そんな事、屁とも思ってないだろうけど? (出立)
……
「良いのですか! 将軍!」
カンイチ達が立ち去った門。そこに残された武官や門衛達。
「……」
もう一人の若造騎士はアールカエフの脅しがまだ効いているらしい。へたり込んだまま微動だにしない。
「……うむ。手は出せん」
「たとえ、ハイエルフ――アールカエフ様でも! 王に、国境軍に!」
「っ!」
”びくん”と身をこわばせる若造騎士。心にも恐怖、トラウマを植え付けられたのだろう……
「それだけではない。お前たちの耳に入れておらぬ情報があってな……」
「それは! 是非ともお教えくださいませんか!」
「お前たちになら……よかろう。あの一行に”フェンリル使い”がいる」
「は? はい?」
「……フェ、フェンリル?」
「い、今、フェンリルと仰ったか? 将軍!」
「うむ。あの4頭いた狼。内一頭がフェンリルだ。おそらくな」
「普通の狼……確かに毛色の違うのも居ましたが……しかし、フェンリルが人に従う? そんなことが……」
「……」
「うむ。ありえん、と言いたいがな。どうやら事実らしい。直、王より語られると思うがな。アールカエフ様と、フェンリル……今、注目の一行だ。どの国も迎え入れたいところだろう」
「敵対国に流れたら……」
「どのみち、どうにもならん。カンイチと言ったか、彼の言う通り、これだけの醜態をさらしてはな。先ほどまで敵対していたのだぞ?」
「で、であれば……他国に流れる前に……」
「無理であろうよ。仮令、アールカエフ様は討てたとしても……フェンリルは無理であろう。王都が……いや、国が消える。それに、先ほどの魔法見たであろう? 風の精霊魔法の大家、アールカエフ様だ。対大軍戦はその真価を如何なく発揮できる舞台。まとめて切り刻まれて終いだろう。風は馬よりも早く、荒れ狂う風の壁の前には矢も届かん」
「「……」」
「敵対する前ならともかく……今となっては、触らず、極力刺激しないように送り出すのみ……。ほとぼりが冷めるまではな」
……
……
「で、カンイチぃ~~。この子の名前は決めたのかい?」
「そうさなぁ~」
馬車の後ろを歩くのは、子爵の騎馬だった、サラブレットのようなスリムな体形の鹿毛の名馬。
話は落ち着いたので、売っても良かったのだが、そのまま連れて来た。
「てか、誰が乗るんじゃ?」
「う~ん? 誰? ガハルト君とダイ君以外なら良いと思うよ?」
「俺達ドワーフは高い所は苦手だからパス!」
「そうなんか? ミスリール? で、ガハルトは……重そうじゃな」
「うん。馬が可愛そうだ!」
「……アール様」
「仕方ないなぁ。僕の乗馬にするかぁ」
「アールは寝てばかりじゃろが……乗らんじゃろうに?」
「う~~ん。流石に馬の背中じゃ寝れないかぁ……」
「……落ちるぞ」
「じゃ、カンイチが乗ればいいだろう? イザック君乗ってみる?」
「え? ええぇ! こんな立派な馬?」
「イザーク君じゃ。そうじゃなぁ……じゃ、立山……リツにしようかのぉ」
「リツ? うん。良い響きだね。リツかぁ。よろしくね!」
「これも申請が要るのかの?」
「大きな町に付いたら聞いてみよう!」
……
”かっぽかっぽかっぽ……”
”がらがらがら……”
順調に旅は続く。
「昨日この辺りまで来たんじゃったな……うん? 賊どもの屍が無い……のぉ」
「大方、獣が食ったんだろうよ?」
「なぁ、ガハルトよ。余計な魔物やら魔獣を呼ばぬか?」
「う~~ん。可能性は大いにある……が。かと言って賊の分の墓を掘るというのもなぁ。見せしめというのもあるしな。火葬という手もあるが……事が大ごとだし、どのみち穴は掘らんといかん。屑共の為にだ。面倒だ」
「そうじゃな……マジックバッグを使うのものぉ。ましてや”収納”に屍を入れるのは嫌じゃわ」
「そういうこった。好き勝手やってきた連中だ。獣らに食われ、バラバラに散らかされて。相応しい最期だろうさ」
「違いないのぉ」
「経典やらだと、そういった魂もバラバラになって神の御許に行けないとか?」
「んを? そ、そうじゃ! イザーク君! この世界の宗教ってどうなんじゃ?」
「どうと言っても? 俺、良く知らないし? 成人の儀以降、行ってないなぁ」
「ガハルトは?」
「は? 人族の宗教なんざ知らん」
「師匠、人族の宗教ってオレ達、人族以外を人に劣る者、『亜人』って言ってね、蔑んでいるんだ。だから、知ってるのイザークだけ?」
「うんむ。ワシらは大神様や精霊様を祀っておるでな」
「俺は力だな!」
と、力こぶを作る、ガハルト。
「あ、師匠、獣人さん達は大神様と自然信仰ね」
「だろうよ。ガハルトだけじゃろ。……それで、亜人か。何のことかとずっと考えていたわ……」
「まぁ、どうでもいいじゃん? 僕ら、大神様に会ってるんだし? 大神様に感謝してれば? まぁ、あの、神様、信仰心? そんな事、屁とも思ってないだろうけど?」
脳裏に浮かぶ大神様……***のことだ。
「じゃな。ま、そんな宗教なら関わる事もあるまい……」




