良いですねぇ、”料理人冒険者”! (イザークの夢)
……
「ぷぷはぁ! イザック君! 君の蛇スープは日々進化してるな! 今では臭みも全く感じないよ! が、蛇、由来の旨味がぁ! すんばらしいぃ!」
早速、捕まえた蛇が夕食に花を添える。イザークの得意料理『毒蛇の滋養スープ』に形を変えて。
「あ、ありがとうございます! アール様!」
アールカエフの賞賛に照れるイザーク君
新たな香草、薬草なども取り入れ、または、除きと試行錯誤してきた成果だ。
「うんむ。出汁がすごいのぉ。蛇自体も美味い。これ以上煮るとスープも濁るのじゃろうなぁ」
カンイチも舌を巻くほどの美味さだ。
『うむ。我の舌も十分に楽しみ、歓声を上げておる。それに、干物の具合も良いな。良き工夫だ』
フジも絶賛だ
余剰に取れた蛇に関しては干物へと加工される。
皮を剝いで内臓を除き、開き、よく血を荒い、イザーク考案の数種類のハーブ、酒、塩の入った液に2日程漬けられる。適度な塩分、香り、下味が付いた蛇肉は、夜、夜空の元、干される。日中は取り込み移動中は熟成、再び野営時に広げられて夜乾燥という手順だ。
3日も干せば食えるが、フジやクマ達、獣仕様にはさらに干してカラカラに乾き、カチコチに硬くなったものが何時までも齧っていられると人気がある。
水で戻し、スープの出汁にも使えるが、今は全量、フジ預かりとなっている。
そんな干してる蛇を見て、モズのはやにえのようだとはカンイチの感想だ。
他にも蛇の乾物だけではなく、猪が取れれば猪肉、鹿が取れれば鹿肉。食える魔物であればその肉の干物も作られる。
その傍らには、香草、薬草、キノコも。その土地で採れたものがすぐさま乾燥加工される。
フレッシュの香草、薬草類はアールカエフが”収納”で管理。彼女の(怪しい)調合の材料にもなるらしい。
「どうしても小骨が触りますからね。俺たち人族だと煮て食べるのが一番のようですね」
「うん! ホロホロと綺麗に取れるもの! 美味! 美味!」
「おう、もう少し味が濃いと酒にもバッチリだが……」
「しょうがねぇ母ちゃんだな……。でも、イザークのお陰で貴重なハーブも遠慮なく使えて美味いものがバンバン作れるよ。種なんかパンに混ぜるのも面白いものな」
「だな、”採取の鬼”だな。イザークは。次の町に着くまで売るほど溜まりそうだな」
「売りませんよ? ダンジョンにも入るし?」
「だろうよ!」
「しかし、器用なもんじゃの、イザークよ。乾燥専用の馬車やら燻製小屋載っけた馬車も作らねばいかんか? ううん?」
と、鹿の干物を齧りながらダイインドゥ。
ドワーフ連中も酒飲み、こういったツマミになる干物は好物だ。それに固いほどいい。干物を作る際には一家総出でイザークの手伝いをする。
「カンイチさんの”知恵”ですよ。でも良いですね! 親方! 燻製馬車! 燻製もやりたいですね!」
「うむ! 造るかのぉ。そうすりゃ腸詰なんかも作れるのぉ」
干物を齧りながら腕を組み真剣に考えだすダイインドゥ。
「おいおい……イザークよ。マジで料理人に転向か?」
「うん? それも冒険じゃろが? ガハルトよ。食材を自ら探す”料理人冒険者”のような? が、それが本来の姿じゃろ?」
「ぬ……確かにな」
「良いですねぇ、それ! ”料理人冒険者”! なんか格好いいなぁ」
「うんうん。僕は応援するよ! イザック君!」
『我もな。更なる美味いものを探そうではないか! イザークよ!』
”うぉおうふ!” ”わおうぅ!” ”ぅをん!”
クマ達も聞こえているのだろう。賛同の吠えを上げる
「は、はい! フジ様! アール様! クマ達もよろしくな」
「おいおい」
と、ガハルト。が、なんだかんだ言ってイザークの作った料理を楽しんでいる。
「ま、道はいろいろあるじゃろうさ」
「あ! そうだ! 親方! 炉みたいな石窯のオーブンって作れない?」
「ん? 作れんことは無いがの。どこぞのレストランみたいじゃの……」
「いいじゃん! アンタ! 美味いものが食えるんだし! パンなんか魔導オーブンなんかよりずっとうまいぞ! 木の香りが移ってなぁ」
「うんうん! ディアン君の言う通りだね! イザック君も本気になってるんだ! 僕も協力するよ! 何でも言ってくれたまえぃ! イザック君!」
「イザーク君じゃ。まぁ、無理のない範囲で頼むわ。親方」
「うんむ。移動を考えれば焼きレンガ製が良いか……河原の石も良いな……上手く維持する方法は……」
「親父ぃ。飯食っちゃおうぜ。先に……」
……
「うん。地図によると、そろそろ【ジヨロイ】の町だが……。道、間違えたか?」
開けた場所に出たのだが進行方向に町らしきものは見えない。大抵、大きな町はレンガの壁または板壁で囲まれているからすぐにわかる。
「真直ぐ街道、上って来たで、そりゃなかろうが? 人通りも変わらんし」
「ま、気長に行こう! ガハルト君! カンイチ! 北に向かってることには変わらないしぃ」
「そうじゃなぁ」
「どこかで内陸に向かうのでしょうか」
『うん? ……何か来るな。後ろだ』
「後ろ? 追手かのぉ?」
路肩に馬車を乗りいれ、街道を空けてまつこと暫し。
先行する騎兵が20。その後ろにも砂塵。歩兵か。
街道を行く他の者たちもなんだなんだと道を空ける。
騎兵は2ないし3人でチームを作り馬車を覗いている。何かを探しているかのように。
女性の悲鳴が聞こえる。
女を捜しているのだろうか。
遠目でも幌馬車の幌布をめくったりとせわしなく動いている
「追手か? ……ワシらかの?」
「さてな。心当たりはないがな」
と、白い犬歯を剥き出し二ィと笑うガハルト
「本気です? ガハルトさん……」
「うんうん。心当たりしかないけどぉ。オレ」
と、イザークとミスリールのツッコミが飛ぶ
「うん? 俺には盗賊を狩った覚えしかないがなぁ」
腰に提げてあった木製のトンファーを仕舞い、ポーチから金属製のトンファーを出し換装。その金属の冷たさを楽しんでいるようにもみえる。
「仕方がないのぉお。ガハルト殿は。どれ」
ダイインドゥも得物のバトル・ハンマを引っ張り出す。
「さぁて! 素通りしてくれると良いがねぇ!」
こちらも準備万端。肩に大斧を担ぐディアン
「だと良いね! ま、初撃は僕に任せてくれたまえ! ビビッて撤退してくれた方が良いだろう?」
「まぁそうじゃが。あまり無理するでないぞ?」
「わかってるさ! カンイチ」
「ふんだ! 余裕ですね!」
と、文句をいいながらイザーク。彼も準備万端だ。
「フジ様、どうです?」
『さてな。おそらく我らに用事があるのだろうよ。お手並み拝見だな。イザークはクマ達と』
「は、はい」
「どれ、オレも準備しようか。矢、足りるかなぁ」 <つづく>




