何一つ教えてはくれんのか? (騎士との戦い)
……
今度は撹乱部隊の男性陣。
居残り組の賊を屠り、さらに奥に。
「ここに子爵様はおるかの?」
豪奢な馬車に門衛の如く控える二人の騎士に声をかける。馬車の紋章のある場所は何か貼って隠してはいるが、護衛の騎士たちはそれぞれの家の紋章が付いている鎧を着用している。
「ほぉん。あんたらも貴族かい? 貴族が賊とは世も末じゃなぁ」
「ふん、このガキが!」
一人の騎士が、腰の剣を抜きながら前に出る
「うむ! 貴様の相手は俺がしよう!」
「おいおい。ガハルト……おっと!」
”ぶぅん!”
抜き打ちで放たれたカンイチの首への斬撃
もう一人の騎士、騎士らしからぬ、不意打ちをカンイチに仕掛けて来た。ニタニタと笑いながら前に。
「随分と卑怯な騎士様じゃの。良く聞く話じゃ騎士道なんて言葉もあるが……。なるほど、賊じゃったな」
「黙れ! こぞぉう!」
「で、一つ聞きたい。本当に、貴族が盗賊なんか? 教えてくれ!」
さらに剣を振りかぶり、無防備に飛び込んでくる騎士。
相手は小柄のカンイチ、しかも手にしているものは木の棍棒(散弾銃)。こちらは、全身金属鎧。仮令、反撃を食らったところでどうとでもないと思っての行動だろう。
相手がエルフであれば魔法を警戒するだろうが。
”ぶん!”
斬りかかって来た剣を躱す。
「ふん! ちょこまかとぉ!」
”びゅん!”
「その鎧、魔道具か? 薄っすら光ってるが?」
”びゅ!”
「うるさいわ! ガキが! さっさと斬られろ!」
怒声を発しながら切りかかる騎士
「人なんぞ攫ってどうすんじゃ?」
”ぶん!”
後ろ、横に飛び躱すカンイチ
「商人だって、自分の国の民じゃろうに? あんたらも、税金で食ってるのじゃろ?」
「黙れ!」
”ぶん!”
「何一つ教えてはくれんのか?」
ため息ひとつ。
未だ、疲れ知らずで剣を振る騎士。
その動きが止まり、
「ふん! 当然だろうが! 俺たちは特別だ! 貴様ら平民は俺たちの言うことを聞いていればいいんだ! そら! 生き死にだって我らが決めてやるぞぉ! 光栄だろうが! ふん! ふん!」
”びゅ、びゅ!”
「ふ~~ん。ならワシらは?」
騎士の斬撃を躱しながら問い続けるカンイチ
「勿論、死刑だぁ! 死刑! 生意気なクソガキがぁ!」
”ぶおん!”
大振りになった騎士の切り下しをすり抜け、
「そいつは困るのぉ。ふん!」
”がいん!”
そのまま、鉄の鎧の鳩尾部に銃尻を叩き込む! 余程出来が良いのだろう。サヴァ国、国境にいた騎士の鎧と違い、大きくはへこまない。が、その衝撃は鎧を伝い、騎士の腹部にダメージを与える
「ぐぅっ! そ、そんな打撃なぞ効かんわぁ!」
「なら、これならどうじゃ」
”どっごぉおーーん!”
