチ?」

 「さてな。シヒノだかはワシがやったがな」

 と首をかしげるガハルト、カンイチ。全く心当たりがない

 その様子を忌々しく見ている伯爵の歯軋りがここまで聞こえてきそうだ

 「うん? ……! ああ! あの、屑子爵の事じゃん? ほら、そっくりじゃん! ディアン君! ミスリール君! あのへこへこ男に! 体型も!」

 「うん? アール殿、アイツ、義理のと言ってたぞ?」

 「なら血の繋がり無いんじゃない?」

 「あれれ?」

 「ふん。やってることと、思考が同じなら似てくるんじゃろうさ。屑は屑じゃ」

 「だね! そうだよ! カンイチ!」


 「ぐぬぬぬ……何を言っても無駄じゃぁ! その名馬、ハーマーチィが証拠! 戻ってこい! ハーマーチィィ!」

 ぎゃぁぎゃぁ騒ぐ伯爵。指を差し、馬の名を叫ぶ!

 ハクと共に草を食んでいたが、ふいとそっぽを向くハーマーチィ改め、リツ。

 フックラーギ伯爵の呼びかけは完全に無視だ。どの馬だってあのような肉塊。背には乗せたくはないだろう

 「ぷぷぷ! 良い子、良い子」

 そのリツの首筋を撫でるアールカエフ

 ”ブルルルルルルゥ!”

 嘶き頭を摺りつけるリツ。

 指をさしたまま固まる伯爵。

 

 「それらの件はそこのハンセン殿と話がついているが?」

 「……」

 無言で目を逸らす将軍。額、顔中汗でびっしょり。

 「また握り潰したか? うん? ギルドの連中に危害は加えてはいないだろうな……」

 ぎろりとハンセン将軍を睨みつけるガハルト。

 さぞや背筋も冷えていることだろう

 ダイインドゥら、ドワーフ達も身を乗りだす

 

 「で? どうするのさ? こっちは降る気なんかこれっぽちも無いよ? ほら、かかって来なよ?」

 と、一歩前にでるアールカエフ。いつの間にかに彼女の周りには風の渦が。ふわりふわりと、外套の裾を揺らし、その翡翠色の髪をさらりさらりと流す

 

 「く、く……こ、このぉ! え、エルフめ! エルフの分際でぇ!」

 

 大盾の裏から一歩も出てこない伯爵。

 その盾を持つ兵たちはガタガタと震えている。何せ相手はハイエルフだ。しかも敵対し、魔法を行使される寸前を目の当たりにしては生きた心地もしない。

 先程まで、馬を煽って威嚇していた騎士たちも今度は怯える馬を制御するのが精いっぱい、既に4人ほど、技能及ばず地に叩きつけられている。うち一人はピクリとも動かない。馬に踏まれでもしたのだろう


 「随分と腰抜けだねぇ。かかってこないのかい? 態々こんな所まで追いかけて来て? んじゃぁ、こっちから行こうかな? あ~~あ~~。コホン。聞け! 兵士諸君! 逃げたまえ! 逃げるなら追わないよ? 大丈夫。大丈夫。そこの悪党領主と間抜けな騎士たち、そして……役立たずの将軍閣下はここで死んじゃうから。逃げても問題無し!」

 

 兵たちの間に一気に動揺が走る……

 

 罪人捕縛の出兵。将軍率いる国境軍だ。しかも、相手は10人にも満たない。こちらは騎士も居るし、何よりも領主様も御自ら指揮をとられる。

 これは、”安全””安心”という事だ。よっぽどじゃない限り出てこない。特にこの領主様は。歩兵にしたって100近くはいる。

 だが……


 相手は各国の軍事バランスの一つに数えられるハイエルフ。しかも、長年サヴァ国を護って来た(とされている。本人にしてみれば不本意だが)天下に名が轟くアールカエフだ。

 風の中にいるが、特に迫るではなく、風と戯れるように、そして微笑んでいるようにも見える。

 それが却って恐ろしい……

 そのアールカエフがこの後、上役はすべて死ぬという……。おまけに逃げるのであれば攻撃はしないと。

 ……。 

 兵たちは考える……。ということは、ここに残れば? 

 仲間の顔を見回す。目を合わせる。

 そして、盾の陰でふんぞり返る上役を見る。

 ……忠誠? 国に対してはある。護りたいと。

 ……が、この”豚”にはない! しかも、盗賊との癒着も噂になっている!


 ”わっ!”


 と、散る歩兵たち! 領主の心の安寧を担保していた大きな盾を放って。    <つづく>

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