王の英断に期待だな。(商業ギルド長)
……
「うん? お前さん……知ってたな。あの子爵とグルじゃな……。ということは領主もか。! ……昨日の虜囚じゃった方々はどうしたぁ! まさか……ガハルト!」
「おう!」
目の前の文官の鳩尾を殴り、卒倒させ、昨日の門衛隊長に迫る。
慌てて抜いた剣、振られる前にその右手、拳をしたたかにトンファーで叩かれ、砕けた拳は剣の重さを支えられるでもなく、”がらん”落とす。
「聞いただろう? 昨日の方々はどうした? よもや……口封じに殺してはいまいな?」
ぎろりと睨みつける。
「ひ……。ろ、牢に……い、生きています! 生きてますから! た、助けて……助けて! す、全ては代官の指示で! 領主様の命令と!」
「……何故に、盗賊に捕まり、苦労した人々が牢に入っておるのだ? ううん? 答えろ!」
「ひぃい、だ、代官の……代官のぉ……領主様の……」
「なんじゃぁ、この町のお偉いさんは、皆、盗賊と繋がってるようじゃなぁ。で、一応、聞くが代官殿、盗賊はどうするんじゃ?」
喋れるように首の拘束を緩めてやる。
「ぶひぃ……は……はひ、はひぃ、ふぅ……と、盗賊は……縛り首じゃぁ……ふいぃ……何を当たり……! ……わ、ワシは関係ない! ワシは ”ぎぎゅ!””ごきびきん!” ……」
締め上げ伸ばした頸骨を、顎をひねり上げ一気に砕く。
「そうじゃ。死刑……じゃな。ゴミが……」
だらりと首の伸びた代官の死体を門のわきに放る。
「やった……」
「やりやがった……あいつら……」
野次馬たちから声が上がる。一部の者は気に食わない貴族、役人たちの狼狽する姿を楽しみ、多くの者は、代官を殺害したカンイチたちの身を案ずる
「カンイチ! こいつ等もぶった切るかい? 賊は斬首ってのもありだぞ? 門に晒してやるか!」
得物の身の丈ほどある大斧を構えるディアン。
「ひ、ま、持って……待ってぇ! ……命は! 命ばかりは!」
「た、助けてぇ! 助けてぇ!」
なりふり構わず悲鳴を上げる、文官たち。
先ほどの高圧的な態度も”死”の前には吹き飛んでしまったのだろう
「うん? ディアンさん、そいつ等、役人にはこの顛末を書かせよう。もう一人の……ガハルトの奴、手加減間違えたようじゃわ……」
ガハルトの拳を鳩尾に受けた文官。鼻と口からおびただしい出血、すでにこと切れているようだ。恐らくは内臓破裂。
「まったく……よかったのぉ。生き残れて……さ、ここで書いてもらおうかの」
”ずざざぁ!”
文官たちの隣に、門衛隊長がガハルトに蹴飛ばされ合流。
「お前の証言もいるな。知ってることを残らず吐け! それと残りのお前ら、門衛共! 牢に居る虜囚の方々をここに連れてこい! 行け! 逃げたら……わかるな?」
「ひ、ひぃ!」
「わ、解りました!」
……
「ちょっとよろしいか? ガハルト殿とお見受けするが」
人族の、身なりの良い50代と思しき、白髪の男性がガハルトに声をかける。
頭の先からつま先まで……じろりと目を通し、
「うん? なんだ? 貴族か?」
「ワシは、この町の『商人ギルド』の長を任されている、ベルナールと申す。この度の事について聞きたいのだが。一応は、王国男爵位も許されている」
「ふん。……俺より、カンイチ! カンイチ! アレに聞け。このチームのリーダーだ」
「うん? 何だ? ガハルト? ……そちらの方は?」
「ここの商人ギルドのマスターだそうだ。俺達に聞きたいことがあるんだと」
「ベルナールと申します。この件について少々話を」
「そこの文官殿に聞かれるがよかろう? 内情もよぅ知ってるようじゃて。ワシが提出した訴状、門衛さんの鑑定書もお持ちじゃろう?」
「おい、俺達の訴状はどうした? だせ!」
「……だ、代官様が……しょ、処分、ひぃ!」
「だそうだ。カンイチ」
「じゃ、どうにもならんの。で、実際、ここんちの領主様も一枚かんでるって事で良いの?」
「……」
「だそうじゃ。思ったよか大事じゃなぁ」
「な、何を呑気な……カンイチ殿、指名手配に……」
「構わん。とっとと隣の国に逃げるだけじゃし。追手を出すならどうぞ。皆、死んでもらうがの」
「おいおい。カンイチよ……頭に来てるのは分かるがの。落ち着け。交渉になっておらんぞ」
「うむ……」
「ワシはダイインドゥという、鍛冶屋じゃ。で、こいつが、訴状の”控え”じゃ。虜囚の方々の今後の生活の手助けをしてくれるのなら、渡すがの。役所は当てにならんで」
「うむ。誓おう! 元々が我等の仲間。生活が出来るようになるまで。心と体の傷を癒すまで」
「ええかの。カンイチ」
「任せるで。親方。でも、大丈夫か? ベルナールさんとやら。どうも領主もグルっぽいぞ?」
「勿論、検証、裏付けは要りますが……商人ギルドとして訴えれば問題ありますまい。今、ここで取りまとめて、本店から訴状を上げてもらいます。……通るかどうかは分かりませんが……」
「ま、これだけ大騒ぎになっておるんじゃ。王の英断に期待だな」
「親方、そんなに腐っておるのか?」
「う~~む。関与の仕方もわからんでなぁ。それに国境の町。辺境伯やら、侯爵やらの上位貴族が治めてるだろうからのぉ。色々あるじゃろて。ここはどうだか知らんが、大きな力を持っていれば、下手すりゃ、国が割れちまう」
「なるほどのぉ……貴族社会……か」
「そう。ダイインドゥ殿の言う通り。私の男爵の位なんか、鼻息で吹き飛ばされようなもの。ですので、”商人ギルド”として訴えるのです」
「わかった。頼む……の」




