楽しみだな、お爺、エルフ殿
……
カンイチがフジの、アールカエフがハナの手綱を引きコズクラの町に繰り出す。
所謂、Wデート。フジの願いである。偶には良かろうとカンイチも同意。
よい陽気の中、近くの屋台で飲み物を買い、広場のベンチに腰掛けて一休み。フジ、ハナにも水を出す。
「ふぅ。良い天気じゃなぁ」
「だね! いいもんだね! こういうのも! 『デートぉ? 人族が何やってんだか』……と、思ってたけど。うんうん。いいもんだ!」
「じゃなぁ」
大正生まれのカンイチにしたって”イチャイチャデート”は初めてだ。帝国男子にあるまじき行為だ。カンイチもよくTVに映るカップルを見て、軟派者め! と、罵ったものだ。
多少は羨ましがりながらも。
今の姿を鑑みるに、違う世界だし? ピチピチの15歳だし? ま、ええじゃろ。ってなものだ。
隣に座るアールカエフに視線を向ける
「うん? ところで、カンイチは子供、何人欲しい?」
「ぶっふあぁ!……と、突然何ごとじゃ?」
再びの茶吹き。
「大事なことだし? 僕は沢山欲しいな! 村が出来るくらい?」
「……おぅ……。ま、落ち着いたら……の」
『我もバンバン作るぞ! 群れが出来るくらいにな!』
「……おぅ……。頑張ってくれ……」
「じゃ! フジ殿! 競争だ!」
「おいおい……一回当たりの出産数からして違うぞ……アールよ……勝負にならんわ」
「頑張る!」
『楽しみだな、お爺、エルフ殿』
「……そうじゃな」
……
「カンイチ! 今度はここに入ろう!」
大広場に直結する屋台街に来て既に4軒目。この町の屋台街は【フィヤマ】や【アカリノ】と違って好きな料理を持ち寄って食べる方式の為か、量は少なめで種類が多い。が、4軒ともなれば結構な量だ。
「うむ……しかし良く食うの……アールよ」
『うん? お爺? まだまだぞ? エルフ殿は。まだ膨れてはおるまいよ』
「む!」
――そ、そうじゃ! ……そんなこともあったの
食い過ぎで妊婦のように腹の膨らんだアールカエフの姿を思い出す。確かラインの奢りの時。フジが呆れるくらい食っていたあの日
「どうしたんだい? 変な顔して?」
「いや……何でもない。ところでアールは装飾品には興味ないのか?」
チラと、宝飾店が目に入る。
「指輪とか? 食べられないじゃん?」
「……そか。なら、ええがの」
結婚指輪でもと思ったカンイチ。
もっともこの世界、婚約指輪やら、結婚指輪という風習は無い。市井の間では身から離さない財産として存在している。デザインも地金を曲げたようなシンプルなものが多い。
お貴族様は別。煌びやかに飾り、富を示すために使われる。力、権力の象徴として。
「うん? どうしたのさ。エルフ族はあまりそういうのは好まないんだよ? 自然信仰? あ! でも、魔法を増幅する物とか、魔法が封じられているものとか? そういう実用性があるものは良いね!」
「ふむ……なるほどのぉ」
「なんだい? 僕にくれるのかい? でも、そういうのはとっても珍しいんだよ?」
「よし! ダンジョンの景品に期待じゃな!」
「ふふふ。別に貢いでくれなくともずっと一緒にいるし」
「アール……」
『お爺、買わないのか? なら、次の屋台に行くぞ』
「お、おう」
……
『うん? 近くにガハルトがいるな。イザークも』
鼻を上に向けヒクつかせるフジ。
「流石の魔獣殿の鼻じゃな。ま、デート中じゃし? 放置でよかろう?」
「そうそう! 折角の二人きりだし?」
『ふむ。それもそうだな。なら、こっちだ』
「……何も避けなくとも……ま、ええがの」
路地に入り、狭い道を往く。狭いと言っても、馬車がギリギリ通れる広さ。もちろん露店等が多く出ているので、馬車の通行は禁止されている。入口にも頑丈な車止めがあり、規制されている。
面白いことにこれくらいの道の方が奇麗だ。馬の落とし物(大通りでも直ぐに回収はされるが、小便は垂れ流し)もないし、道が狭いから立小便する輩や、路上で寝ている輩もいない。
「こんなところにも露店はあるんじゃな。屋台も。どれ、覗いていくかの」
「こういうところの方がお安いよ! 多分?」
『面白そうだな。どれ、掘り出し物が無いか見ようか』
露店には日用品から、食料、武具類まで多岐にわたる。新品、中古、使用に耐えられるか怪しい品々(ガラクタ)も
「うん?」
そんな多くの露店の中、骨董品の中に、カンイチの気を引く物が。羽を模した鞘に入った一振りのナイフ。手に取って見れば、少しだが気配を感じる……”魔剣”と言われる物だろう。
「抜いて良いか? 主人?」
「お! 兄ちゃん! お目が高い! そいつは、魔剣だよ! 魔剣!」
「そうかの? 全く力を感じぬが……。ふむ、魔剣じゃ高かろう。ワシは装飾が良くて手に取ったまでじゃ。邪魔したの」
抜かずにそっと元の所に戻す。さりげなく。腹の中ではすでに交渉は始まっている
「かぁ! 惜しいね! 今ならお安くするよ! お兄ちゃん!」
「魔剣なんぞに興味はないし。じゃぁの」
「おっと! 待ってくれ! ……金貨5枚でどうだ?」
「はぁ? 普通のナイフに金貨5枚も出さんわ。それに”魔剣”じゃったら随分とお安いの。偽物か?」
「……魔剣の部類のはずなんだがな。ま、実際の話、さっぱり使えねぇ……魔導士に魔力入れてもらったんだがなぁ。無反応……場所は取らんが……で、4枚でどうよ?」
「は? 場所は取らんじゃろが。置いておけばよかろうに? 2枚なら考えても良いぞ?」
「2枚はキツイ。が、なんだかんだで売れ残って、もう10年以上一緒にいる。いい加減見るのも嫌だし、刃も厚くて普段使いにも使い辛い……3枚でどうよ? 兄ちゃんが言うように美術品としても良い所だろう?」
「……ま、良いか。そこの小さい青い石も付けてくれ」
濃い青色……深海の海のように鈍く輝く10円玉くらいの真球の物体。
「おっと! そりゃ、いくらなんでも、こみこみで4枚がやっとだ」
「わかった商談成立な!」
「ああ。まいどぃ~~。大事にしてやってくれ」




