そして新たな出会いだってな! (湿原へ!)
……
クマたちを連れて早速、西門に。
今回のミッション、参加者は、カンイチ、ガハルト、イザーク、ミスリールの4名だ。ハナが行くところ、フジも参加。
彼等は特に依頼を受けるというわけではないので、ギルドには寄らず直接門に。
門にはまだ多くの冒険者たちが屯っており、フリーの者が傭兵のように一日幾らと書いた板を持っていたり、その場で人員の募集をしてるチームもある。
「ようよう! そこのお兄ちゃん! 一日どうだ?」
「おい! 横入りすんな! 今交渉中だ!」
「採取品は20%でどうよ?」
などなど。あちらこちらで交渉も行われている。が、カンイチのチームに声を掛けるものはいない。カンイチの雰囲気がそうさせるのか。いや、ガハルトの強面だろう。
「日雇いの冒険者か……怖くて背なんぞ預けられんじゃろうに」
「まぁな。盗賊紛いの者もいる。注意が必要だな。特に、門の外にいる連中はな」
確かに、門から離れたところの街道上にも居る。利便性か? それとも脛に傷ある身の上なのか。
「大体、幼馴染や、研修の時に一緒だったのと組むんですが……。俺が言うのも何ですけど、解散とかもあるし……」
「そりゃ、しょうがなかろう? イザーク。俺らは人だ。考え方の違いもある。出会いがあれば別れもな、そして新たな出会いだってな!」
「ガハルトの言う通りじゃ。さて湿地か、何が採れるかのぉ。セリが生えとるとええのぉ。お浸しはアールも好きだで」
「くくく。お惚気ですかぁ。カンイチさん?」
「わるいかのぉ。ガハルトさん?」
「そ、そうですね! そして今がある!」
「ぅん? ま、その意気じゃで。イザーク君」
……
門を抜け、街道から外れれば、踝くらいの草が繁茂する草原に。この辺りは放牧地にもなってるようで、武装した連中が、馬や、牛を追う。一応だが木の柵もあるようだ。
「ほう。牧場か?」
「ああ。馬車の貸し出しも行ってるようだな」
「湿地じゃ使えんじゃろ? 馬車なんぞ。嵌ったらどうすんのじゃ?」
「さてな。ちゃんとしたルートもあるのかもしれん。ま、近場での猪狩りでもあった方がいいぞ。”収納”なんてスキル持ちはそうそういない。マジックバッグも高価だからな」
「そうか……重いものな。あ……そうじゃ。マジックバッグ、分けないとダメだな。金も……」
盗賊の鹵獲品のマジックバッグ、未だに”収納”に死蔵したままだったことを思い出す。カンイチには必要ないからすっかり失念していたようだ。
「金……かぁ。額がでかすぎて、逆に皆、無頓着になってるわなぁ。使える時、使えるし……。それに、カンイチの”収納”の中だしな? 安全だ」
金についても、皆、最小限のものは持っているし、必要な物は直ぐに買う。そもそもが、このチーム。イザーク以外は小金持ちだった。そのイザーク君も今や、蛇や香草でそこそこ稼いでいる。
女性が三人いるが、うち二人はドワーフ。売る側だ。アールカエフ? 花より団子だ。
「……カンイチ財布? ぷくす」
「おいおい、イザーク坊ちゃん……。師匠に悪いだろ……ぷぷぷ」
「……全部持って夜逃げしちゃる!」
”ははははは”
多くの冒険者たちが毎日、毎日歩き、踏み固めただろう、道を西に向かって進む。もちろん、クマたちの手綱は外してある。危険を感じないのだろう、カンイチ達の周りでじゃれて遊んでいる。
「しかし、広いですねぇ~~。あ! あれが、昔の外壁でしょうか?」
「かもしれんの」
なにも遮蔽物の無い草原。そこに、2mくらいの緑の壁が。城壁も朽ち、崩れ、その身を自然に任せている
「こう見るとかなりの面積、喰われたようだな」
