ありがたや。ありがたや
……
更に歩き、畑と草原の境界に到着。
「ふぅ……。結構歩きましたね。カンイチさん」
「うむ。この辺りはあえて作物を作らず、緩衝地帯にしているのだろうか? それとも皆。食われたか?」
作物が植わっている畑、そこにネットが設置されており、その先は20mくらいか、作物が植えられていないむき出しの土。そして木の柵があり、自然のままの草原が広がる。
「あ! ここも結構、兎いますね!」
イザークの指さす方。ここも良く肥えた兎が。巣穴も多く散見できる。木の根元など穴だらけだ
「もう少し先に行こう。柵の外なら文句もあるまい?」
「カンイチ~~その前に休憩しよぉ~~」
「おう! もうちょいじゃ!」
……
「さて。大分冷えて来たのぉ。戻ろうか」
狩りも終え、敷き物にクマたちとごろ寝していたカンイチが立ち上がる。
「そうだね! お腹も減ったし! 今日は何処のお店に行く?」
「そうさなぁ。屋台街でも良いぞ。ここの町は盛りが少ないから色々食えて楽しいじゃろ?」
「そだね~~。イザック君 「イザーク君じゃ」 ……は、また親方たちと飲みに行くのかい?」
「そうですね、できれば、今日は遠慮したいですねぇ。こう、毎日大量の酒を飲むと……酒、抜きたい気分です。贅沢しすぎですし。【アカリノ】に居る時なんか……猪仕留めたときくらいでしたよ? 酒……」
「不憫じゃの……」
「普通、そうですって! カンイチさんが規格外なんですよ! まったく!」
「うんうん。自覚した方がいいよ? カンイチ君! ”収納”持ってて、専用のアーティファクト持ってる人なんかいないぞ? ま、”魔改造”? とやらは僕もされたから、アレだけど?」
「そうです!」
「むぅ。……そうじゃな。ありがたや。ありがたや」
「本当に思っています? もぅ。神様に取り上げられちゃいますよ!」
「感謝してるで。第二の人生くれたんじゃ」
「それに僕みたいな可愛いお嫁さんも! だろう! カンイチ君!」
「「……」」
「……こほん。沈黙はいやだなぁ。特にカンイチ! なんか言えぇえ!」
「お? おお! そうじゃな! ありがたや。ありがたや」
「本当に思っていますぅ? カンイチさん?」
必死に笑いをこらえているイザーク
「ほんとに思ってる! カンイチ!」
こっちは真面目に問い詰めるアールカエフ
「お? おお。勿論じゃとも! うんうん」
……
「ただいま、戻った」
「おお! カンイチ! 丁度いい!」
待ってましたと言わんばかりのガハルト、その巨体がカンイチに迫る!
「何事じゃ! うん? 獲物が決まったのか……の?」
ガハルトの事だ。一日かけて湿地の狩りの獲物をうんうん考えていたに違いない。
「いや、狩りはやめた!」
と、きっぱり宣言
「ほぅ? その割には元気じゃな」
――戦闘狂のガハルトの事だ。狩りをやめる決断はさぞや大きなモノだろう。それが、満面の笑みとは……の。何かあったに違いない。……転んで頭でも打ったか?
などと、失礼なことを考えているカンイチ。
「うん? 別に転んで頭を打ったわけじゃないぞ? カンイチよ」
「……なんでわかったのじゃ?」
笑いを堪えるイザーク君。
「そんなことだろうと思ったわ! ま、良いだろう。狩りは親方連中が乗り気でないってのもあるが……。これだ!」
”じゃぁーーーーん!”と効果音が聞こえてくるような勢いで布をどけるガハルト。
そこには、昨日、カンイチが描いた地球の武具類が。変則なT字を模した、トンファー。そして、金属性の棍を鎖で繋いだヌンチャクの姿が。ダイインドゥの手の物だろう
「どうだ! カンイチ! まだまだ新しい物が作られてるぞ!」
「お? もう出来たのか。で?」
「で? ではなかろう? 何を言ってるのだ? 扱いはカンイチ、お前しか知らんのだぞ?」
「……で?」
返答は分かっている……面倒だが再び聞いてみる。案の定、
「今日はもう暗い。明日から鍛錬だ! なぁ! カンイチ!」
「……了解じゃ。……うん? 親方は? 姿が見えんの」
「ああ、もう出かけたぞ? 一家で酒飲みに。今日はお迎え。早かったな」
とっくに迎えが来たようだ。
「本当かよ……ガハルト行きそびれたな」
「まぁ、良かろう。毎日飲み過ぎだ。今日は酒は要らんな」
と、ゲッソリな表情を見せるガハルト
「お! 流石のガハルトさんも白旗か?」
「カンイチ、お前さんは参加してないからそんなことが言えるんだ。であれば、明日、参加するといい。実態もわかろうさ」
「……遠慮しておく。夕飯に行こうかの」
……
フジを連れ、アールカエフ、ガハルト、イザークと共に夜の屋台通りに繰り出す。大抵、大きな町であれば、メイン通りに並行してこのような屋台通りは存在する。庶民の憩いの場だ。
テーブルの一つを占領し、各自、好きなものを買い求める。テーブルの上には、色とりどりな料理が並ぶ。若干茶色系……肉が多めだが。
「まったく……野菜食えよ! ガハルト! アール!」
「僕は、肉食エルフだゾ? カンイチ!」
「そんな種族はおらん。キノコ持ってきたぞ」
「了解~~フジ殿もキノコ食べる?」
『うむ! いただこう!』
狼、然とした姿で野菜を好んで食べるフジ。野菜嫌いのガハルトは極力フジの視線に入らないように身を細める。
食事も一通り腹に納め、団欒。
「でも、一回は行きたいですね。湿地」
「おぅ? どうしたイザーク君?」
「だって、折角ですし。狩りじゃなく、端っこの辺り。採取に行きません? 手前の湿地でしたら、魔物も居ないそうですし。水蛇という変わった蛇も獲れるそうですよ」
「そうさなぁ。蛇か……その辺りはどうじゃ? ガハルト」
「うん? ああ、大きな沼があってな。その手前までならそんなに危険な魔物はいないというぞ。行ってみるか?」
「俺も、もう少し情報集めてみますね」
「了解じゃ。アールも行くかの?」
「……う~ん。湿地だろ? ……虫やらヒルやらわんさか居そうだね! よし! 僕はディアン君とミスリール君と町で買い物していよう!」
「……そうかの」
「ドワーフ連中は恐らく行かないぞ? カンイチ。重いからなぁ。沼に嵌ったら大変だ」
「ガハルトさん……ディアンさんやミスリールさんに言っちゃだめだよ? 女性に」
「お、おう。そうだな……イザーク。胆に銘じよう」
「ほぅ。親方なら解るが……それこそ種族特性という奴かの」
「そうそう。僕たちエルフは羽のように軽いんだぞ! カンイチ君!」
「……そうかのぉ?」
どの辺が? と首を傾げるカンイチ。肉食エルフは範疇の外かと
「文句あるのかい!」




