言葉通じたら是非とも畑手伝ってもらいたいのぉ(コボルト)
……
「うん? 何じゃぁ? ありゃぁ?」
ピタリと止まるカンイチ。額に手を当て遠方に目を向ける
「どうした? カンイチ? 魔物か?」
「わからんが……人? かのぉ? 狩りでもしてるのかの? こんな森の中で」
カンイチの視線の先。離れた森の中に黒ずくめの二本足で歩く人のようなものが。
その数、20くらいか。獲物を囲い込んでいるような動きを見せる
ガハルトも並び、額に手を当て窺う
「どれ? ……。あ、ああ。コボルトだな。コボルト。ほう。長く生きてるのだろうな。革鎧も着てらぁ。武器もそれなりの持っていそうだな。距離もあるだろうから大丈夫と思うが……。イザーク! 山の斜面にコボルトだ。20はいるな。一応警戒を!」
「は、はい! こ、コボルトか……了解!」
馬車の方に駆けていくイザーク。ダイインドゥたちとの情報共有のために。
『うん? あ奴らはくるまいよ。とても臆病な奴等ぞ』
と、隣を歩くフジ
「そりゃぁ、フジ様相手じゃ、どいつも臆病になりますよ……」
「うん? ガハルトよ。魔物かいの?」
「ん? ああ。人と犬を足したような容姿だ。黒く見えるのは体毛だな。ゴブリンより強いとされている。群れの力もな。ゴブリンはただ数で押してくるが、コボルトは狼のように連携してくる。厄介な相手さ。あの集団はさらに……だろうな」
「で、言葉は通じるのかの?」
「いや、公式には通じなことになっている。が、ゴブリンと一緒だな。独自に言葉もあるだろうし、ほれ、見事な統率力だ。獲物を追ってるのだろうさ」
「なるほどのぉ」
「で、どうする? カンイチ?」
「……あれも、人じゃろ?」
「くくく。さてな。ま、我らとは相いれない敵性生物だな」
「まぁ、あまり気が進まんがのぉ。そおっとしておこう。襲ってきたら……じゃな。距離も結構あるしの」
「くくく。そうか。ま、それもよかろう?」
「器用そうだで。言葉通じたら是非とも畑手伝ってもらいたいのぉ」
「はっはっは! いいな! 今度、交渉してみるか! カンイチよ!」
コボルトの集団も特に襲って来るでもなく。彼らは鹿を追って見えなくなった。
「色々と居るのぉ」
「まぁなぁ、おれら人間だって色々いるしな。カンイチが居たところはどうだったんだ?」
「人といわれるのは、わしのような人族だけだな」
「へぇ! エルフ居ないの? エルフ? カンイチ?」
興味深そうにリツの上から覗き込むアールカエフ
「うむ。エルフはおらんな。肌の色やら目の色、髪の色の違いがあるがのぉ。人族しかおらんぞ」
「ふ~~ん それはそれで面白くないな。獣人だっていないのだろう」
「だね! ゴブリンとかも?」
「うむ。怪獣やら魔物もおらんのぉ。動物だけじゃな」
「随分と安全な世界だねぇ」
「そうかもしれんなぁ 盗賊なんぞも昔はいたじゃろが……。じゃが、戦争なんぞは恐らくここよりも酷いぞ……いかに手を掛けずに大量に人を殺すかとな」
「そうか……」
「うむ。アールの比じゃ無いわい。お互いが大量の必殺の兵器を持っていてのぉ。どちらかが使えばもう片方も報復という塩梅でのぉ。で、地上は長年消えぬ毒で満たされ、生き物の棲めない星になっちまう。愚かな事じゃて」
「……恐ろしいね。人の都合でその星に生きてる生物、全部、道連れ? なんて傲慢なんだ!」
己の身を抱くアールカエフ。余程のショックなのだろう
「じゃな。アールの言う通りじゃて」
「……。ん? てか! カンイチ! 僕は兵器じゃないぞぉ!」
「お? おお! そうじゃな。ワシの可愛い女房じゃて」
「ぬぅ! ……。可愛い? ぇへへへ~。そうだよ! それだぁ! カンイチ~~! ……ガハルト君! 何を笑っているのだね? イザック君を見習いたまえ!」
「ふんだ!」
「ほら! 羨ましがってくれたまえ! 拗ねてもいいぞ!」
「アールよ……あまりいぢるとイザーク君に嫌われるぞ」
……
「お! 気をつけよ! イザーク! そっちに行ったぞい!」
「よっと! 任せて! 親方!」
毒蛇の頭を足で押さえ、易々掴むイザーク。
「本当に上手く捕まえるもんじゃな。主、”鉄”のままじゃぁ、もったいないの」
イザークの手際にうんうんと頷くダイインドゥ
「ええ、大分コツがつかめてきました」
その後もブッシュマスター捕りに精を出すイザーク。
ダイインドゥは邪魔になろうと上がり、カンイチと茶を楽しむ。
「のぉ、アールよ。毒蛇の解毒薬やら血清って作れるのかのぉ?」
イザークの様子を見ていたカンイチ。保険が欲しいとアールカエフに聞いてみる。
一応、フィヤマでブッシュマスターから作られた毒消し、血清は持ってはいるが
「うん? 当たり前だろう? 要るのかい? カンイチ? じゃぁ~ん! 特級毒消薬、【キエキエちゃん、7号】! どうだね! カンイチ君! この優れた薬効は虫毒から、蛇毒。血の毒、おまけに貴族の毒気までもが抜けてしまう優れものさ!」
怪しい黄色の液体が満たされた瓶を握りしめ、胸を張るアールカエフ。
「なんじゃ……貴族の毒気って……。うさん臭いのぉ。もっと普通のがええんじゃが?」
「ふぅむ。折角だしぃ。イザック君に料理される前に毒とるか? うん? ついでに対貴族毒殺用に、【ドクドク君シリーズ】の開発にも着手するか……」
「物騒じゃのぉ。わしは、ごく普通の『毒消し』が欲しいのじゃがのぉ……用心のためにの」
「うん? イザック君が噛まれたら、僕が魔法で出してあげるよ? 毒ぐらい。強烈なのだって。ま、僕で対処できると思うけど、それでもだめならフジ殿に頼めば?」
「は? フジ、魔法つかえるのかの?」
「あったりまえじゃん! 本来、山脈のうんと深い奥に居るんだぞ? ”洗浄”使ってんじゃん。フジ殿のは凄い効果が高いんだぞ? ”回復”やら”解毒”なんかお手のものだろうさ! じゃないとすぐに死んじゃうぞ?」
アールカエフが”解毒”の魔法を使えるのも驚きだ。だが、それ以上にフジが……と、屋根の上で日向ぼっこしている魔獣に目をやる。
「フジ……フェンリルというのはとんでもない生き物じゃの……」
「だから、そうだって言ってるだろうに? 残念君だな! カンイチは! お偉い貴族だって乗り込んできただろう? 人の心を狂わすほどの存在さ! 野望にもボン! と火が付くってものさ。まぁ、僕は神様に会っちゃったけどぉ。それが無かったら神のように拝んでるところだぞ? ドラゴンと並ぶ神獣様だぞ?」
「良くわからんのじゃが……神獣様か……のぉ」
欠伸しいしい、屋根から半分、だらりとぶら下がるフジ。あれがのぉ……とは、カンイチだ
「ま、そういうことだ! じゃ、毒集めておいてよ。ヘマして噛まれないようにね!」
「お、おう。了解した」