と、周りを見渡してのガハルト。
カンイチもこの壁が生きていたらばと思いを馳せる
「人も見えますね。結構いるなぁ。採取ポイントかもしれませんね。ガハルトさん」
イザークの言う通り、緑の壁と化した古代の城壁に動くものが。魔物ではなく冒険者のように見える。
「行こうか! あの先が湿地だろ? 採取にしたってそこからが本番だ! 行くぞ! クマ!」
駆けだすガハルトと犬達。
「……狩りもじゃろが。……注意せぃよ」
”ぶっぴ……ぶぴぴぃ……”
「うげぇ! 気色悪いぃ……足がぁ……」
脛の中ほどまで泥に沈む
木の棒を杖代わりに奮闘するイザーク
「おぅ……もっとミズゴケとかが繁茂してるかと思ったが……」
カンイチは、ミズゴケや水草のある場所を選んで踏み込んだが結果は同じ。
”ぶぷぷ……ぶっぴ”
「……湿地はダメだな。道を征こう。こう足を取られてはな……」
ガハルトはすぐに固い道に上がる。そもそも、ガハルトが泥に嵌ったら大変だ。
「それに臭い……ですねぇ。あれ、クマたちは? ……軽いから?」
4つ足というのもあるのだろう。泥の上を沈まずに器用に歩いている。だが、クマたちも不快感を感じているのだろう。必要以上にカンイチ達を追わない。普段であれば前を行くのだが……
フジは、はるか後方。湿地には近寄らない。カンイチ達の様子を窺う。汚れたくはないのだろう。
「ま、どのみち、湿地はダメじゃ、道に戻ろう。ガハルトがはまったら引っ張り出せんぞ」
「はまらんわ! ”ぶっぴぴぴ……” お? おお! や、ヤバイ!」
慌てて駆けあがるガハルト。
「それにしても……正解でしたね、ミスリールさん」
そんな彼らを横目に、水草と泥の上を、すいすい……というよりも、ずるりずるりと移動するミスリール。その足元には、例の”潟スキー”。
そう、有明海の干潟で使われている、長さ、約2m、幅30cmの泥ソリだ。御丁寧に道具入れの箱も載っている。カンイチが重いドワーフ族もこれならばと提案したものだ。
「うんうん。これなら沈まないで移動できるね。泥を蹴るのも楽だし。こういった場での採取にも向いてるんじゃない? 後は体力次第?」
小さい身体でも、太い筋繊維と頑強な体を持つドワーフならではと言ったところか。一向に疲れを見せない。
「まずまずの成果じゃな」
「うん。親父と母ちゃんの分も作るか。ガハルトさんも要るか?」
「う~ん。そうだなぁ」
「あ、ミスリールさん、オレ、欲しいかも? 採取用に」
「まいどぉ~~!」
湿地から上がり、人の作った道を伝い奥に向かう。
最初はあちこちに走っていた道もだんだん少なく、細くなっていく。
「ふぅむ。ここらは入口と違って、湿地も幾分綺麗か? ミズゴケが結構生えておるの」
そういいながら、ミズゴケをバンバン収穫していくカンイチ。落ち着いてから楽しむ”園芸”のためだ。
「カンイチさん? そんなのどうするの?」
不思議そうに尋ねるイザーク。もちろん食えぬし、依頼にも出ない植物だから。
「うん? ちょっとの……ランやら面白いのがあれば栽培しようとおもっての。趣味じゃ、趣味」
「ふぅ~~ん」
「おい、気を付けろよ。比較的安全と言ってもな」
”ぅおん!” ”ぅわん!” ”ぅをん!”
「うん? 何かいるのか? 行ってみよう!」
クマ達がいる方に駆けていくガハルト。湿地も意に介さずに。
「……嬉しそうじゃな。……まったく。行くぞ。イザーク君」
「はい。”ぶっちゅ!” ぅげ、はまった……でも、このジカタビ、いいですね」
「うんむ。ユーノさんと、カエル殿のおかげじゃて。今も繁盛してるじゃろか……」
ふと、極上のハグを懐かしむカンイチであった




