おお! カッコいいのぉ! (蛇狩り)
……
「こ、これが……水蛇? ……で、でかぁ!」
「ニシキヘビ……いや、アナコンダってやつかのぉ」
「うん? ニシキヘビ? 師匠、知ってるのか? でも、十分化物だな。人も飲めそうだ」
湿原を奥に進み、クマたちが反応した場所。その目の前、コケやらがぽっかりと空いた水中からこちらを窺う大蛇。長さ14、5mは優にあるだろうか、全貌は見えなくとも、巨大な頭……そして連なる極太のボディ。湿地なのだが、所々、こういった、穴の開いたような深場が散見される。どのようにできたのかは不明だ。
カンイチの言う通りアナコンダによく似た個体だ。この穴を巣穴にしているのか。
「いや、こいつは、大丸太蛇だな。毒は無いが、締め付ける力がすごい。巻きつかれたらあの世行だ。情報じゃもっと奥にいるのだがな」
「これが丸太蛇かぁ。美味しいって言いますけど……。なんか、ふやけて不味そう。どうします?」
と、イザーク
「ふむ。水の中か……分が悪いな。手の出しようがない」
『ふむ? 美味いのなら我がいこうか?』
少し離れたところからついてきていたフジ。
「……紫電使うでないぞ。フジよ。わし等も丸焼きじゃ」
『ふむ』
「はい! はい! オレが行く! 師匠!」
「うん? ミスリール? 大丈夫か?」
「まかせてよ! 日頃の改良の成果が試せるぅ!」
そういうと再び”潟スキー”を出し、ソリの上の箱を前に倒すように開ける。
すると何やら、ネジや、金具で構成された固定具が姿を現す。
続いて愛用のアーヴァレストの一回り大きいものを出し、そのマウントに”かちり”とセット。
他にも、照準器やら、マガジンのような矢置き場やら用途不明の装置が取り付けられる。開けた箱自体も矢除けの防楯のようで、ちょっとした戦車のようだ。
「お? おお! カッコいいのぉ!」
「……なんかすごいな。なんでだろう? いいなぁと思わせる? 心躍る?」
それが男の子、浪漫というものだ。イザークよ。
「へへへ。いいでしょ!」
そういいながら、用途不明の装置――梃子の原理を利用した装填器を引き、一気に弦を引く。
”ぎぎゅん!” ”かちり!”
そこにロープが結んである長さ50cmはあろう矢、矢というより、返しのついた銛と言っても良い代物が、セットされる。
「はい。ガハルトさん」
「うんむ?」
矢に結ばれたロープの末端をガハルトに渡せば準備完了だ。
「いっくよぉ~」
”かち!”
”どぅぉおん!”
おおよそ、アーヴァレストが発する音とは思えない発射音と共に、極太の銛が放たれる!
大蛇も慌てて潜水するも時すでに遅し。大きな水しぶきを上げ矢が、大蛇の後を追う!
水の抵抗も何のその! 大蛇の頭部を抜け、胴に深々と刺さる銛。
”がきん!”
再び装填器が引かれ、流れるように次弾装填!
「うん? 良さそうだな。どう? ガハルトさん?」
ピンと張られるロープ。ぐるぐると見えない獲物の動きに合わせて円を描く
そのロープをグイと引くガハルト。
だんだんと、その円も小さくなり、抵抗も止む
「うむ。……抵抗はほぼ無いな。引き上げられそうだ。ちと重い……な。手伝え!」
{おう!!}
「うん? ”収納”できるか試してみるか……”収納!”」
水中の大蛇が消える。
「すげぇ……」
「おお! 便利だな! カンイチ! さすが、天の恵み!」
「相変わらずすげぇな! 師匠は!」
「成功のようじゃな。あれ? 銛はどうしたんじゃ?」
「ロープとも無事みたい。水の中だね。面白いね。どうなってんだ?」
ミスリールの言う通り、ガハルトがロープを手繰ると、凶悪な矢もそこにあった。
「さてなぁ? まぁ、死んだもの限定じゃがな。生物は入らんのじゃ。それにしても……凄い、弓じゃな」
「本当だ。カンイチさんの”収納”で驚いて忘れたけどぉ……」
「ひどいな! 今研究中の改良型の大弓だよ。ちょっと大げさだったね。オレの普段使いの奴でも事足りたと思うよ」
「ダイの親方といい……一体、お主らは何処と戦争したいんじゃ?」
大鑑巨砲主義もほどほどにとおもうカンイチだった。
……
「これが水蛇でしょうか?」
「うん? 蛇かこれ? ミミズみたいじゃな……」
湿地と未知の境、うねうねとピンク色の物体を発見。
鱗はあるのだろう。が、滑らかで薄ピンク色の体色。鉛筆のように細く、長さは30cm程度。口と思われる穴からチロチロと舌が出る。目は見当たらない。退化しているのだろうか。大人しそうな蛇だ
「で、これ、どうするんだ? イザーク?」
「ギルドで聞いたら、茹でてスープの具になるそうですよ? ……一回分獲って行きましょうか。折角ですし?」
「うむ……。クマたちも食うとるし。……美味いのか?」
”ぅおふ!”
「……だそうじゃ」
「じゃ、捕まえますね……」
「端っこのエリアだけあって、魔物はいないな」
「さっき、いたじゃろが……。でかい蛇が」
もう忘れたのかこの脳筋は! そんな表情のカンイチ。が、ガハルトにも言い分が、
「ありゃ、ミスリールが狩ってしまっただろが!」
――仕方ないのぉ
「じゃ、あのでっかい亀は?」
カンイチの指さす方、大きな大きな亀が。甲羅の大きさが直径5m高さ3m。コケやら、草が生えており、小山のように。時折、おっとりした頭を持ち上げる。今見る範囲だけでも10体の巨亀が確認できる。
「ありゃ、ダメだ。カンイチ。確か、【水護亀】様って言ってなぁ。水の神様のお使いって言われてんだ」
「ええ。水源の主とも言われていますね。傷つけちゃいけないことになっていますよ」
「ほぅ。そういった常識もわしに教えてくれ」
『うん? あの亀はあまり美味くないぞ。イザークよ。泥臭い』
「……フジ様ぁ」
「……まぁ、フジには人の世の事は関係ないでな」
敷き物を敷いてまったり。屋台飯をつまむ。
「どうする? 奥にあるという、【苔沼】、覗いていくか?」
「またぞろ、カエルやら大鯰か?」
「カエルはいるようだぞ。後、水オオトカゲ、それと、ランド・トゥローの目撃例もある」
「らんどとぅろー? なんじゃそれは?」
「大きな人食い鬼ですよ。カンイチさん。俺は見たことないけど。なんでも、人の腸が好物だって……うぇ」
自分の腹を押さえて補足するイザーク
「ああ。身長3mくらいか? 人型の魔物だ。頭……というより口がとにかくでかくてな。手も長い」
「人型? ゴブリンみたいなもんかの? 話、通じるのかの?」
「ゴブリンなんぞと一緒にするな。危険度は段違いだぞ。恐らく仲間内には何らかの言葉はあるだろうさ。俺達には通じねぇけどな。見つかったらすぐに棍棒振り回して襲って来るぞ。で、捕まったら腸引きずり出されて喰われちまう。交渉なんか無理だ。諦めろ」
「ふぅむ。色んなのがいるのぉ」
『話は終わったか? 帰るのなら、お爺。ブラッシングだ』
「うん? 沼、ちょこっと見て行こうと思うが、ええか?」
『うむ。なんか美味いものがあると良いな』
「そうじゃなぁ」
……