くるりと銃を回し、至近距離から、へこんだ胴当てに、スラッグ弾を撃ち込む。
「がっはぁ!」
そのままの姿勢で5m程後方に吹き飛ぶ。
「は、はが……ま、魔法使いか、が、ガキがぁ……クソがぁあ!」
剣を杖代わりに立ち上がる騎士。その目の光は未だ失われてはいない。
「おお! 随分と頑丈じゃな。……未だ立てるか。うん? 鎧の光が無くなったの。そいつも魔法か何かか?」
「ふ、魔法使いなら……”マジックシールド”! 我がスキルに隙などない! 今、叩き斬って 「さっさと終わらせろ。カンイチ」 ん、な?! ザクゥト!」
「おいおい」
騎士の視線の先、地に座り込む同僚の姿。
ガハルトの相手をしていたのはザクゥトという騎士だったようだ。鎧はベコンベコン。兜なぞは、元の半分くらいの容積しかない。金属製のトンファーで滅多打ちにしたのだろう。
「き、貴様らぁ!」
「まだ何一つ、答を得ておらんが?」
「そんなもの親分に聞けばよかろうよ。どれ、カンイチ。手に余るのならワシが止めを刺そうかの」
カンイチの戦いぶりを見ていたダイインドゥがバトル・ハンマを構える。
「いや、親方、ワシが……。なんか嬲るようになってしまって悪かったの。騎士殿」
「な何を? が、ガキがぁ! 生意気な! 俺に勝てると思ってかぁ!」
魔法を放たれる前にと突っ込んできた騎士。カンイチもまた踏み込む! 予想外の動き、驚いた騎士は横に、カンイチの胴を狙い剣を振る。が、カンイチの、そのしぐさはフェイク。動きを止め、タイミングをずらす。
剣を躱し、肉薄。騎士もさるもの、カンイチの顔に左ひじを落とす。カンイチはそのまま左側を通過し、左膝裏に蹴りを叩き込み、騎士の体勢を崩す。がくりと、前方に流れた騎士の後頭部に銃尻を思い切り叩き込む。そのまま土に這いつくばる騎士。
”どごぉおーーおん”
その後頭部に一発。大きくひしゃげる兜。物がよく貫通こそしなかったが、そのまま広がる血。
「鎧の相手……魔法……なかなかに骨が折れるの」
「は? 何を言ってんだ? 鎧? カンイチよ。鶴嘴使えばよかろう? お前さんは」
「うんむ。あのヨロイオオナマズも一発と聞いたぞい?」
「鶴嘴? ……いいのじゃろか?」
「良いだろ? 別に。何使おうが。結果は一緒だろうに。大穴開けられるんだ」
「うむ」
「……なんか嫌じゃな。……その言い方……」
「ま、それは良かろう。では、親分の顔を拝みに行こうぞ!」
「ああ、親方の言う通りだな。それで、お宝、全部頂いて仕舞だ!」
「じゃのぉ」
……
騎士を排除したカンイチ達。アールカエフたち、女性陣と合流すべく探索を開始
残党の確認を兼ねて手前のテントから覗いていく。中には、
”ぐぉ~~ぐぉ~~ぐ!”
”どん!”
大いびきをかいてる賊の頭部に容赦なくバトル・ハンマの鉄塊を落とすダイインドゥ
叩かれた賊の頭部はスイカのように潰れ、体はびくんと跳ね上がり、そのまま動かなくなる。永遠の眠りへと
「すまんのぉ。ふむ。このテントはこいつだけのようじゃわい」
ハンマをブンと振り、血を振り落とす
「親方……何もハンマーで叩かなくとも……」
「うんむ……ワシが刺すで……」
賊であった残骸を見て、流石のガハルトも不憫に思ったのだろ。
「そうかの。じゃ、頼むわい」
「おう……」
次々と順番にテントを覗いていき、眠ってる賊を仕留めていく。留守番組か夜番か知らぬが10人余りの賊が屍に変った。
……
「お! カンイチ! 無事で何より! 皆も怪我無いかい?」
豪奢な馬車の前に敷物を敷きお茶をしているアールカエフたちと合流
「何やっとるんじゃ……。まぁ、アールこそ無事で何よりじゃが。で、その……何だ……女性の捕虜は?」
「うん。居るねぇ。手間だけど一回、引き返さないと……かもねぇ」
「そうか……」
苦々しげな表情のカンイチ。その心情を思ってアールカエフが明るく声をかける。
「ま、そんなもんだって。カンイチ君。じゃ、お貴族様の顔、観に行こう! きっかり、落とし前を付けてもらおう!」
「そうじゃな」
”ぎいぃぃ”
豪奢な馬車の中はもぬけの空……
しかも、この馬車は”寝室専用”と言わんばかりに、寝具で埋め尽くされていた。妙な臭いの香がたかれ男女の如何わしい匂いと混ざり……
「くっさ! こりゃぁ臭いね。しかも、誰もいないし? どこ行った? 子爵様は? 逃げられた? ちゃんと見張っていたのに?」
ベッドの下を覗き込むアールカエフ
「うん? あ! アール殿がやったの……あれじゃない? ひょっとして!」
と、ミスリールが声を上げる
「ああ……たしかにな。可能性があるな。でっぷりしたオヤジだったし。ここに一番ふさわしくない奴だったわな」
とディアン
「アール? やった?」
少々困惑のカンイチ。
「おう! 隣の馬車で真昼間から女に乗っかって腰振ってたおっさんがいてさ。魔法で首飛ばしてやったさ! 聞いてよ! カンイチ! それでも動いてたんだよ? 人族の性欲ってすごいよねぇ。僕、ドン引きだよ!」
「おうぅ……」
「最中にか? 不憫というか……」
「……ま、ええじゃろ。まだおるやもしれんし。探そうか。カンイチ、お宝も探さねばなるまいよ」
「了解じゃ……」
複雑な表情の男性陣。再び、残党とお宝を求めて探索開始!




