うん? なんじゃ? アールよ?
……
「どうしたんだい? カンイチ? 何かあったのかい? 随分と嬉しそうだね!」
園丁から米の存在を知ったカンイチ。念願の米だ気分も上がろうというもの。
「そうかの? そう見えるかの? アールよ?」
ふんふんと鼻歌を歌いながら現れたカンイチ。今にもスキップしそうだ。
誰がどう見ても、浮かれてるようにしか見えない。
「ああ。どっから観ても上機嫌だ。カンイチの事だ。なんか珍しい野菜でも見つけたのか?」
「お! おお! 良くわかったの! ガハルト! 米じゃ! 米!」
「コメ? なんだそりゃ?」
「コメですか? カンイチさん? 聞いたことないなぁ」
「コメ? ああ! 米か! あれ、あんまり美味しくないぞ? カンイチ」
「うん? アールは知ってるのかの? 米?」
「うん。もちろん! エルフの国でも作ってるよ。粟やら、稗と煮たりして? ありゃ、坊さんの食べ物だね! あ、栗と一緒に煮たのは好きかも!」
「ふぅむ。煮て食うのか……。うん? 栗もあると……ふむ」
「そうだよ? 生だと硬くて食えないぞ? カンイチ。あとは馬の餌?」
「馬の餌かよ……。煮るのじゃなく炊くのじゃが……ま、後は見つけたらの!」
「うん? そこまでカンイチがはしゃいでるんだ。カンイチの元の世界にもあったの? そう考えるとちょっとは期待できるね! 楽しみにしてるよ! そろそろ、ナラ君が迎えに来る頃だね! 美味しいお店だと良いなぁ!」
「それではご案内いたします」
馬車で迎えに来たナラ女史。
「世話になるの!」
「うっはぁ! 楽しみだ! なぁ! ミスリール!」
「母ちゃん……あんまり、ハメ外すなよ……恥かしいから」
ここでの窓口はアル中一家のダイインドゥ一家だ。そして、レストランで待ち受けるのもアル中族のドワーフ族だ。大量の酒が消費されることになるだろう。
賑々しく話しながら足元軽く馬車に乗って行く。
「……だいじょぶかの? 親方達?」
「……ま、大丈夫だろう? 帰らんと言ったら置いてけばいいだろうさ。お仲間も来るんだろう?」
「まぁな。呼びに行くと言ってたで」
「僕も呑むぞお! 付き合ってね! カンイチ!」
馬車に乗って行くガハルト、アールカエフ。
カンイチはフジと共に走って行く気だ。
「おう……ほどほどにの。フジも念話はワシらだけで頼むの」
『ふむ? 我の挨拶は要らぬのか?』
どうやらフジは挨拶する気、満々だったらしい
「無駄に騒ぎになるで……頼むぞ」
『任せろ。お爺』
「……頼むぞ。挨拶や礼が言えることは素晴らしいが、魔獣殿じゃの……」
『くどい! 任せておけ! お爺!』
「……カンイチ」
「うん? なんじゃ? アールよ?」
そこには目を見開くナラ女史、そして御者の方が。
もちろんその視線はフジに注がれる。カンイチとフジのやり取りが聞こえていたらしい。
「やってしまったか……の? わし?」
「うん! 今のはカンイチが悪い!」
『だな。お爺がしつこいからだ』
「すまん……」
その後、フェンリルということは伏せ、適当にお茶を濁す。が、時すでに遅し。
ガハルトが、御者の名を聞きだして口外無用と念を押す(脅す)。バレたら、ナラ女史と御者しか知らぬと
ガハルトの凶面にコクコク頷く御者…。カンイチのせいでとんだとばっちりだ。知りたくもないことを教えられて
それを見ていたナラ女史は息をのむ。こちらは言わなくともギルド職員だ。守秘義務だってある。逃げ道など無い
(すまなんだ……)
そっと手を合わせるカンイチであった。
……
「おうおう! 来たな! 来たな! 歓迎するぞい! さぁ! さぁ! 入って飲めぇ!」
店の奥には小さい爺ちゃんがズラリ。ドワーフ族の面々だ
そう、ここは酒好きのドワーフ族の宴席。大きな樽が持ち込まれており、そこから直に酒をジョッキに汲んで飲む。もうすでに始まっており出来上がってるようだ。
樽の酒は恐らく蒸留酒。部屋の中はアルコール臭が充満している。
『臭い……な』
入る前から鼻をヒク付かせていたフジ。
あからさまに不機嫌な顔に。そもそもアルコールは生物にとっては毒だ
これは不味いと、
「親方、わしはフジと食事して帰るわ」
と、宴会辞退を申し出る。
「うん? カンイチ? どうしたんじゃ?」
「ほれ、酒臭が濃すぎじゃ、ここは。フジの機嫌が悪いわ……」
クシュン! くしゃみ一つ。酒樽を睨みつけるフジ。このまま酒樽を魔法で吹き飛ばし、破壊しそうだ
「じゃ、俺たちも……」
「いや、ワシが抜ければええで。この後はガハルトと親方に任せるわ。鍛冶師の連中にも悪かろう。せっかく歓迎してくれとるでの」
「そうだな……この町で世話にもなるしな。ああ、後は任せろ!」
「うむ。残念じゃがの。後はワシらが務めよう」
「なら、僕も抜けるよ。カンイチ」
「うん? アールはでればよかろ? 楽しみにしてたじゃろが」
「僕たち夫婦だろ? たまには二人っきりでも良いじゃない? ね?」
「……お、おう」
『お爺……我がいる事、忘れるなよ』
「おう……」
……
知りたくもない事情を知ってしまったナラ女史にもう一部屋準備してもらう。フジの事を知らねば頭の上に”?”を付けているところだが。わかりました! と二つ返事。急ぎ交渉してくれた。
「ふふふ。久しぶりだね! カンイチ! 二人っきり」
軽くグラスを合わせる二人。
「うむ。出会った頃は良く飯に行ったの」
「うん。うちでキノコ焼いたり?」
「うむ。マッタケ美味かったの」
「僕は、お肉の方が美味しかったけど! だって魔猪だし?」
「本当に肉食エルフじゃな。アールは。ふふふ」
にゅうと、テーブルの上に顔を出すフジ
『……我がいる事、努々忘れるでないぞ?』
「おう。フジもこっちこい」
「うん! 一緒に食べよう! フジ殿!」
『うむ』
……




