フジよ。楽しいか? (沼のほとりで)
……
ギルドで集めた情報にあった【苔沼】。沼と言っても奇麗な清水を湛え、数多くの花が咲き乱れる。睡蓮の仲間か、水面にも彩を添える。沼の畔には例の【水護亀】もいる。のんびりと草を食む。
蛍のような虫も飛び交い幻想的な雰囲気に。
「おおお! 素晴らしい風景じゃ! アールにも見せたいのぉ!」
「奇麗ですねぇ。てか、またアール様ですぅ。カンイチさん?」
「文句あるかのぉ、イザーク君!」
「お~~い! あんまり沼に近寄るなよぉ~~何が起こるかわからんぞ!」
と、ガハルトの注意が飛ぶ
「お、おう!」
「ひ!」
「でも、きれいな景色だなぁ。ねぇ、師匠」
「そうじゃの」
採取はガハルト達に任せて、カンイチは異世界の絶景を楽しむ。敷き物を敷いて腰掛けて。
『うん? お爺は働かんのか?』
「ああ……少々この景色を楽しませてもらおうと思ってのぉ」
幻想的な風景にうっとり。
『ふぅ~ん。手は空いてるな。モフれ』
「うむ。こっちさ、来い。……フジよ。楽しいか?」
ぐぃと、フジの首を抱え、膝の上に”収納”からフジのブラシを出し、毛をすいてやる。
『うむ? 楽しんでるぞ我は。飯も今の生活もな。しかも、これから行くダンジョンとやらも楽しみだし、その後、どこぞに落ち着くのであろう? そうすればバンバン仔も残さぬとな! まだまだ楽しみだ!』
「それならええがのぉ」
『お爺のおかげか、大神様の御力でハナもクマも力を持ち、長く生きよう? ハナは我にふさわしい番だ! 礼を言いたいほどに。ついでだ、お爺にも気を止めよう』
「ありがとうの」
……
各々採取を終えカンイチの下に集まる。そして、休憩と犬達のブラッシングタイムだ。
「どうじゃった?」
「ええ。結構採れましたよ! 高価な香草も! 大蛇やらランド・トゥローやらが徘徊してるからでしょうね。この辺りは人もあまり入っていないようですね」
ブラッシングしてくれと、身を寄せて来たシロを丁寧に濡れたタオルで拭くイザーク。もう慣れたもの。
「うむ。流石”採集専門”だっただけある。良く知ってるわ」
「……褒めてます? ガハルトさん?」
「ああ! 勿論だ」
顔の表情が弛むイザーク。ガハルトに褒められて。裏表のないガハルトの言葉、染み入るのだろう。
己の得物のアーバレストの調整を始めたミスリールも満足げに
「オレもいろいろ試せたしな。水鳥も仕留めたし。クマ達が欲しがったから食わせたけど。ほんと、良く食うなぁ、クマ達は」
以前フジが言っていた、”この世界のもの”を喰らい力を蓄えると。シロも己の格を上げるために頑張っているようだ。クマの仔を生むために。
「そりゃ、すまんかったの。おい、クマ! 幸せじゃな!」
クマにブラッシングしながら声をかける。また一回り大きくなったか。
”ぅおん”
「ううん? 首輪も余裕がなくなって来たな……ますます狼じゃな、クマよ。ミスリールよ。クマらの首輪頼めるかの?」
「あいよぉ~~。任せて」
……
この日の採取はこれにて終了。食人鬼の魔物のランド・トゥローに会敵することなく、町に無事帰還。
「お? 親方、今日は飲み会は無しか?」
「流石に毎日はの。で、そっちはどうじゃった?」
「ま、いつも通りかの? 特に何も」
「師匠! 大蛇! 大蛇! 親父ぃ! オレが仕留めたんだよ! 新型ので!」
「ほうほう。そりゃぁ、良かったの」
「例の”潟スキーの試運転も上々でね! オレらでも沈まないんだよ!」
「ほう。ならば、ワシらの分もこさえようかの」
……。
残りの数日。大まかには午前中は鍛練と出立の準備。午後は犬の散歩。
ガハルト、イザーク、アールカエフは情報収集に。
ダイの親方一家は、馬車や、武具類の開発、改良に慌ただしく準備が進む。
カンイチは一般常識、絵本や、書物を読みこんでいる。この世界の知識の補填の為だ。以前購入した魔物図鑑も改めて読み進める。
滞在中は貴族等の接触もなく、余計なことに煩わされることもなく平和に過ごす。
そして、出立の前夜。
連日でドワーフ連中からお誘いがあったが、流石に出立前夜は……と断りを入れて、チームで、食事とした。
「ふぅ……。居心地よくて旅を忘れそうじゃったわい。尻に根が張りそうじゃわ」
「おいおい。これからが本番だぞ。カンイチ」
「わかっておるわ。何から何まで世話になって……ここの鍛冶師組合に何すりゃいいんじゃ? わしらは?」
「はっはっは。大丈夫じゃ。大丈夫じゃ。儲かってるじゃろし。皆も飲む理由が欲しいんじゃよ」
「そうは言っても……のぉ」
「じゃ、ダンジョンで出た金属やらを……は、……ワシが貰うがの!」
「ダメじゃん……親父。ま、ホントに気にしないでよ。師匠。少額でも一応は払ったし?」
「本当に、一応じゃがな」
「まぁ、俺達からもちゃんと礼言ってるから気にすんな! カンイチ」
宿に泊まるより、はるかに安い金額。歓迎の連日の酒代は入っていない。それに今のカンイチは、中身は別として”若造”だ。こういった正式の礼は、ダイインドゥや。ガハルトの仕事になる。
「おう……すまんな。で、皆の衆、出発の準備は?」
「抜かりなしじゃ!」
「盗賊の目撃例がありますね。警戒しながら行きましょう」
と、ギルドや役所の情報収集役のイザーク。ガハルとは魔物専門だ
「おう! 是非とも会敵したいな! トンファーの威力が試せるわ!」
「おいおい……災難じゃな。盗賊連中も。ガハルト殿もほどほどにのぉ」
「ああ! 任せろ! 親方! なぁ! カンイチよ!」
「変な称号生やすでないぞ……。じゃ、このまま、北進でええか?」
「おう! 目指すはアマナシャーゴ国だ!」
「じゃ、予定通り、朝一で出立じゃ!」
{おう!}
「えぇ~~」
「……アール! ちゃんと起きろよ!」
「……お、おうよ!」




