こ、米があるのか?
……
ナラ女史の案内でその貴族の別荘に向かう。
なんでも、あちらこちらに別荘を持ち、放蕩で有名な伯爵家の当主が亡くなったとか。その折りに身辺整理をし、多くの別荘、趣味で集めた絵画類が売りに出されたそうだ。
この物件については、未払いの刀剣類の代金としてギルドで差し押さえたそうだ。本当にやりたい放題の御仁だったらしい。女性関係の話と、御落胤の話が出ないことが、唯一の幸いだとか。
そんな話を聞きながら、別荘に到着。
大きな建物、広い前庭、多くの客をここに呼んで、楽しんでいたのだろう、大きな厩と乗馬場までもある。
その広大な敷地内の管理に、引き続き園丁(馬番兼務)と屋敷内の掃除等を行うメイド長とメイドが数人そのまま雇われているらしい。その辺りも金回りのいい鍛冶師ギルドならではだろう。
「ようこそ。いらっしゃいませ」
園丁とメイド長の出迎えを受ける。話によると夫婦らしい。
「この方々は、ギルド長の御友人の親方衆です。しばらく滞在されますので。お願いします」
「はい」
「お任せくださいまし」
先にハクとクマ達を庭に。ハクについては園丁が世話をしてくれる
「どうぞこちらに。ふふふ。表と違って中は質素でしょう? 多くの調度品や美術品は売りに出されてしまって」
屋敷の中を案内される。メイド長の言う通り、派手なものは一つも残っていない
売れなかったのか、ある意味、慈悲? か、この建物の前の持ち主だった伯爵の肖像画が空しく玄関に飾られているのみ。
当時の栄華は何処に
「ふぅ~~ん。この人が放蕩伯爵? で、今はお家はどうなってるの?」
と、アールカエフが訪ねる。
「はい。財産は大分目減りしたようですが、マインお坊ちゃま……マイン様の手によって堅実な領地運営がされています。信用の回復も」
「そりゃぁ良かったね! 領民の為にも。そういった遊興費は増税やらで賄われてたりするでしょ? 民を金を生み出す道具くらいにしか思っていない頭のおかしい連中がこういった馬鹿をする」
「……」
「お亡くなりに……ね。毒酒でも賜ったかな?」
「おいおい。アールよ。他所のお家のことだぞ」
「ま、良くある話さ。気に障ったらごめんね」
「……いえ」
「で、では、お休みください。夕方の早い時間にわたしがお迎えに上がりますね。は、ははは……」
――ナラ女史、動揺しすぎじゃて……。こりゃぁ、アールの言う通りのようじゃな。であれば、民にとってはこの上なくの慶事となった訳じゃなぁ
と、愛想笑いを振りまくナラを不憫に思うカンイチ。
「……では、休ませていただくかのぉ。あ、一点。狼、一頭だが屋敷に上げる。不本意じゃろが……許してほしい。入る前には”洗浄”を掛けて綺麗にするで。少々特殊での」
と、わきを歩くフジの首を撫でる。できた魔獣殿だ。既に己に”洗浄”済みだ
「はい。解りました。お食事等はいかがされます?」
「そうさなぁ。朝食だけ準備していただこう。折角外国に来たんだし。夜食は外で摂るようにします」
「承りました。ご自分の自宅のようにおくつろぎくださいませ。御用の際には遠慮なくお呼びください」
メイド長とナラ女子に礼を言い、お言葉に甘えて寛ぐことに。
「さてと。まさかこんな屋敷をあてがわれるとはのぉ。広すぎじゃわい」
「ま、狭いよりは良いさ。ふぅぅう」
そう言って足を投げ出すディアン。
「夜は宴会かぁ! 楽しみだね! 母ちゃん!」
と、こちらはドワーフ一家。
「楽しみだな。じゃ、少し昼寝でもするかな」
その場でごろりと横になるガハルト。でかいから、通行の邪魔だ。
「ええ? 街行かないんですか? ガハルトさん?」
「はぁ? イザック君! 「イザーク君じゃ」 街の散策は明日からだろう!」
「そうじゃな。今はゆっくりと……で、なんで皆、ここにおるんじゃ? 大きな屋敷、部屋は沢山あるぞ……特にガハルト。邪魔じゃ」
暖炉の間に何故か集まっているカンイチ一行……
「なんとなく?」
はて? とアールカエフが応える。
「ま、もうワシらは家族みたいなもんじゃての、はっはっはっはっは!」
と、ダイインドゥ
そう。此処にいる者は気の知れた仲間だ。
「……そうじゃな」
――天涯孤独……最初はどうなるかとも思ったが……
ぐるりと見まわし、良い仲間に恵まれて良かったと思うカンイチだった
……
クマ達の様子を見に来たカンイチ。
ハクはゆったりと乗馬場で寛いでいる。
クマたちもまた、各々、犬小屋の屋根で日向ぼっこしたり、草の上で寝転んだり。
カンイチの姿を見つけると駆け寄ってくる。
「おう! よしよし。今日はゆっくり休むんじゃぞ。1~2週間ここにおる予定じゃ」
わしわしと犬達を撫でる。
「良く懐いていますね。馬も嬉しそうだ」
園丁兼、馬番の男が話かけてきた。
「ええ。わし……私たちの仲間です。大切な」
「そうでしょう、そうでしょう」
年は50に届くか。動物たちを見る目に愛情が見て取れる。ハク等を預けても大丈夫だろうと。
園丁にこの町について色々と聞いてみる。フィヤマと同様、大掛かりな畑は東の門を抜けた第二の町。城門の外、”城外町”を抜けた先にあると
場外町と言っても、内陸にあり、安全という。同じような場外町は北門の先にもあると。
西門の先は草原となっており、さらにその先、”不死の山”から溢れる水脈による広大な湿地が広がっている
湿地帯は”山”から大分離れてはいるが、魔物や魔獣の跋扈する危険地帯になっており、冒険者や狩人の生活の場にもなっている
「大昔は湿地の際まで町があったそうですよ。”氾濫”で魔物共の領域になったそうですが」
「なるほどの。そうやって、せめぎ合ってるんじゃな」
「昔はその豊富な水を使って米も結構な量栽培されていたとか」
ピクリと反応するカンイチ。
「な! こ、米があるのか?」
「は? はい? ええ、昔の話ですよ。今は北の方で少しですが栽培されているくらいです。あまり美味しくないようでございますよ」
夢にまで見た、お米……白米……ご飯……。
「か、買えるかの?」
「時期的にどうでしょうか……量も知れてますから」
「そうか……」
が、米が存在することが知れた! カンイチにとっては何よりの情報だ!
「米か……」
”ぅおん?”




