ふぅん。そんな顔してるんだね。(エルフと騎士)
……
「ふ~~ん。じゃ、そんな盗賊の肩を持つ役人なんか斬っちゃいなよ。そんなのに捕まったら殺されちゃうよ。あ、ああ! ぼ、僕も汚されて……ああ。カンイチぃ~~」
「そんなことはさせん!」
その様を見て、段々と表情が厳しく、顔色が悪くなる将軍
「え、エルフ……しかもハイエルフ……? アール? アールカエフ様? ……ということは……? ……。」
将軍の視線は、翡翠色の髪のエルフ。そこから馬車の屋根の上にいるフジ、犬小屋貨車、イザークのわきで伏せをし、待機しているクマたちの姿を追う……。
そして気付く。斥候からもたらされた情報。周辺国で話題となっている、そう、ハイエルフのアールカエフと、”フェンリル使い”の一行だと。
見る見る青くなる将軍閣下。
大量破壊兵器とも恐れられるハイエルフ。しかも『サヴァの守護神』と、長年軍事地図に君臨していたアールカエフ。彼女だけでも厄介なのに、このパーティには”フェンリル”がいる。この町、いや、怒り狂ったフェンリルが王都に上がれば王都は灰燼に。
「しょ、将軍?」
「ごくり……。お、お尋ねいたす。き、貴女はアールカエフ様でしょうや?」
「うん? そうだけど? 僕達、さっさと町を出たいんだけど? さっさとかかっておいでよ。時間がもったいない。あ? ちなみに、子爵だかの首、飛ばしたの僕だしぃ。魔法でチョン! ってね。とんでもない下種野郎だったよ!」
「い、いえ……どうやら、我が王国貴族に毒虫が混ざっていたようにございます。お、お手を煩わせて申し訳ありませんでした」
「うん? かかってこないのかい? 隣の若造君はやる気満々だよ?」
「将軍! エルフといえど!」
「よせ!」
”ぱきン!” ”ぱしん!”
アールカエフのいう、若造君の騎士が剣に手を掛けた瞬間、兜が後方に飛び、剣を下げていた剣帯、金具が千切れ飛ぶ。
”がしゃり”
鞘ごと剣が地面に落ちる。アールカエフの風魔法だ。
”ぴっきん!” ”ぱきーん!” ”ぴきん!”
鎧のあちこちから、何かが当たる金属音が響くする。
”ひゅん!” ”ひひゅーん!” ”ひゅー!”
風きり音もまた。
「ふぅん。そんな顔してるんだね。若造君? 僕の目を見ろ! 若造君! ほら、一歩前に出てみな。今、君の周りには、君には見えない風の刃が何十枚も舞っている。剣を拾って、僕に向かって来るといい。まずは左手を飛ばしてやろう!」
右手を騎士に向け仁王立ちのアールカエフ。その翡翠色の瞳もまた光を放つ
”ざを!” ”ずぉ!”
若造騎士の足元の地面が、風の刃でえぐられる。
「エルフを相手にするってことはこういう事だよ? 若造君? 勉強になったかね?」
アールカエフが右腕を上げる。ふわっと、上空につむじ風が抜ける。魔法を解除したようだ。鎧が発していた金属音と風きり音が消える。
一歩も動けなかった、若造騎士君、その場にへたり込む。
「お、おっかねぇ……アール様……」
と、イザークがぼそり。
「ん? アールの奴、腹が減って気が立っていたのかの……」
「カンイチさん……。違うって」
「じゃぁ、もう行って良い? 余計な魔法使ったから、ますますお腹減ったよ……。そうだ! 串焼き買ってから出て行こう! いくぞ! イザック君! フジ殿も来る?」
「は、はいぃ!」
アールカエフが駆け出し、イザークが続く。のそりとフジも後を追う。ちゃんと手綱をくわえて。出来た魔獣殿である。
「流石はアール様だ。話が早い」
腕を組み、感心顔のガハルト。
「いんや、ありゃぁ、脅し……じゃろが」
とダイインドゥが突っ込む。ダイインドゥの言う通り、ちゃぶ台返しというものだ。
「ああ。中々の迫力だったねぇ。さすが、アールカエフ殿だ!」
「あの若いの、小便漏らしてねぇか?」
と、ドワーフ一家。少女の見た目だが、ミスリールは32歳だ。彼女から見ても若造君だったのだろう。ディアンだって見た目はまだまだお嬢さんだ。長命種故の。
「では、そういう事で良いのだな? 我等は町を出る。領主云々はそちらのお国の事情」
ガハルトが改めて将軍に確認を入れる。
カンイチは一歩下がる。どうしても小僧のカンイチじゃ軽んじられてしまう。
「う、うむ……」
ここは頷くしかない、将軍閣下。
「訴状云々につきましては我らの方で取りまとめます」
と応じたのはベルナール。被害が多いのは、彼のギルドの構成員だ。ここで黙っては示しがつかない。大々的に訴えることになるだろう。
「して、ガハルト殿……この後は?」
「このまま北上し、アマナシャーゴに至る。我らはダンジョンを覗きに行く途中だ」
「じ、時間があれば……我が王に……」
「ふん。これだけ醜態晒してよぉ言えるわい」
嫌悪を隠さず言い放つカンイチ
「む!」
「あれが、うちのリーダーだ。これだけ嫌われては叶うまいよ」
「貴殿……ガハルト殿ではないのか?」
「ああ。うちのリーダーは、カンイチだ。見た目で侮られがちだがな。くくく」
「もう良かろう、ガハルト。出立の準備をせよう!」
「おう! では失礼仕る。門を開けてもらおうか!」
将軍閣下は馬車に向かう、二人の背を見送るのみ。
暫くすると、口にタレを付けたアールカエフたちがご機嫌で戻って来た。串焼きを心ゆくまで堪能してきたらしい。
「オミヤもあるよ。で、話はついたのかい?」
「うむ。このまま発つ」
「了解~~! じゃ、出発だ!」
{応!}
”がらがらがら……”
町人たちに見送られて動き出すカンイチ一行の馬車。新たな一頭の馬を加えて




